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初めてのお風呂-1
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日が落ち切るちょっと前くらいに、ジェイド様がお帰りになりました。玄関に飛んで行って、内側から鍵を開ける。
「おかえりなさいませ、ご主人様」
「うむ。シエル、湯を」
「はい、ただいま」
我々の社会では、基本的に履物は玄関先で脱ぎ、そして家の中では素足で暮らすのですが、遠出から帰ってきたときはたらいに湯をくんで、足を洗ってから家に上がるのです。お湯はどうするのかって? 少なくともこの家では、蛇口をひねるだけで出る。火の精霊と水の精霊、ばんざい。でもって、ばしゃばしゃごしごし。
「シエル、もういいぞ」
タオルでおみ足を拭いて、後片付けにかかります。
「わたしは風呂にする。お前は昼間済ませたか?」
「いいえ」
いつ帰ってくるやら分からなかったし、ご主人様に二番風呂を使わせる奴隷があるものかと思ったので、昨日入ったあとはそれきりです。
「そうか。では、その間に食事の支度をしてくれ」
「はい、かしこまりました」
ちっ。用事を言いつけられては、『お背中流しに参りました』とかいって裸で乱入する手が使えない。というか、ごはんの支度はだいたいもう済んでるけどね。昼間、おつかいにも行ってきたし。
で、ご主人様は割とすぐに出てきました。あんな広い風呂というか大浴場を、そんなカラスの行水みたいな入浴のために二十四時間風呂にしているなんて。お金持ちはやることが違うなあ。
「これは?」
「僕の生まれ故郷の料理です。簡単なものですが」
そう、簡単。難しい料理を作らせたかったら専門の奴隷を買ってやらせてほしい。といっても、ジェイド様は料理に文句を言うようなことはしなかった。簡単なものだからって、手を抜いて作ったわけでもなし。
「食器を下げてくれ」
「はい」
僕が台所に行って戻ってくると、ご主人様は部屋から出ていくところでした。浴室の方。
「あれ、またご入浴ですか?」
「ああ。さっきは軽く汗を流しただけだ」
なるほど。自宅に二十四時間風呂を設けるほどの風呂好きなのにカラスの行水なのかと思ったら、そういうこと。よし、これはチャンスだぞ。
「あの。お背中を流しに伺った方がよろしいでしょうか?」
下手に出るのは単に会話上のレトリックである。本当はぜひとも同行させてほしいわけだが(主に性的な理由で)、主人と奴隷という立場の差は絶対であるわけでして。僕は高価で上等な奴隷なので、そういうあたりのことはちゃんと弁えております。
「ふむ。……では、頼むとするか」
少し逡巡のようなものは感じられますが、オッケー出ましたオッケー。
というわけで、少しだけ間を置いて、脱衣所に入ります。脱衣所の次の間、つまり浴室からは水音が聞こえています。僕はとりあえず服を脱ぎました。あと上下の下着だけ、というところで。ふと鏡を見る。この脱衣室にはでっかい鏡があるんです。
半裸の、頬に軽く朱を浮かべた、美しい少女(僕)が映っている。顔だけでなく、スタイルもすらりとしていて、その値に恥じない。胸は大きいというほど大きくないのだが、あのクリスタル写像の人もそんなではなかったし多分そこは大丈夫だ。でも。鏡に映っている人間は、なるほど奴隷かもしれないが、奴隷だって一人の人間。心というものはちゃんと持っている。
というか何が言いたいかと言うとですね、なんか急に恥ずかしくなってきたの。理屈や手管はたくさん教えられているけど、演技とかではなく実際に殿方を直接、性的に誘惑するなんて僕、考えてみると(考えてみなくても)初めてなんだよね……。
というか別に、全部服を脱いでこいって命令されてはいないよな。どうせあとで自分で洗濯するだけだし、構わないよね? えい! 突入!
「おかえりなさいませ、ご主人様」
「うむ。シエル、湯を」
「はい、ただいま」
我々の社会では、基本的に履物は玄関先で脱ぎ、そして家の中では素足で暮らすのですが、遠出から帰ってきたときはたらいに湯をくんで、足を洗ってから家に上がるのです。お湯はどうするのかって? 少なくともこの家では、蛇口をひねるだけで出る。火の精霊と水の精霊、ばんざい。でもって、ばしゃばしゃごしごし。
「シエル、もういいぞ」
タオルでおみ足を拭いて、後片付けにかかります。
「わたしは風呂にする。お前は昼間済ませたか?」
「いいえ」
いつ帰ってくるやら分からなかったし、ご主人様に二番風呂を使わせる奴隷があるものかと思ったので、昨日入ったあとはそれきりです。
「そうか。では、その間に食事の支度をしてくれ」
「はい、かしこまりました」
ちっ。用事を言いつけられては、『お背中流しに参りました』とかいって裸で乱入する手が使えない。というか、ごはんの支度はだいたいもう済んでるけどね。昼間、おつかいにも行ってきたし。
で、ご主人様は割とすぐに出てきました。あんな広い風呂というか大浴場を、そんなカラスの行水みたいな入浴のために二十四時間風呂にしているなんて。お金持ちはやることが違うなあ。
「これは?」
「僕の生まれ故郷の料理です。簡単なものですが」
そう、簡単。難しい料理を作らせたかったら専門の奴隷を買ってやらせてほしい。といっても、ジェイド様は料理に文句を言うようなことはしなかった。簡単なものだからって、手を抜いて作ったわけでもなし。
「食器を下げてくれ」
「はい」
僕が台所に行って戻ってくると、ご主人様は部屋から出ていくところでした。浴室の方。
「あれ、またご入浴ですか?」
「ああ。さっきは軽く汗を流しただけだ」
なるほど。自宅に二十四時間風呂を設けるほどの風呂好きなのにカラスの行水なのかと思ったら、そういうこと。よし、これはチャンスだぞ。
「あの。お背中を流しに伺った方がよろしいでしょうか?」
下手に出るのは単に会話上のレトリックである。本当はぜひとも同行させてほしいわけだが(主に性的な理由で)、主人と奴隷という立場の差は絶対であるわけでして。僕は高価で上等な奴隷なので、そういうあたりのことはちゃんと弁えております。
「ふむ。……では、頼むとするか」
少し逡巡のようなものは感じられますが、オッケー出ましたオッケー。
というわけで、少しだけ間を置いて、脱衣所に入ります。脱衣所の次の間、つまり浴室からは水音が聞こえています。僕はとりあえず服を脱ぎました。あと上下の下着だけ、というところで。ふと鏡を見る。この脱衣室にはでっかい鏡があるんです。
半裸の、頬に軽く朱を浮かべた、美しい少女(僕)が映っている。顔だけでなく、スタイルもすらりとしていて、その値に恥じない。胸は大きいというほど大きくないのだが、あのクリスタル写像の人もそんなではなかったし多分そこは大丈夫だ。でも。鏡に映っている人間は、なるほど奴隷かもしれないが、奴隷だって一人の人間。心というものはちゃんと持っている。
というか何が言いたいかと言うとですね、なんか急に恥ずかしくなってきたの。理屈や手管はたくさん教えられているけど、演技とかではなく実際に殿方を直接、性的に誘惑するなんて僕、考えてみると(考えてみなくても)初めてなんだよね……。
というか別に、全部服を脱いでこいって命令されてはいないよな。どうせあとで自分で洗濯するだけだし、構わないよね? えい! 突入!
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