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第九章
Ⅱ
しおりを挟む紅の一回目の命日が来た。
かといってどう過ごして良いのか分からない。
とりあえず紅と出掛けてみようと思った。
一年前はこんなに穏やかに一年後を迎えるとは思っていなかった。
紅の写真が入った写真立てをポーチにいれる。
紅がくれたエメラルドのネックレスをつける。
ポーチを鞄にいれ、家を出る。
良い天気だ。
行き先は近所のカフェ。
こう言ってはなんだが、お客さんが少ない。
落ち着いて長居ができる。
たまに紅とこういうカフェに行って、色々な話をした。
紅は私なんかよりずっと大人びた考え方をしていた。
そんな紅の話を聞くたび、妹の成長に感動して、何故か寂しくなって…でもその時間が好きだった。
注文した紅茶が目の前に置かれる。
鞄の中のポーチから紅の写真を取り出して向かい側に置く。
写真の中の紅は、今日も笑っている。
暫く紅の写真を見つめながら、紅茶を飲んだ。
たまに涙がこぼれたけど、壁際の席だったし誰にもみられてないだろう。
そもそもお客さんが少ない。
何度もそう思うのは、お店側には申し訳ないが。
写真を見ているうちに紅との思い出を思い出しては少し泣いて、を何回か繰り返していると
「あの…大丈夫、ですか?」
急に声をかけられた。
「え、あ、すみませ…」
声の方を向いてハッとする。
春色の可愛い女性。
龍海さんの好きな人が、そこに立っていた。
「あ…」
龍海さんの好きな人も一瞬目を見開く。
私のことを知っている?
そんな馬鹿な。
そもそもなんでこんな所に…
「やっぱり、泣いてる。」
違った。泣いていることに驚かれただけだった。
「あ…えっと、」
「大丈夫ですか?」
優しく声をかけられる。
泣いてぼーっとしている頭はうまく回らない。
「大丈夫…です、」
「お姉さん、名前は?」
「……翠」
可愛らしい見た目に反してハキハキとしゃべる人だ。
何故か有無を言わせない雰囲気を感じる。
「翠さん。じゃあこっちのお姉さんは?」
紅の写真を見て訊ねる。
「…紅、」
「姉妹かな?よく似ていらっしゃいますね。」
「あ…」
また涙が溢れ出す。
「は、い…」
「私、琥珀っていいます。」
琥珀さんが、向かいの空いている席に座る。
「良かったら私とお話ししましょう」
好きな人の好きな人と、妹の命日に一緒に過ごす。
奇妙な状況になっている。
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