2 / 23
1 アルスと王子
しおりを挟む
イザヴェル会戦から数日後、アルス・マグナは首都ミストレアに帰還して早々、王城の一室に呼び出されていた。
「ただいま帰還しました。アウグスト殿下」
「おいおい、堅苦しい挨拶は抜きにしようぜ。俺とお前の仲だ。お前はいつも通り堂々としてればいい」
深々と首を垂れる黒髪の少年に対し、ソファに座りそう語りかけるのはミストレア王国第2王子のアウグスト・ミストレア。
金髪碧眼でその眼光は鋭く、着用している黄金の鎧と相まって、獅子の如き威厳に満ちている。
剣と魔法に秀で、政においても頭角を現し、齢17歳にして第一王子を抜いて次期国王と噂されるほどの人物だ。
しかしアルスに向けて話すその砕けた口調からは親しみが滲み出ていた。
「そうか、だったらそうすることにしよう。ところでアウグスト、今日は一体何の用だ?」
臣下の見ている手前、形式だけでも敬う素振りを……と振舞っていたアルスだったが、本人からの許可を得たことで膝を崩し、普段の口調に戻る。
一方でその様子を見ていた臣下一同は、一斉に無言でアルスを睨みつける。
本来、下々の者が王族にタメ口など利こうものなら、その場で断首されてもおかしくない所業だ。
しかしその場にいる全員が彼の実力、そして王子との間柄を知っているが故、誰も目の前の少年を咎める者はいない。誰も咎めることはできなかった。
「ふむ、実はな、つい先ほど魔族側からの停戦の申し出があった」
「停戦だと?」
寝耳に水と言った様子で聞き返すアルス。
少年が一旦首都に戻ったのも、これから本格的な魔王城への侵攻を始める前に、色々と準備を整えておこうと思っていたからだ。
次はどんな強敵と戦えるのかと、密かに期待していたりもした。
そんなアルスからしてみれば、肩透かしを食らったようなものだ。
「それでだ、お前にしばらく暇を与えようと思ってな。体を休めるいい機会だろう。必要なものがあればいくらでも用立てるから遠慮せず言ってくれよ」
「暇か……そうだな」
しばし考える素振りをするアルス。物心ついたころから死と隣り合わせの戦場で生まれ育った少年にとって、余暇に何をすればよいのかなど、まるで見当もつかない。
戦いで受けた傷は戦いの中で癒す。そのような生き様であった。
しかし、そんな少年にもたった一つだけ憧れていたことがあった。
「そういえばアウグスト、この街には大きな魔法学校があったはずだが……」
「王立ソフィア魔導学院の事か?……もしかしてお前、魔法教師の職にでも興味があるのか? お前が教師になってくれるんなら、この国の魔術教育にとって大きなメリットになるが……」
王子が言う通り、魔剣士であるアルスにとって、魔法学校の教師と言う職業はまさに天職だろう。
歴戦の魔剣士、それも達人級ともなれば、どこの魔法学校も喉から手を伸ばすほど欲しがる逸材だ。
しかしアルスの本当の望みは王子の予想に反したものだった。
「いや、教師としてではなく、生徒として学校に通いたいと言っているのだが……アウグスト、お前なら、俺を中途入学させる事位造作もないだろ?」
「は? 魔法学校の生徒だって? 魔導を極めたお前がか? 一体何の冗談だ?」
王子は我が耳を疑ったが、それも仕方がない事だ。
誰に弟子入りしたでもなく、戦いの中独学で魔導戦術を極め、齢16歳にして達人級の魔導士階級を獲得。
そんな、魔導を極めし者とも呼ばれる少年が、一介の魔法学校に通って一体何を学ぶというのか? その場にいる誰もが同じ疑問を持ったことだろう。
しかし少年は、特に何かを学ぶために学校に通いたいという訳ではなかった。
アルス・マグナ(16)が憧れていたこと、それは普通の学生として人並みの青春を謳歌することだった。
「ただいま帰還しました。アウグスト殿下」
「おいおい、堅苦しい挨拶は抜きにしようぜ。俺とお前の仲だ。お前はいつも通り堂々としてればいい」
深々と首を垂れる黒髪の少年に対し、ソファに座りそう語りかけるのはミストレア王国第2王子のアウグスト・ミストレア。
金髪碧眼でその眼光は鋭く、着用している黄金の鎧と相まって、獅子の如き威厳に満ちている。
剣と魔法に秀で、政においても頭角を現し、齢17歳にして第一王子を抜いて次期国王と噂されるほどの人物だ。
しかしアルスに向けて話すその砕けた口調からは親しみが滲み出ていた。
「そうか、だったらそうすることにしよう。ところでアウグスト、今日は一体何の用だ?」
臣下の見ている手前、形式だけでも敬う素振りを……と振舞っていたアルスだったが、本人からの許可を得たことで膝を崩し、普段の口調に戻る。
一方でその様子を見ていた臣下一同は、一斉に無言でアルスを睨みつける。
本来、下々の者が王族にタメ口など利こうものなら、その場で断首されてもおかしくない所業だ。
しかしその場にいる全員が彼の実力、そして王子との間柄を知っているが故、誰も目の前の少年を咎める者はいない。誰も咎めることはできなかった。
「ふむ、実はな、つい先ほど魔族側からの停戦の申し出があった」
「停戦だと?」
寝耳に水と言った様子で聞き返すアルス。
少年が一旦首都に戻ったのも、これから本格的な魔王城への侵攻を始める前に、色々と準備を整えておこうと思っていたからだ。
次はどんな強敵と戦えるのかと、密かに期待していたりもした。
そんなアルスからしてみれば、肩透かしを食らったようなものだ。
「それでだ、お前にしばらく暇を与えようと思ってな。体を休めるいい機会だろう。必要なものがあればいくらでも用立てるから遠慮せず言ってくれよ」
「暇か……そうだな」
しばし考える素振りをするアルス。物心ついたころから死と隣り合わせの戦場で生まれ育った少年にとって、余暇に何をすればよいのかなど、まるで見当もつかない。
戦いで受けた傷は戦いの中で癒す。そのような生き様であった。
しかし、そんな少年にもたった一つだけ憧れていたことがあった。
「そういえばアウグスト、この街には大きな魔法学校があったはずだが……」
「王立ソフィア魔導学院の事か?……もしかしてお前、魔法教師の職にでも興味があるのか? お前が教師になってくれるんなら、この国の魔術教育にとって大きなメリットになるが……」
王子が言う通り、魔剣士であるアルスにとって、魔法学校の教師と言う職業はまさに天職だろう。
歴戦の魔剣士、それも達人級ともなれば、どこの魔法学校も喉から手を伸ばすほど欲しがる逸材だ。
しかしアルスの本当の望みは王子の予想に反したものだった。
「いや、教師としてではなく、生徒として学校に通いたいと言っているのだが……アウグスト、お前なら、俺を中途入学させる事位造作もないだろ?」
「は? 魔法学校の生徒だって? 魔導を極めたお前がか? 一体何の冗談だ?」
王子は我が耳を疑ったが、それも仕方がない事だ。
誰に弟子入りしたでもなく、戦いの中独学で魔導戦術を極め、齢16歳にして達人級の魔導士階級を獲得。
そんな、魔導を極めし者とも呼ばれる少年が、一介の魔法学校に通って一体何を学ぶというのか? その場にいる誰もが同じ疑問を持ったことだろう。
しかし少年は、特に何かを学ぶために学校に通いたいという訳ではなかった。
アルス・マグナ(16)が憧れていたこと、それは普通の学生として人並みの青春を謳歌することだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流@3/19書籍発売!
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる