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第九章
Ⅲ
しおりを挟む琥珀さんは外見だけじゃなく、内面も綺麗な人みたいだ。
優しく話を聞いてくれた。
穏やかに、けれどしっかりと受け止めてくれる。
普段自分のことを話すのは苦手なのに、何故か話をしてしまう。
こういうところを、龍海さんも好きになったのだろうか。
「なんか…すみません。」
「何がですか?」
「見ず知らずの私の話をこんなに聞いてもらって…」
私にとって琥珀さんは見ず知らず、ではないけれど…
「…見ず知らずじゃないです。」
…え?
「…ほら!今日ここで知り合ったじゃないですか!」
あ…
「そう、ですね。」
「こちらこそ、話しづらいこともあったでしょう。
話してくれてありがとうございます。」
「いえ、妹の話をする相手なんて、いないから…」
「…そうでしたか。
少しでもお力になれたなら、良かったです。」
「…あ、もうこんな時間。
琥珀さん、時間大丈夫でしたか?
私、引き留めてしまって…」
「いえいえ!全然大丈夫ですよ。
…あの、この辺りに住んでいらっしゃいます?」
「え?」
「いや!えっと、良かったらまたお茶でもと思って!
いやなんか急に、ナンパみたいなこと言っちゃった!あはははは…」
なんだろう、急に琥珀さんが焦りだした。
「あ、いえ、そうですね…この辺り、ですね」
「そ、そうなんだ~」
「ふふっ…」
「翠さん?」
「あ、ごめんなさい。
琥珀さん、可愛らしい人ですね。
…紅の命日に笑顔で紅の話が出来るなんて思わなかった…
本当にありがとうございます。」
不思議な時間だった。
こんな素敵な人を好きになった龍海さん、見る目あるなぁ…
琥珀さんはまたお茶でも、と言ってくれたけど、このまま付き合いを続けてどこで龍海さんと会うか分からない。
「…お話、聞いてくれたお礼に、ここは私にご馳走させてください。」
「いえ、そんな…」
「まぁまぁ。」
「…」
「紅も一緒に話してたみたいで、楽しかった。
ありがとうございます。」
改めて琥珀さんにお礼をいい、席を立つ。
「…いえ」
「…また、どこかで、会えると嬉しいです。」
半分、嘘。
こんな優しい人に、ごめんなさい。
「…はい。」
何故か琥珀さんの方が、苦しそうな顔をしていた。
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