めんどくさがりの魔法使い

沢庵

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ⅩⅠ

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 一瞬にして青い光に包まれて、「あれ、これ師匠の魔法陣じゃね?」と気がついた頃には見たことのある景色が目の前に。
 草木と花に囲まれた東屋に屋根から草が生えている煉瓦作りの家、大魔法使いマーリンの自宅である。

 何故騎士様が師匠の魔法陣を持っているのか。あぁ、でも王弟なら師匠を知っているか。むしろ私が騎士様を知らなかったこと自体奇跡である。興味なかったからしょうがないでしょ! 

「チヴェッタ殿?」

 何も話さない私を不思議に思ったのか、騎士様が私の顔を覗き込んでくるので「大丈夫です、とりあえず降ろしてください」と私を抱き上げたままの騎士様に言うと

「逃げられそうだから嫌だ。それに、俺の記憶を何故封印したのか、貴女の口から聞いていないからな」

 早く白状しろということだろうか、私を降ろすどころか抱き上げる腕に力が入る。
 言いたくなんだけど。と騎士様の様子を伺うが、眉間に皺が寄っている。どういう感情が渦巻いているのかは分からないが、私の問題に巻き込んでしまった以上、正直に理由を説明したほうが賢明だろう。

「騎士様の記憶を封印したのは、国王陛下から求婚を受けていた為です。望んでではありませんが、一応国王陛下の求婚を受けている身で、そんな中騎士様と関係を持ってしまい、騎士様に危害が及ぶのを防ぐために記憶を封印させていただきました。騎士様の記憶さえなければ、真相はわからないままにできると思ったので……申し訳御座いません」

 「本当にすみません」と頭を下げると、頬に手を添えられて顔を上げる。
 絡まる視線、あぁ、この人の目は深い青だなと何となしに思った。

「ということは、俺の身を案じて記憶を封印したんだな?」
「はいそうです」
「俺が嫌で封印したわけじゃないんだな?」
「まぁ、嫌だったら一緒にご飯たべませんし」

 嫌いなものは嫌い。という性格なので、めんどくさい時をのぞいて、嫌いなものと一緒にいるということは滅多に無い。ということは騎士様のことは少なからず嫌いというわけでは無いということだ。
 好きか、と聞かれれば首を傾げるが。食べ物に釣られているというのもあると思う。

「嫌いじゃない、嫌いじゃない……ははっ!!」

 「今日は最高の日だ!!」と突然笑い出したかと思えば、私を抱いたまま、騎士様がくるくる回り始めたので小さく悲鳴を上げる。
 待って、人に抱き上げられたまま動くのって結構こわい!

「ちょっ答えたので降ろしてください!!」
「結婚しよう、チヴェッタ殿」
「なんで!?」

 「人の話聞いてました? 私降ろしてっていいましたよね!?」と叫ぶが、安定の人の話を聞いていない騎士様は、

「式は盛大に行おう、場所はどこがいい? そうだ、ヘルラー様に立会人をしてもらうのはどうだ? そうだ、チヴェッタ殿は東の大陸出身だったな。あちらの慣習にのっとった式にしようか?」

 「どうだ?」と長々話し続ける口が一瞬とまった隙を狙って、騎士様の口を手のひらで覆う。

「はい、落ち着いてください。あ、手のひら舐めたら今度こそ記憶封印するので覚悟してください」
 
 「わかったらうなずいて」と言えば、目を大きく見開いたまま頷く騎士様。
 黙っていればいい男なのに、勿体ねぇな。という感想を心の中で持ちながら、騎士様の口を塞いだまま、私の気持ちをはっきり伝える。

「まず、結婚はしません。騎士様とはしない。というわけでなく、めんどくさいので誰ともしないということです。次に、国王陛下から逃がして下さりありがとうございました。しかし、それで兄弟仲が悪くなるのは私としてもあまり好ましくないので、仲直りしてきてください。その間に私は国外に逃げます。騎士様には返し切れない恩がありますが、魔物から助けた時のでチャラにしてください」

