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8 『月の指輪』

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「勇者アンは、どうなったんだろう」

「分からないのです」
「誰もとがめてないのに、勇者アンはアイーシャを殺した罪と言って2年間ほど牢屋に入りました。やがて北方で魔物の大量発生の一報を聞くと、牢を出て行方が分からなくなりました」

「残りの2人は?」
「賢者はここに残り、四人分の討伐褒賞金で、医療研究所を設立。今、アメリアが入っている蘇生装置を8割ほど作り上げました」

「8割というのは?」
「おおまかな設計図は残したのですが、ご本人が寿命を迎えられました」
「また拳聖は魔境近くの教会で、シスターをしながら孤児を育てたのではないかといわれています」

「アメリアは心の中で、アン達四人と自分達を重ね合わせたんだね」
「はい。聖女候補として自覚したときから、どうすれば勇者アンの気持ちを救えたかを考えていました」

「結論は出たの?」
「いいえ、出ておりません。だから、「勇者に嫌われる」という手しか考えつかなかったのです」


「だからって、やったことがひどすぎるよ」
「システィーナの言う通りだよ」

「体中に太陽の指輪を制御するための魔道具つけてたじゃない。それなりに勝算もあったんじゃないの」
「伯爵家秘蔵の指輪なんて持ってたよね」

「左手の薬指に付けて、良く月にかざしてたやつ?」
「そうだよハルナ」

「あの指輪を鑑定したら、魔道具なんかじゃなかった」
「え?」
「何なのか知ってるよね、お姉さんがた」


「あれは、勇者に嫌われる旅の中で、ただ一つのアメリアの心の支えだったのです」

「内側にルーン文字が掘ってあった」



『我が妻アメリアよ。残された時間が一瞬であっても、君のことを愛し続ける』




「あれは、ただの結婚指輪だったんだ。聖女アメリアと騎士アレンは、すでに一年前に覚悟してたのさ」

やり方は、愚の骨頂としか言いようがない。

だけどアメリアは最悪のケースでも、勇者が自分の死によって責任を感じない方法を必死に考えたんだ。

魔力量がまったく足りない自分が、神器によって命を奪われる恐怖と戦いながら・・



「認めない」


「だったら泣かないでよ。システィーナ」
「泣いてない・・」

「あんたを泣かさないためにアメリアは馬鹿な真似したんだ。ざまあみろって笑ってやりな」

「泣いて・・なんかない。泣いて・・」



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