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第二章
22 魔王が跳ぶ
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ヤルンヴィトの森から遥か北方、街道を走る巨大な馬車があった。
まるで移動要塞のような頑強な馬車を引くのは、一体の巨大な八本脚の馬。
「へ、陛下、そのような所に立つのは危ないので、どうか中に……」
窓から顔を出したティワズの視線の先には、馬車の屋根の上で両手を広げながら立っている黒髪の魔族の少女メリー・クリウスの姿。
「ティワズ、あなたも屋根に上ってきたらどうですか? 風がとても心地良いですよ」
「い、いえ、私は結構です。くれぐれもうっかり落っこちないように気を付けてください、陛下」
「大丈夫ですよ、私を誰だと思ってるんですか?」
全身で風を受け止めながら、心地よさそうな表情をしている魔王。
「はぁ……」
ティワズは呆れたようにため息をつき、窓を閉じようとしたが、突如何かを感じ取ったかのようにその顔を険しくする。
「あなたも気づきましたか?」
屋根の上に立つメリーも、彼と同様に何かを察知したのか、遥か南の方角をじっと見据えていた。
その顔にはどこか楽し気な表情を浮かばせている。
「ええ、これは……何者かが膨大な魔力を開放したようですが、それにしてもこの量は……まさか」
一方のティワズは、緊張した面持ちで額に汗を浮かべ、メリーと同じ方角を見つめていた。
そんな最中、上空から馬車に近づく一対の小さなワタリガラスの姿が朧げに見えてきた。
フギンとムニンの幻体だった。
メリーから偵察役を任せられていたフギンとムニンは、龍脈を伝い分身を飛ばすことによって、どんなに離れた距離でも瞬時に情報を伝達することができる。
しかし定時連絡にはまだ早く、何か緊急の事態が起こっていることを二人は直感した。
二匹のワタリガラスは馬車の屋根に留まると、忙しなくくちばしを動かしながらメリーたちに報告を伝えはじめる。
「ふむ……そうか、なるほど……な、何だと!? それは本当か!?」
「フギンとムニンは何を囀っているのですか? 通訳してくださいティワズ」
二匹の報告を聞いていくうちに、驚愕の表情を見せるティワズ。それに対しメリーは二匹のワタリガラスの言葉が鳥のさえずりにしか聞こえていない様子。
フギンとムニンは先々代の魔王から譲り受けたペットだったが、メリーには魔獣の言葉を理解する能力は受け継がれなかったようで、獣使いのティワズの仲介を経なければ二匹の言葉を理解することが出来なかった。
ひとしきり報告を終えたワタリガラスの幻体は、役目を終えたように霞の様に消えていった。
「その、陛下……フギンとムニンの報告によると、現在、ヤルンヴィトの森にて、アルス・マグナ一行と月喰いの狼が交戦中とのことです。おそらく先の膨大な魔力放出の原因はそれでしょう」
「マーナガルムというと、確か、あのフェンリルの末裔で、スコルとハティとか言う大きな狼さんの事ですよね? もしかして彼らには、例の伝達が届いていなかったのでしょうか?」
きょとんとした表情で疑問を口にするメリー。
彼女の発したフェンリルという言葉を聞き、ティワズは失った右腕がうずく感覚に見舞われたが、すぐに冷静さを取り戻す。
「いえ、陛下のお言葉は、全ての配下に行き届いていたはずです。ですが、もし先に仕掛けてきたのが人間側にあるとしたら、応戦するのも致し方ない事でありますが……」
戦争が終わったのち、魔王は配下の魔族や高位魔獣たちに対し、正当な理由がない場合むやみに人間に危害を加えてはならないという命令を下したが、命や財産に危険が及んだりした場合には正当防衛として反撃は許可されていた。
マーナガルムは、本来は理知的で人語を理解できるほど知能の高い高位魔獣だ。いくらあの破壊神の血を引いているとはいえ、彼らが理由なく人間を襲う道理など無いはずだと、ティワズは考えた。
「そうですか……ならば直接行って事の真相を確かめに行きましょう ――無限大の無原罪、時空に連なる虚空、不変なる普遍の門を開け、跳躍」