 「お世話になりました」と、何とか騎士様の腕の中から抜け出して、今後の動きを考える。
 王様の側近たちに無理矢理連れて来られたので、店はそのまま。なので町に戻りたいのだが、今戻ったらまた捕まるだろう。
 それに国外に出ようにも、国境に沿って張られている結界の所為ですぐに王宮魔法使いにバレる。破るのは簡単だけど、破った穴から魔物が入って行くのも嫌だし、師匠に出た後の修復を頼めばいいか。店も一旦師匠に預けよう。

「よし、わかった。そうするっきゃない」
「何をどうするんだ馬鹿娘」

 「ぎゃっ!!」と突然背後から聞こえた声に悲鳴を上げれば「まーたやらかしてきたな?」と溜息を吐かれた。

「……マーリン師匠、お久しぶりです」
「おう、ルーチェ久しぶりだな。お前老けたなー、若々しさがないぞ」
「百越えの爺に言われたくないです」
「うるせぇ、好きで長生きなわけじゃねぇよ。ところでロート坊ちゃんはなんで固まってんだ?」

 「おーい」と騎士様に声をかける師匠だが、全く微動だにしない。
 が、突然騎士様の頬に流れ落ちはじめた涙。師匠が「ルーチェ! お前何言ったんだ!! お前の言動はたまにキッツイから気をつけろっていっただろ!!」と育ての親らしい言葉を言ってくる。

「一生結婚しないっていっただけですー」
「あーもうお前男心ってものを分かってねぇな!!」
「ある本では結婚しないで遊んでいたい、という男心があると書いてましたけど」
「そういう男の男心じゃねぇ!」
「私女なのでわからないですぅ。あ、師匠、私の店を頼んでもいいですか? あと国外に出るので出た後の結界修復をお願いします」

 「騎士様も冷静になってください」とポケットにいつから入っていたのか不明の皺くちゃハンカチを渡そうとすれば、勢いよく右腕を掴まれてまた悲鳴を上げてしまった。

「……チヴェッタ殿、国外へ出るなら私も一緒に行こう」
「いや、結構です。落ち着いてください、騎士様は王弟でしょう? 勤めがありますよね?」
「騎士団長は今日付けで辞任した。それに王との血の繋がりはない。俺は自由だ、だから貴女について行く。結婚してくれなくてもいい、だから側においてくれ、……頼む」

 涙を流しながら、縋るように私の右手を握りしめる騎士様に、私はどうしたら正解なのかわからず、困ったように笑いながら、師匠をチラ見。
 助けろと目で合図するが、師匠は首を勢いよく横に振っている。

 魔法使いは総じて色恋沙汰から離れているか、面倒臭いと逃げている人が多い。師匠も逃げている口なので、どうしたらよいのかわからないのだろう。いやでも、年の功でどうにかして欲しいのですけど……。

「あー、あールーチェ、お前結婚したらどうだ?」
「……師匠、そのご自慢の口髭剃ってあげましょうか?」
「いやいやいやまて! だって結婚しちまえば国王との結婚は回避できるしうまくいけば店も再開できるんだぞ?」
「損得で結婚なんて騎士様に失礼でしょうが! 髭だけでなく髪も剃りたいようですね!!」

 空いた手で師匠に向かって風の魔法陣を投げつければ「ぎゃっ!」と悲鳴を上げながら避けられた。
 避けるんじゃねぇこのくそ爺!! ともう何発か魔法陣を投げつけてやろうと、手のひらに魔法陣を何枚か発動させようとすると、左手も掴まれて「邪魔すんじゃねぇ!」と掴んだ相手を睨みつけようと振り向けば

「損得での結婚でいい。俺を利用してくれ、チヴェッタ殿」

 涙の痕を頬に残したまま、騎士様は言う。
 冗談も程々にと、手を振り払おうとするが、手は力強く握られていて、その深い青の瞳から視線を離すことが出来ず、私は「……条件付きで、結婚をお願いしたいです」と頷いた。




