転生したら王族だった

みみっく

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第三章 ‐ 戦争の影

147話 リーナの移住

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 次の瞬間、俺たちは村の入り口に立っていた。広がる景色は自然に囲まれた穏やかな場所で、その中には力強さを感じさせる住人たちの気配があり、警備をしている魔物たちが独特な存在感を放ちながら巡回しているのが見えた。

「さ。ここが俺の村だよっ♪」俺は軽い調子でリーナに言ったが、初めての転移で動揺している彼女は、周りをキョロキョロ見回しながら驚き、周囲の魔物たちに気づくと即座に俺に抱きついてきた。

「わぁ! ちょ、ちょっとぉ、ここどこっ!? 魔物に襲われてるぞっ!? って……村人は全員避難してるみたい……というか、ここって廃村じゃないのかぁ?」リーナは俺の後ろに隠れながら、困惑した声で呟いた。

 その指摘の通り、この場所はかつての廃村だ。周囲には村人らしき姿はなく、店も閉じられ、静かな空気が漂っている。現在、この村に常駐しているのは屋敷に住む者たちだけで、シオンが屋敷の近くの豪邸に住んでいるのと、ミアの従姉妹リアナが勝手に空き家に住み着いている程度だ。

 俺は少し腕を組みながら、「そうだなぁ。元廃村で、俺が村を作っている最中なんだよな~」とリーナに答えた。

 リーナの話を聞いていると、獣人が隠れ住みながらツライ生活を送っている現状が改めて実感された。獣人が安心して暮らせる村を作るという考えは良いかもしれないが、獣人たちを探し出して交渉するのも面倒だし、断られた場合、俺の存在が広まりリスクを背負うことになるのは避けたい。結局のところ、『仲間と安心して暮らせる場所』を探していたら仲間が増え、場所を探していたら廃村を見つけて暮らし始めただけなのだ。

「そうなのか。それよりよぅぅぅ……ま、魔物っ!! あいつらヤバいぞ! ぜってーつえぇーってぇぇぇっ!!」怯えるリーナを引きずるように移動を始めた。

「う、うわぁぁ! や、やめろぉぉぉ。おれ、まだ死にたくねぇってばぁぁぁ!! レイニーくんっ!!」怯えるリーナが悲鳴を上げながら引きずられていた。

「大丈夫だってー。村の警備を担当してもらってるだけだし。それに、好きな家に住んでも良いよっ! 今なら早い者勝ちだよー!」俺は軽い調子でリーナに伝えた。

 リーナはその言葉を聞いてしばらく無言で周囲を眺めていた。警備をしている魔物たちの姿や、静かな村の景色に圧倒されているようだった。やがてぽつりと呟くように、「……なんか、ここ夢みたいだな」と言った。その瞳には小さな希望の光が宿っているように見えた。

 俺はその言葉に少し微笑みながら、「だろ? ここは新しいスタートを切る場所なんだ。」と答え、リーナがこの場所で新たな未来を見つけることを願った。

 リーナと一緒に空き家を見回りながら、彼女が屋敷の近くにある一軒を気に入った様子で、「ここに決めたっ! 広さもちょうど良いし……レイニーくんの家とも近いしなぁっ」と笑顔で言った。そのままソファーに腰掛け、少し安堵したような表情を浮かべている。

 俺は首を傾げながら、「もっと広い家もあったのに、ここで良いの?」と問いかけた。

 リーナは軽く肩をすくめ、「だって……家がなかった、おれがいきなり大きな家って緊張するだろ! 落ち着かないと思うしなぁ。ここですら、おれ……ドキドキなんだぞっ」と少し照れながら返事をした。その言葉には、今までの生活から急激な変化を迎えた彼女の不安と期待が混ざっているように感じた。

「そっかぁ。まあ、気楽に暮らせば良いよ♪」俺はそう言って、リーナに優しく微笑みかけた。

 リーナは周囲の様子を眺めながら、「っていうか、店が全部閉まってるんだけど……食料は自給自足って感じなのかぁ~? 狩りと山菜を採る? あ、まーおれ店が開いてても、お金持ってねーけどなぁ」と苦笑いをしつつ、ソファーに横になって寛いだ表情を見せた。

 俺はリーナを見ながら答えた。「必要な分の食材は支給するよ。その代わり、働いてもらおうかな~。」

 リーナは驚いたように少し体を起こし、「お、おぅ。仕事があれば手伝うぞぉ! 家を無料で用意されて、食材も無料とかありえねぇーし。……しかもよぅ、偏見の目や危険もなさそうだし……。おれに出来ることがあれば、何でも言ってくれよっ!」と力強く言った。その言葉には、リーナの前向きな姿勢と新しい生活への期待が滲んでいた。

 俺はその返答に少し笑みを浮かべながら、「よし、それなら頼りにしてるぞ。村の運営は人手がいるからなぁ。」と答えた。

 リーナはその言葉に安心したようで、再びソファーに身を沈めながら小さく微笑んだ。

「だろうなぁ……。何を手伝って良いのか分かんねぇーけど……」リーナは少し困ったようにソファーに座り直しながら呟いた。

「そうだなぁ……野菜の収穫や運搬とか……調理かな?」俺は考えを巡らせながら答えたが、正直リーナにできる仕事がすぐには思いつかない。仕事を頼んでおいて、具体的な内容が曖昧なのはちょっと申し訳ない気もするけど、もともと仕事をさせるつもりなんてないんだけどなぁ……。

 でも、村として増えるなら役割分担とか考えないと……みんなだらだらと過ごすだけの村になってしまう。それは、不味い。
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