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5 このひとは・・

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「は、何を暢気な?」


ピクニックがどうしたとかアメリアが言い出した。まだ魔王戦の最中なのに。

私は前方に注意を怠らないようにして、後ろを振り返った。


え?
え?え?

いったい誰?
張りのない手?

聖女アメリアでなくおばちゃん?

おばちゃんかつぶかく。
「ハルナ、戦いはもう終わる・・」

確かに左手に聖痕がある。
右手に太陽の指輪もしている。

だけど・・

たなびく髪は美しい銀ではない。

バサバサの白髪だ。

あれ? 勇者パーティーの危機・・とは

背筋が冷たくなる。

魔力感知、熱感知がいきなり作動する。

こんだけ負荷をかけても太陽の指輪に熱を感じない。

それ自体に力がないとしたら。
ただの媒介だとしたら。

「じゃあ、あのシスティーナがセイントクロスを撃ったときの、異常なパワーの出所は・・」

あそこしかない。

賢者になって明晰になった頭脳が、どんどんと思考を巡らしていく。
一年前とはレベルか違う「鑑定」で太陽の指輪、月の指輪をはじめとするマジックアイテムから、色んな情報を吸い上げていく。

ズキズキズキズキ。
激しい頭痛に襲われる。けど、私の中の「賢者」が「聖女」の解析を止めるなと言い続ける。

やがて賢者の頭脳が、恐ろしい結論を導き出した。



魔王との戦いは終わった。
勇者システィーナと拳聖クリスが走ってくる。


目の前には座り込んで、システィーナたちを優しい目で見つめる「聖女アメリア」がいる。

私はどんな顔をしていたんだろう。泣いていたのかもしれない。

私は座ってアメリアの手を握った。

「馬鹿だね・・。 なんでこんなやり方したんだ。他にやり方はなかったのかよ。馬鹿だけど、あ、あんた本当の聖女だったんだな」



勇者パーティー四人がそろい、騎士団も到着した。


「ハルナ、その人アメリアだよね・・」
「なんでしわしわになってんの?」

「魔力が少ない聖女が・・魔道具を使っても、「太陽の指輪」の制御に失敗しただけ。私の野望も終わりよ・・」

目を閉じたアメリアを騎士アレンが抱き抱え、転移門に向かった。

「帰ろうアメリア」
「ねぇアレン・・」
「うん、頑張ったな・・・・うん、頑張った・・」

アレンだけではない。騎士団の誰も、アメリアの大変化に驚かない。まるで、こうなることを知っていたかのように。


騎士団長が私達の前に出て跪いた。
「勇者システィーナ様、拳聖クリス様、賢者ハルナ様、魔王討伐ご苦労様でした。人類の未来はあなた方の手により、つながれました」

「あ、あのアメリアは・・」
「アメリア様も使命を全うされました」

騎士団にうながされ、転移門でデンスに帰った。

本当は速攻でデンスのギルマスに映像記録装置を渡すはずだったけど、三人ともそのことは頭から抜け落ちていた。




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