毒薔薇姫は運命を変える?!

刹那

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一章

4話 ~許せない思いと優しさ~

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机の上に並べられた宝石のようなデザートたち。
流石公爵家のパティシエ、見た目もさることながら、味も一流だ。

なのに、喉を通らないのはこの空気のせいだと思う。

カトレアの目の前には明らかに偽りの笑顔でお父様と話す婚約者、クラウド様がた。

気まずい。
あのまま、森に居たかった。

遡ること数時間前。

********

カトレアはいつものように読書や淑女としての礼儀作法、勉強に励んでいた。公爵令嬢だけあってなかなかハードスケジュールだが、夜勤がないのだからましなのかもしれない。

そして、前世の記憶を思い出してからカトレアには新たな趣味ができた。それは、薬草作りと治療魔法である。
しかし、残念な事にカトレアには殆ど魔力がなかった。できる事と言ったら頬に当たったかあったてないか分からないほどの風、手元を照らすことしかできない炎、雫程度の水、などなどと生活でちょっと役にたつかな~程度である。
薬草作りは元々本を読んだり実験は好きだったカトレアはどんどんハマっていき今では本を読むだけでは飽き足らず、公爵家の広い土地を使い。日々薬草を探し研究をしている。

そして、今屋敷を抜け出し森の中にいた。

「あ!あった。オトギリソウ!」

これは、煎じた液を飲むと炎症を起こしてしまうがすり潰して塗ると傷の出血や腫れを抑えるのだ。

「ぐぅぅぅ…。」

ついつい、夢中になり気付けばかなり時間が経ってしまった。

そろそろ、お昼かな。

何故わかるかって?
それは、この正確なお腹の虫のおかげだ。

くっ、こんなに若いのに女子力のなさ、泥だらけの時点でないのか女子力なんて、いやそんな事ない。断じてない。

「お嬢様!まったく、こんな時間まで!」

目を細めたら見えるくらいの場所からサラが走ってくる。
その度に巨大な胸が揺れている。
クソ、羨ましいぜ。
わたしだって大きくなれば…きっと!

そんな事を考えていると目の前にまでサラがやってきてカトレアの姿を見て青ざめる。

「泥だらけじゃないですか!1時間後に殿下がいらっしゃいますと報告したはずですが。」

え?今、なんと?
聞き間違いだろうか。きっとそうだ。

「えっと、サラ?今なんと?」

「ですから、殿下がいらっしゃいますよと何度も言っているではないですか。お嬢様の事ですから聞いていなかったのでしょう。」

サラちゃん。
大正解!まったく聞いてなかった。

「あははは。」

「笑い事じゃありませんよ。」

「まったくお嬢様は。」と屋敷に引きずられる。

サラちゃん、華奢な腕のどこからそんな力が?!

その後、目にも留まらぬ速さで頭のてっぺんから爪先までくまなく綺麗にされた。

********

そして今に至るのだ。

「…………。」

「殿下、お食事はお口に会いましたかな?」

「えぇ、とても美味しかったです。」

優しい笑顔を見たら前の私なら舞い上がって居ただろう。

少し安心した。もし会ってクラウドを好きだったらとヒヤヒヤしたが、全くドキドキしない。
それもそうだ。相手は10歳で子供カトレアは前世も合わせれば35アラサーだ。

まぁ、目の保養にはなる。
念のため言っておくがショタが好きな危ない大人ではない。

「…ローズ公爵殿、お願いがあるのですが。カトレア嬢と庭を散歩させていただいても?」

「是非とも!カトレアは少し内気なとこがありまして、本当は優しい子なんです。」

いらないから。子供自慢とか。
何ですかその、嬉しいだろ?お父様が気を回してやったよと言う目は。

「迷惑極まりないです!」と言えるはずもなく。
そんな事この空気で言えたら勇者だ。

そして、2人で庭に出たのはいいもののお互い何も話そうとしない。

「……………。」
「……………。」

結局何も言えず、ただいまカトレアは沈黙と言う苦行を強いられていた。

もちろん、家だからと言って殿下が来ているのだ。しっかり護衛をつけているからは完全に2人きりと言うわけではない。だからと言ってこの空気が緩和されるはずもないのだが。

「サラ、助けて」と目線で送ってみるがウインクが帰って来た。

頑張れって事ですか。
ちくしょう!めちゃめちゃ可愛いよ!

「…えっと、良い天気ですね。」

私偉い。頑張った。めっちゃ頑張ったよ。

「…………。」

まさかのスルー。確かに話題として、どうかと思ったけども、無視はないんじゃないでしょうか。

「…、単刀直入に言うが俺はお前を婚約者とは認めていないし、結婚するつもりはない。」

結婚とか別にする気ないからこちらとしてはとっても有難いんだけどね?でもさ、私の質問を勇気出した問いかけを無視するのは如何なものか。
しかも、睨んでくる始末。

「おい!聞いてるのか。」

カトレアが聞いてないと思ったのだろうより一層不機嫌な声を出す。

「…………。」

ここは、大歓迎ですと素直に言うべきなんだろうか。

何と言うべきか悩んでいると、クラウドは舌打ちをして来た。

一様王子様でしょう。お行儀が悪い。

「いいか。今後一切王妃気取りはやめろ。迷惑だ。」

私がいつ王妃気取りしたって……、はい。しました。確かにしました。でもそれは前の私がやった事で今の私は絶対しません。

訳のわからない言い訳を心の中で叫ぶが目の前の王子に届くはずもない。

「あの、殿下…。」

意を決して伝えようと口を開いた時、目の前に、突然しなやかななにかが飛び出してきた。今のカトレアなら乗ることができる大きさだ。

…狼?

