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第六章
Ⅳ
しおりを挟む奏ちゃんが、僕に会いたい。
その言葉が僕の心臓を止めたかと思ったら、その次の瞬間には急速に動きだし、体はぐわっと熱くなった。
言葉が、出ない。
『…ごめんなさい…』
奏ちゃんは、この沈黙を拒否と取ったのか、そう言った。
…泣いている。
「…僕も、会いたい。
すぐに行くね。」
堪らなくなって、それだけ答えて電話を切った。
急いで奏ちゃんの家に行こうと振り返ると、琥珀がニヤニヤしながら立っていた。
「今から奏に会うんだ~
お熱いねぇ~」
「奏ちゃん、貧血で起き上がれないって。
相当辛そうだからちょっと行ってくる。」
そう端的に答えながら上着を着ると、琥珀の顔がニヤニヤ顔から真顔になった。
「あ~…温かくするように言っといて。
あと…」
そう言いながら、琥珀は携帯を操作した。
僕の携帯が鳴る。
「今、薬の画像送ったから。
それ買っていって。」
携帯を確認する。
生理痛の薬。
…琥珀は、奏ちゃんのことをよく知っている。
「ありがと。」
「はい、いってらっしゃい。」
そのまま家を飛び出した。
途中薬局だのコンビニだのに寄って、奏ちゃんの家に着いた。
とりあえず着いたことを知らせようと電話したが、出なかった。
道中も何度か奏ちゃんにメールをいれたが、それにも既読はつかなかった。
寝ているだけならいいけれど…余計心配になる。
はやる気持ちのままインターホンを鳴らして一息つく。
走ったのは久しぶりだ。
明日は筋肉痛になっているかもしれない。
息を整えていると
『…はい。』
「奏ちゃん?僕だよ。」
『あ、はい…開けますね。』
そう言って、インターホンが切れた。
…中々出てこない。
それはそうだ。
起きられないくらい辛いのがこんな短時間でマシになるとは思えない。
無理して僕のところまで来ようとしているんだろう。
申し訳ない。
…早く、はやく、
扉が開くまでの時間が、とても長く感じた。
カチャリ、と鍵の開く音がした。
その瞬間、扉をぐいっと開ける。
そのまま部屋に入り、目の前にいた奏ちゃんをぎゅっと抱き締める。
すごく、会いたかった。
奏ちゃんも背中に手を回してくれたが、力があまり入っていないようだった。
「…大丈夫?」
「…はい。
来てくれて、ありがとうございます…」
「うん…呼んでくれてありがとう。」
寒い玄関でこのまま居るのは良くない。
そっと体を離して、奏ちゃんの顔を覗き込む。
目が潤んでいるし、頬には涙のあとがあった。
「…やっぱり。
電話してくれた時から、ずっと泣いてたの?」
「違うんです。勝手に出ちゃうだけで…」
「疲れてるんだね。
早くベッドに戻ろう。
他に辛いところない?」
そう声をかけつつ、部屋の中へ入る。
化粧をしていない顔はいつもより幼く見えた。
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