転生したら王族だった

第三章 ‐ 戦争の影

１８２話 秘められた力と、対峙する二人

　シオンは過去の経験からガルムの凶暴さを知っているため、その静かな態度に戸惑いを隠せなかった。

「レイニーさまぁ……本当に大丈夫なんですかぁ？」と心配そうに声を漏らしながら、木の陰から様子を伺い続けていた。

　ガルムの毛皮が洗浄魔法によって少しずつ輝きを取り戻す中、レイニーはその変化を楽しむように微笑みを浮かべていた。

「ほら、シオンくん。意外といいやつかもよ？」と軽く声をかけると、シオンはさらに驚きながらも少しだけ顔を覗かせた。

　俺は、ケルベロスで扱いを少しは慣れているからなぁ～♪ そろそろ……あれが来そうな気がするぅ……

　レイニーが身構えていると、ガルムが甘える犬のようにぺろっと大きな舌で舐められ唾液が大量についたかのように見えた。

「ふっふふふ……ちゃんとバリアで防いだもんね～♪」

　レイニーは余裕の笑みを浮かべながらガルムを見つめた。その巨大な体と強大な力に圧倒されつつも、しっかりと自分を守ることができたという自信が伺える。

「あ、そうだ、忘れないうちに従者の契約をしておくかぁ♪」と呟きながら、レイニーは魔法を使って契約の準備を始めた。ガルムの力を味方につけるための一歩として、従者の契約を結ぶという選択をしたのだった。

　その場で静かに佇んでいるガルムは、特に抵抗する様子も見せず、まるでその行動を受け入れるかのように感じられた。その鋭い目がレイニーをじっと見つめながらも、どこか興味深げな雰囲気を醸し出している。

　一方で、木陰から様子を伺っているシオンは驚きと困惑の表情を浮かべていた。

「えぇっ！？ガルムと契約を結ぶなんて……そんなこと、本当にできるんですかぁ？」と怯えつつもレイニーの大胆な行動を見守っている。

　レイニーの手から発される魔法の光がガルムの周囲を包み込み、静かに契約の儀式が進んでいく中、気付いた。

「ん？ あぁ、そうだった……俺、闇の王なんだよな。」

レイニーはふと自分の立場を思い出しながら呟いた。

「従者契約なんてしなくても、負のオーラを纏ってたり闇属性なら支配下にあるんだったな。」

　その言葉に、ガルムは少し反応したように目を細めながらレイニーを見つめた。その赤い瞳にはどこか納得したような輝きがあり、巨大な体は静かに佇んでいた。レイニーの存在が闇の王としての威厳を示すだけでなく、彼の力を無言で感じ取っていたのだろう。

　一方で、木陰から様子を伺っていたシオンは驚きの表情を浮かべていた。

「えぇっ！？　そうだったんですかぁ？　闇の王って……そんなにすごいんですねぇ……。」と、怯えつつも尊敬の念を抱き始めている様子が垣間見えた。

　レイニーはそのままガルムの姿を観察しながら微笑みを浮かべ、「ふむ、なるほど。これで俺の支配下に入るなら、手間が省けて助かるなぁ。さて、何に使うか考えようかな。」と軽く呟いた。

　森の中での静寂と緊張感が漂う中、闇の王としてのレイニーの存在はますます際立ち、ガルムとの新たな関係がゆっくりと築かれていくようだった。

　「というか……シオンくんも……支配下にあるんだけどねぇ。」

　レイニーはふと呟きながら、シオンの方に視線を向けた。

「わざわざ強制をしなくても、シオンくんなら従ってくれるだろうし。仲が良いから大丈夫だよねっ。」

　その言葉には、シオンとの信頼関係が感じられる。

「あ、でも……一回裏切られたけどね。あはは……。」

　レイニーは軽く笑いながら過去の出来事を思い出していた。その笑顔にはどこか余裕があり、裏切りを乗り越えたからこそ築かれた絆が垣間見える。

　一方で、シオンは少し気まずそうな表情を浮かべながら、「そ、それは……その時は……いきなり従えとかムリですよぅ……。力の差をおもいしりましたからぁ～！」と小声で弁解するように呟いた。その姿には、どこか申し訳なさそうな気持ちが感じられる。

　レイニーはそんなシオンの様子を見て、さらに笑みを深めながら、「まあまあ、今はこうして仲良くしてるんだからいいじゃん。」と軽く肩をすくめた。その言葉に、シオンは少し安心したように頷きながら、「う、うん……ボク、レイニーさまと、ずっといっしょにいますから……」と返した。

「なぁ～ガルム、背中に乗せてよー♪ この辺りの探索したーい！」

　レイニーは楽しげにガルムに向かって声をかけた。その言葉に応えるように、ガルムは静かに伏せの体勢を取り、背中に乗りやすいようにしてくれた。その動作は驚くほどスムーズで、まるでレイニーの言葉を完全に理解しているかのようだった。

「わぁー、ありがとう！やっぱりいいやつじゃん♪」

　レイニーは嬉しそうにガルムの背中に乗り、周囲を見渡しながら準備を整えた。一方で、遠くから木陰で見守っていたシオンは、驚きの表情を浮かべながら呟いた。

「えぇっ！？ガルムがそんなに素直に従うなんて……信じられないよぉ……。」

　その声には、ガルムの意外な一面に対する驚きと、レイニーへの尊敬が入り混じっていた。