*




条件一、ロート・レオーネは好きな人が出来たらすぐさまルーチェ・チヴェッタへ伝えること。
条件二、ロート・レオーネがこの結婚をやめたくなった場合、すぐさまルーチェ・チヴェッタへ伝えること。
条件三、離婚となった場合、ルーチェ・チヴェッタはロートレオーネに結婚年数×(国の最低賃金×十二か月)を支払うこと。
条件四、ルーチェ・チヴェッタはロート・レオーネの行動を制限したりしないこと。


 この四つの条件とルーチェ・チヴェッタとサインを書いた紙を騎士様に渡す。
 魔法のインクと呼ばれる契約に強制力を持たせるものを使っているので、正式な契約としての効力があるものだ。
 
 なのに何で騎士様はむすっとした顔をしているんですかね。イケメンなお顔が台無しですわよ。

「不満なら契約内容変えますけど」
「……いや、離婚さえしなければいいからな。それよりもチヴェッタ殿は俺に対して条件はないのか?」
「特にありません」

 「今まで通りどうぞ。あ、別居でもいいですよ?」と言えば、騎士様は頭を抱え始めた。
 騎士様の立場を利用するつもりで結婚したのだから、これ以上迷惑はかけられない。王様が王妃を迎えたら離婚せねばなーなんて思いながら、『結婚四か条』を書いたインクで『結婚届』の妻になる人という欄に名前を書く。
 正直この紙をみるとは、しかも名前を書くとは思ってもみなかった。人生色々にもほどがある。

 あまり上手いとは言えない字で名前を書き、騎士様に渡す。
 綺麗というか真面目そうな字で、夫になる人と書かれた欄に名前を書いていく騎士様に性格と字が一致してるなぁなんて思考を逃避行させていた。

「これを国に出したら完了だ。だが陛下が止めるかもしれない、管理課の知り合いに魔法で送ろう」

 「いいか?」と騎士様に尋ねられ、問題ないと頷けば『結婚届』は一瞬にして消え去った。転送魔法か、王宮魔法使い以外で使える人をみたのは久々だ。
 初めて騎士様をみたときに、随分模範的な魔法を使うなとは思っていたが、下手な魔法使いより魔法の扱いは上手いのでは。

 結婚届が受理されたのだろう、騎士様の知り合いだという管理課の人の使い魔らしい、黄色い羽のインコが受理書と共に転送されてきた。 

 使い魔は受理書を騎士様に渡し、≪ レオーネ様、主から伝言です ≫と古語で伝えたのちに、嘴を大きく開く。
 すると女の人の声が聞こえてきた。

『レオーネ結婚おめでとう! 言われた通り即行で承認したから、約束守ってね! じゃあね!』

 ブツッと音が切れ、使い魔の嘴が閉じられ、≪ では ≫と古語で呟いてから飛び去って行った。
 律儀な鳥だなぁ、古語を理解できる魔法使いは少ないのに。……もしかして騎士様、古語話せるのか。

「チヴェッタ殿、これで俺たちは夫婦だ。よろしく頼む」
「こちらこそ、こんな奴ですがよろしくお願いします」

 ≪ ところで、今後どうします? ≫と、何となしに古語で聞いてみたら

「チヴェッタ殿の家に住むことは可能だろうか?」
「あーうーん、狭いですけどそれでいいならば?」
「貴女が働いて守ってきた家だ、狭いなんて問題ではない。あと俺は古語を聞き取れるが話せはしないぞ」

 「あの発音は無理だ。チヴェッタ殿は凄いな」と心から思っているのか、真顔で褒めてくる騎士様の顔が恥ずかしくてみれません!

 「試すようなことをしてすみませんでした」と謝り、席を外してもらっていた師匠を呼びにいく。
 そんな私の背中を、愛おしそうに見つめる男がいたことなんて、私が知る筈もなく。どちらかといえば、視線を感じて「ひえええホントすんませんさっさと師匠呼んできます!」と焦っていた。


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