しかし、これを狼と言っていいのだろうか。

「お嬢様っ!」

サラが前に出て来てカトレアの事を呼んだ気がするがカトレアは何故か目の前の狼から一瞬でも目が離せなかった。
一点の狂いもない真っ黒な毛並みは艶やかで瞳は、月を閉じ込めたかのように透き通っている。

狼は足を怪我しているのか、黒い毛並みにべったりと赤黒いものが付いている。

「何だ。この化け物は。」

その言葉をクラウドが発した瞬間狼の瞳が揺らいだ。
確かに、狼とは異なる部分があるが、だからと言って…
カトレアはふつふつと怒りが湧くのがわかった。

「炎の精霊よ、我が手に炎よ、集い来れ、敵を射貫け。」

クラウドは両手を狼の前にかざしあろうことか攻撃魔法を唱え始めたのだ。
カトレアはとっさにクラウドと狼の前に立つ。
クラウドは、目を見開き攻撃を止めようとしたがもう魔法はすでに放たれていた。

カトレアは目を閉じる。すると耳元で少年の声が聞こえた。

『カトレア、俺と契約しぃ。』

姿は見えないし、誰なのかわからないのにカトレアは何故かその声を聞いて頭に言葉が浮かんでくる。

「…、我が名と魂をもって契約する。ミティケール私を助けなさい!」

その瞬間、クラウドの放った炎は青い炎を纏った鳥が食い跡形もなく消えた。

何が起きたのか皆理解できないでいた。しかし、カトレアはただ誰も怪我をしていないことに安堵する。

「…何が起きて…。」

カトレアはクラウドの元に行き、思いっきり手を振りかぶり頬を打った。

相手も同じ子供、たかが10歳の少女の平手打ちでも痛いものは痛いだろう。
カトレアの手もクラウドの頬も赤くなっていた。
クラウドは何をされたのか理解できないのか目を見開き固まっている。
だんだん、理解してきたのだろう顔が林檎のように真っ赤になる。

「お前…何をする!自分が何をしたかわかっているのか?!この国の次期国王に何をしたか分かってるのか!」

叩かれたと理解したクラウドは顔を赤く染め怒鳴る。

許せない。
もう、自分がどうなってもいい。もう叩いてしまったんだからいいたこと言ってやるわ。

「分かってるわ。」

「なっ…!」

「私は、親の権力をかざし、怪我をしてるこの子を殺そうとした。バカ王子に手をあげたわ。」

クラウドの顔はどんどん怒りに歪む。
ここまでくると美形が台無しね。

「こんな化け物を庇って何になる!こんな化け物殺されて当然だろう。」

「…なさい。…めなさい。」

喉に言葉がつっかかり上手く出ない。

「言いたいことがあるならはっきり言え!」

できるだけ冷静に言ってやろうとした。
大人の余裕?
そんなもの、必要ない。だって私は10歳の子供だもの。

「謝りなさいって言ったのよ!この子が化け物ですって!貴方の方がよっぽど化け物だわ。酷い目にあったこの子に何をしようとしたの!貴方にこの子の命を奪っていい権利なんてないわ。貴方だってこの子だって必死に生きてるの。私達と同じように一生懸命生きてるの。そんなこともわからない貴方にこの国は守れない!次期国王ですって?笑わせないで、国民は国王の為にあるんじゃない。そんな事もわからない貴方に王子と名乗る資格も、国王になる権利もない。」

カトレアは、ぐちゃぐちゃになる感情を抑えるように下唇を強く噛む。
振り返り、狼にこっちに付いてくるように、目で訴えるとおずおずと付いてくる。

「サラ、殿下がお帰りになるそうですから見送って差し上げて」

カトレアはもう一度振り返り綺麗に淑女の礼をする。

「この度は何のお構いもできず申し訳ありません。婚約破棄喜んでお受けいたしますわ。」

それだけ言うとカトレアは狼を連れて自分の部屋へ戻ると早速狼の傷の手当てをする。

タイルを濡らし綺麗に血を取る。
そして、今日とったオトギリソウを潰しガーゼにつけて包帯でまく。

「痛かったよね。怖かったよね。」

そう言いながら、狼の頭を撫でる。
すると、狼はカトレアに顔を近づけ頬をザラザラした舌で舐める。
そこで、カトレアは自分が泣いていることに初めて気がついたのだ。

「お前は優しいね。」

カトレアは狼の体に顔を埋め静かに泣いた。
今はこの子しか見てないからちょっとだけ泣くことを許してね。
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