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開演
二年前 枯葉の邑にて : 鈴
しおりを挟むお玲様がお琴に会いに来てから、二人はこまめに文を交わすようになっていた。
それはもう、嫁ぐ前よりも頻繁に。
お琴も、嬉しそうだった。
旦那様と私は、何も起こらないことに安堵していた。
だから油断を…油断を、していた。
「城より遣わされました。
奥方様は何処に?」
城から遣わされたその者は医者だった。
お玲様の命で来たらしい。
旦那様は、今、いない。
「は…」
「奥方様の容態を診るようにと、お玲様より仰せつかっております。」
「あ……左様で、ございますか。」
だめだ、ここで動揺しては。
「申し訳ございませぬ。
旦那様がご不在の今、お屋敷の中へは…」
その間に側にいた使用人に目配せをする。
目があった使用人は踵を返した。
お琴は自分の部屋にいる。
きっと向かった使用人が寝所の用意をしてくれる。
病に伏せている格好は取れる。
…格好しか、取れない。
「…ふむ、確かにそうですな。
お戻りはいつ頃に。」
「…すぐに、お戻りになるでしょう。
それまでは申し訳ございませんがこちらで。
茶を…用意いたします。」
「かたじけない。」
医者が上がり框に腰かける。
厨に顔を出し、指示を出してからお琴の部屋へ急ぐ。
「奥様…!」
「お、お鈴…」
お琴の顔が真っ白だ。
「ど、どうしましょう、お鈴…」
「…医者が遣わされることはご存知でしたか?
何か、お玲様から…」
「いいえ!
そんなこと、知っていれば必ず旦那様にも伝えます。
お玲様、からは…」
混乱しながら、お琴が言葉を続ける。
「…いつも、体調について気遣う内容はありました。
いつも…中々、回復しないと…返事を、」
お玲様は、いつも、本当に心配していらっしゃった。
お琴が病だと屋敷に籠りはじめて三年。
まだ治らないのかと、わざわざ城から医者を送った。
こんな日も、いつかは来てしまうかもしれないと以前は思ったこともあったはずなのに。
三年。
油断をしていた。
「……ず、…おすず、お鈴!」
はっとする。
お琴が、私の手をつかんでいた。
「お琴様…?」
「…庭の、水仙を取ってきてください。」
「水仙?どうして…」
「…食べます。」
「な、」
水仙には毒がある。
「お城のお医者様でしたら、本当は病など患っていないことはすぐにお分かりになってしまうでしょう。
嘘を…真にしなくてはなりません。」
「ですが、」
「少量ならば死ぬこともないでしょう。」
「だ、旦那様に…
旦那様を待ちましょう。何か良い案が、」
「旦那様が帰られているのにお医者様をお待たせしたら、それこそ怪しまれます。」
毒と、分かっているものを、お琴に…
「お鈴」
でも、でも…
他にどうすれば
「庭の、水仙を。」
あぁ。
私はまた、なにも…
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