メリーは、屋根の上で舞い、歌うように韻を踏んだ。
まるで移動要塞のような頑強な馬車を引くのは、一体の巨大な八本脚の馬。
「へ、陛下、そのような所に立つのは危ないので、どうか中に……」
窓から顔を出したティワズの視線の先には、馬車の屋根の上で両手を広げながら立っている黒髪の魔族の少女メリー・クリウスの姿。
「ティワズ、あなたも屋根に上ってきたらどうですか? 風がとても心地良いですよ」
「い、いえ、私は結構です。くれぐれもうっかり落っこちないように気を付けてください、陛下」
「大丈夫ですよ、私を誰だと思ってるんですか?」
全身で風を受け止めながら、心地よさそうな表情をしている魔王。
「はぁ……」
ティワズは呆れたようにため息をつき、窓を閉じようとしたが、突如何かを感じ取ったかのようにその顔を険しくする。
「あなたも気づきましたか?」
屋根の上に立つメリーも、彼と同様に何かを察知したのか、遥か南の方角をじっと見据えていた。
その顔にはどこか楽し気な表情を浮かばせている。
「ええ、これは……何者かが膨大な魔力を開放したようですが、それにしてもこの量は……まさか」
一方のティワズは、緊張した面持ちで額に汗を浮かべ、メリーと同じ方角を見つめていた。
そんな最中、上空から馬車に近づく一対の小さなワタリガラスの姿が朧げに見えてきた。
フギンとムニンの幻体だった。
メリーから偵察役を任せられていたフギンとムニンは、龍脈を伝い分身を飛ばすことによって、どんなに離れた距離でも瞬時に情報を伝達することができる。
しかし定時連絡にはまだ早く、何か緊急の事態が起こっていることを二人は直感した。
二匹のワタリガラスは馬車の屋根に留まると、忙しなくくちばしを動かしながらメリーたちに報告を伝えはじめる。
「ふむ……そうか、なるほど……な、何だと!? それは本当か!?」
「フギンとムニンは何を囀っているのですか? 通訳してくださいティワズ」
二匹の報告を聞いていくうちに、驚愕の表情を見せるティワズ。それに対しメリーは二匹のワタリガラスの言葉が鳥のさえずりにしか聞こえていない様子。
フギンとムニンは先々代の魔王から譲り受けたペットだったが、メリーには魔獣の言葉を理解する能力は受け継がれなかったようで、獣使いのティワズの仲介を経なければ二匹の言葉を理解することが出来なかった。
ひとしきり報告を終えたワタリガラスの幻体は、役目を終えたように霞の様に消えていった。
「その、陛下……フギンとムニンの報告によると、現在、ヤルンヴィトの森にて、アルス・マグナ一行と月喰いの狼が交戦中とのことです。おそらく先の膨大な魔力放出の原因はそれでしょう」
「マーナガルムというと、確か、あのフェンリルの末裔で、スコルとハティとか言う大きな狼さんの事ですよね? もしかして彼らには、例の伝達が届いていなかったのでしょうか?」
きょとんとした表情で疑問を口にするメリー。
彼女の発したフェンリルという言葉を聞き、ティワズは失った右腕がうずく感覚に見舞われたが、すぐに冷静さを取り戻す。
「いえ、陛下のお言葉は、全ての配下に行き届いていたはずです。ですが、もし先に仕掛けてきたのが人間側にあるとしたら、応戦するのも致し方ない事でありますが……」
戦争が終わったのち、魔王は配下の魔族や高位魔獣たちに対し、正当な理由がない場合むやみに人間に危害を加えてはならないという命令を下したが、命や財産に危険が及んだりした場合には正当防衛として反撃は許可されていた。
マーナガルムは、本来は理知的で人語を理解できるほど知能の高い高位魔獣だ。いくらあの破壊神の血を引いているとはいえ、彼らが理由なく人間を襲う道理など無いはずだと、ティワズは考えた。
「そうですか……ならば直接行って事の真相を確かめに行きましょう ――無限大の無原罪、時空に連なる虚空、不変なる普遍の門を開け、跳躍」
メリーは、屋根の上で舞い、歌うように韻を踏んだ。
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