恋する奴隷のしつけ方

神笠 京樹

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出会い

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「男を知らない、生娘の奴隷が欲しい。自宅用だ」

 という声が聞こえた。エルフの男性のようだった。向こうはエルフでこちらは人族だから、年齢は分かんない。

「ひえっひえっ、お客さんもお好きですねえ。それでしたら、各種族、年齢は一歳刻みで、ばっちり取り揃えておりますよ。ご希望の年齢は?」
「なるべく若いのがいい。種族は……そうだな、人族がよいだろうか」
「種族は人族でございますね。年齢の方は、具体的には……?」
「五十歳以下だ」
「お言葉ではありますが人族で『若い』というのは、もう少し下の数値の場合を申します」
「そうか。細かいところは任せる」
「では、こちらの檻が人族の檻になっております。御気に入られた娘などおられましたら、お気軽にお声がけください。おい、お前たち。生娘はこちらの鉄格子の前に集まれ。そうでない者は、向こうの壁際に」

 と、奴隷商人さまに言われたので、僕は何人かの奴隷仲間の少女たちと一緒に鉄格子の近くに寄っていった。エルフの人はすごいイケメンだ。いいなあ。こんなご主人様に買われるのが僕の夢だったんだよね。自宅用って言ってたし、これはワンチャンある。がんばって愛想つくんなきゃ。

「どれがどんな奴隷だ?」
「まず向かって右ですが、この娘は――」

 説明が始まる。ちなみに、売り物の奴隷は客の前で、許可があるまで口を開くことを許されてはいない。

「で、こちらの娘がですね。ここにいる中では最年少、シエルと言う名で、まだ初潮を迎えてから――」

 ぼくのことである。シエル君だぞ。えっへん。

「ちょっと喋らせてみせてくれ」

 やった! チャンス!

「シエル、自己紹介をするんだ。手短にな」
「はいっ! ご紹介に預かりました、シエルです! まだ未通娘で、男の人は正直まだ怖いんですけども、どんなご命令でも誠心誠意、頑張って御奉仕させていただきますっ!」
「気に入った。この娘にする」
「ははっ! まことにありがとうございます! えー、では金額の方ですが」

 奴隷商人さまは僕の実際上の価格から言えばかなり“ふっかけている”としか言いようのない値段を言ったが、エルフの人、いや、僕の新しい『ご主人様』は鷹揚に言い値で支払いをした。現金払い。

「……また、正当な理由のない殺害と、奴隷身分のままでの放逐は国法で禁じられておりますので、その点は重々ご承知おきのほどを。では、説明は以上です。これにてお引き渡しとなります」
「うむ。……娘、喋ってよいぞ」
「お買い上げ、誠にありがとうございますっ! シエルですっ!」
「名はさっきも聞いた。わたしは、ジェイドだ。来い、シエル。お前にはわたしの家で暮らしてもらう」
「はいっ! よろしくお願いします!」

 で、連れてこられたわけなんだけども。すごい家だった。でかい。立派なお屋敷だぁ。でも、門番の奴隷がいないな。

「そんなものはいない。この家の奴隷は、お前ひとりだ」
「へ? こんな立派なおうちなのに?」
「300年ほど前から使っていた使い魔が死んでしまってな」
「さ、さんびゃくねん」
「とりあえず、風呂だ」
「は、はいっ。薪割りですか? それとも水汲みから?」
「そんなものはいらない。我が家は二十四時間風呂になっている」
「使い魔の方はお亡くなりになったのでは?」
「こちらは契約している火と水の精霊の力によるものだ」
「べ、便利ですね、エルフ族のお方って」
「ここが風呂場だ。入ってこい」
「あれ? ご主人様は? 僕がお背中をお流しするのでは?」
「わたしは夕方にもう入った。入るのはお前だ」

 あっ……そっかぁ。買ってきてさっそく味見するから、身体を清めてこいと、そういうことかぁ……どきどき。

 そりゃもう、すみずみまで、綺麗に磨き上げましたよ。お風呂入るのひさしぶりだってこともあるしね。

 で、脱衣所に出たら、新しい服が用意されていました。下着もあります。えーっと、用意してあるんだから着て出てこいってことだよね。自分の手で脱がせたいタイプなのかなご主人様。どきどきどきどき……

 で、ベッドの近くまでしずしずとにじって行ったら、ご主人様寝てました。テーブルの上にメモがありました。

「長風呂は別に構わんが、待ちくたびれたから先に寝る お前は隣のベッドを使うこと」

 あれ?
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