転生したら王族だった

みみっく

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第一章 - 出会いと成長

78話 魔王シオン

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 その光景は、かつての威厳ある魔王のイメージを完全に覆し、周囲にいた者たちも思わず目を丸くしてしまうほどだった。

「えぇ~やめなーいっ! 可愛いんだもんっ♪ 仲良くしよぅ!」レイニーは、史上最悪、最強と恐れられていた魔王を強制的に転生させた挙句、おもちゃか人形のように扱い始めた。その無邪気な行動に、周囲はただ呆然と見守るしかなかった。

「えっと、古代の魔王とか元魔王って呼びにくいからぁ……キミは、シオンねっ!なんか可愛くて、そんな感じ~♪」レイニーは一方的に名前を決め、満足げに微笑んだ。シオンと名付けられた元魔王は、文句を言う気力もないのか、ただ困惑した表情を浮かべていた。

「おまえ、勝手に従者契約をしたなぁ……ひどい!」シオンは目をウルウルさせながら、怒った口調でレイニーに抗議した。その姿は、かつての威厳ある魔王の面影を完全に失い、ただの可愛い少年にしか見えなかった。

 そのやり取りを聞いた周囲の者たちは驚きのあまり固まっていた。相手の同意がなければ従者契約は成立しないはずだ。それを強制的に行うには、魔王の強大な魔力とオーラを凌駕するほどの力を持たなければならない。つまり、レイニーが魔王を圧倒的に上回る存在であることを示していた。

 その事実に気づいた者たちは、レイニーの無邪気な笑顔の裏に隠された底知れない力に、改めて驚愕するのだった。

「そうそう……魔石はシオンの中に、そのまま入れておいたからねっ♪ この森の維持と管理を頼むねっ。ちゅっ♡」レイニーは無邪気な笑顔を浮かべながら、シオンの頬に軽くキスをした。この森の魔物や魔獣が弱体化したり数が減ったりするのは困るし、余計な人や厄介ごとが入り込むのも避けたい。見た目は可愛くても、魔石がそのまま残っていることで、シオンには魔力やオーラがしっかりと宿っている。

「ひゃあっ。さっきからキスをするなぁ! わ、わかったからぁ……はぅっっ」シオンは困惑した表情を浮かべながらも、やめろと言いつつ抵抗する気配もなく、逃げることさえしなかった。その姿は、かつての威厳ある魔王の面影を完全に失い、ただの可愛い少年のようだった。

 周囲の者たちはその光景を見て、言葉を失っていた。見た目は確かに可愛いが、シオンから放たれる負のオーラと魔王としての威圧感はすさまじく、近寄ることさえできない。それに、元魔王を知る者たちにとっては、その存在自体が恐ろしく、近づくことなど到底考えられなかった。

 それでも、レイニーの無邪気な行動とシオンの戸惑いが織りなす奇妙な光景に、場の空気はどこか不思議な緊張感と微笑ましさが入り混じっていた。

「シオンってかわいいよね……ぷにぷにのほっぺだしぃ~角が立派だよね!」レイニーは無邪気な笑顔を浮かべながら、元古代の最強と恐れられた魔王の両頬をぷにぷにと触り、頭を撫でてキスまでしていた。その行動に、周囲の者たちはただ呆然と見守るしかなかった。

 ミアとロディー以外の者たちは、かつて最強と謳われた古代の魔王の恐ろしさをよく知っていた。魔王の力は計り知れないほど強大で、一言の呪文で王国を崩壊させることができた。その瞳は冷酷で、まるで闇の深淵を覗き込んだかのような恐怖を与えた。彼の周囲には常に邪悪なオーラが漂い、その存在だけで周囲の生物は生気を失い、恐怖に震えたものだった。

 そして今もなお、シオンからはあの頃と同じ負のオーラと威圧感が漂っていた。見た目は可愛らしい少年の姿に変わったものの、その内に秘められた力は変わらず、周囲の者たちは近寄ることすらできなかった。

 それでも、レイニーだけはそんな威圧感をものともせず、無邪気にシオンを愛で続けていた。その光景は、かつて恐怖の象徴であった魔王のイメージを完全に覆し、場の空気に奇妙な緊張感と微笑ましさを同時に生み出していた。しかし、シオンから放たれる強大な負のオーラと威圧感は依然として周囲を圧倒していた。

「れ、レイニー様、そのシオン様のオーラと威圧感を抑えることは出来ないの?」怯えたリリスが顔色を悪くしながら尋ねてきた。その声には切実な不安が滲んでいた。

「それは、だめだよ。抑えちゃったらさぁ……この森を維持できないし、シオンが力を発揮できなくなっちゃうから。」レイニーは軽く肩をすくめながら答えた。しばらく考え込んだ後、ふと思いついたように続けた。「あぁ、シオンを抑えるんじゃなくて、周りにいる者にオーラや威圧感の影響を無効化する付与魔法を付与すれば問題ないんじゃないの?」

 その提案に従い、レイニーは全員にオーラの影響無効を付与する魔法を施した。すると、周囲の者たちは一斉にホッとした表情を浮かべ、緊張感が和らいでいった。シオンの負のオーラと威圧感は依然として強大だったが、影響を受けることがなくなったことで、場の空気は穏やかさを取り戻した。

 こうして、村人というか仲間が一人増えた。シオンの存在は、恐怖と威厳を持ちながらも、どこか愛らしさを感じさせる不思議な存在として受け入れられていった。
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