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深崎香菜

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嫉妬

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男というものは女以上に嫉妬深いところだったある。
それを女々しいだとか、ウザイだとか言うヤツだっているけど
それは全部『好き』からくるもので仕方が無いことだ。

僕だってその中の一人である。
以前まではどうってことなかったというのに
彼女と過ごしたあの休日からというもの自分が変だ。
彼女が他の男と話している。ただそれだけが苛々してしまっている。


「でねー、中尾君がさー」
彼女が楽しそうに他の男の話をする間、
僕はどうも複雑な気持ちで話を聞いている。
遠慮なく『他の男の話するなよ』とか、『他の男とあまり話をしないで欲しい』と言いたい所だが
これは束縛・・・・のうちに入るのだろうか?
僕は束縛が好きではない。
自分が好きじゃないから、自分の好きな相手にもしたくない・・・
だからどうしても言うことが出来ない。というわけだ。

「亮ちゃん聞いてるぅ?」
「え・・うん。ちゃんと聞いてるよ」
「なんかボーっとしてない?」
「してない、してない。で?」
こんな風に普通に返すことができるのに受け入れられない。
僕の器はとても小さいのだろうか…?

「さ。明日香さんそろそろお昼休みは終わりです。
 次は実習だから早めに行かないと。」
そう言って僕は彼女のお弁当を片付ける。
あの日以来、彼女は自分の料理に自信をもったらしくこうやって毎日お昼は手作り弁当というわけだ。

「・・明日香さん?」
僕の呼びかけにも応じないでボーっとしたままの彼女。
どっちがボーっとしてるんだか…
「明日香さん!」
彼女はハッと我に返ったようだった。
そして慌てて立ち上がりペットボトルのお茶をこぼした。
「あー・・ごめんね。先行ってて?」
「・・・・今更何を。
 だから飲まないときはキャップ閉めなさいって言ったでしょうに。
 さ、軽く拭いたので行きましょう。後は太陽に任せるとしてね。」
彼女の手を引いて僕は歩き出す。
彼女はまだ濡れているテーブルを気遣いながら一緒に歩き出した。




お昼からはずっと絵を描いていた。
課題に出されたのは僕らが使う部屋から見える桜の木。
もう季節は夏なわけで葉桜なのだが教授はそれを課題にした。
僕らはそれをスケッチし、完成に近づける・・・・

「亮ちゃんどんな感じ?」
いつものように彼女は僕の絵を覗く。
そしてちょっと笑う。
「・・・すみませんね」
「あ、え。まぁ、気にしないで!」
僕は自分でもわかっているがそんなに絵が上手いわけでもない。
だけど、絵が好きで水彩画が好きでこの美大に入ったわけだ。
そういえば、彼女もこんなことを口にしていたことがある。



「小さいころにね、その時は嫌々だったんだけど
 お父さんの母校のってココだけど。
 で、その文化祭で水彩画を見たの。
 そこには油絵だってあったし陶芸も、いろいろあった。
 けど、その時に見た水彩画がずーっと心に残ってるんだー」

それでここの美大に入ったという。
僕は絵を描くのがすき、見るのがすきでここにいる。
彼女は心に残っている思い出を辿ってここにいる。
目的や思いは違ってもこうやってここで出会えたこと、そしてこんなこと言うのはダメだが
あの日遅刻し、そして彼女が留年してくれていたことに感謝ってわけだ。


「瀬戸さーん」
帰り道、遠くから誰かが彼女を呼んだ。
振り返ると彼女がよく話している『中尾』という奴だった。
「亮ちゃん、ちょっといい?」
「ん。はいどうぞ」
彼女は僕が返事したあと中尾の所へ走って行った。
僕は着いていこうかと迷ったがとりあえずベンチに座って待った。

こういうとき、目がいいのは嫌になる。
彼女の表情も、中尾の表情も見えてしまう。
・・・・笑うなよ。そんな風に。
なんて馬鹿げたことを考えてしまう。

何を話しているのだろうか。
何が楽しいのだろうか・・・・・・・

そんなことばかり気にして見ていてしまう。
僕、気持ち悪いかもしれない・・・・・・


彼女が手を振り中尾も手を振る。
やっと帰ってきてくれるのかと僕は彼女を迎えに立ち上がる。
突如中尾が何か叫んでいた。
よく聞こえない。

「・・・・です。・・・・っと・・・じゃ、・・・め・・・か?」

彼女は驚いた顔をして中尾を見た。
顔が真っ赤だった。
なぜか苛々してしまう。そんな顔見せてんじゃねーよ。

中尾がゆっくりと彼女に近づいた。
僕は早くたどり着くように早歩きになる。
彼女は止まったまま。

そして中尾のほうが早く彼女にたどり着き、彼女の手をとった。
その時、僕の中で何かがキレタ。

「・・・ってんじゃねーよ!!!」

気づけば中尾をぶん殴っていた。
後ろで彼女は驚いた顔をしている。

「・・てぇ・・・なんだよ!!」
「気安く触ってんなよ。」
「・・・うちゃ、亮ちゃん、いいから、ね?」
「・・・明日香さんも!何触らせてるんですか?」
「・・・でも、手、だし。」
「とにかく触ってんな。触れんじゃねーよ。
 明日香さんに・・・明日香に触れてていいのは俺だけなんだから」

中尾は僕を思いっきりにらみつけたあと、
倍返しという勢いで殴ってきやがった。

「お前こそ、なんだよ!
 俺は、俺は、瀬戸さんに憧れてこの美大に入ったんだ!
 なのに、入学式早々お前は瀬戸さんと一緒にいるし、その後も仲良くなりやがって…
 俺もやっと話すことができたのに気づけばお前ら付き合ってて…
 だめかよ!好きになったらダメなのかよ!
 俺は・・・ずっと、彼女が・・・好きだったんだ・・!」

中尾を無言でもう一度殴ってやった。
「好きなら好きでいい。
 けど、今俺は明日香から離れる気もないし離れたくも無い。
 だから、あきらめてくれよ」
そして彼女の手をグイっと引っ張った。
「痛ッ」



何も言わずに手を引いて、電車に乗せた。
彼女は何も言わずに今起こっていることを整理しようとしていた。
僕は自分がどうしてここまで怒っているのか理解できなかった。
彼女が言った通り、中尾はただ彼女の手を取っただけだ。
キスしたわけでも抱きしめたわけでもないのに…
そう考えても苛々と怒りは収まらなかった。


彼女を自分のアパートに入れ押し倒してやった。
最低だな・・・僕は。

「亮ちゃん・・・怖いよ・・・」
泣きそうな彼女を見て心が痛む。
何をやっているんだろうか・・・・・

「ごめん・・・すっごい、子供、みたいだ・・・」
「・・・亮ちゃん」
「アイツは、ただ手を触っただけなのに・・・なのに苛々した・・・
 だいたい・・・どうして俺以外の男とそんなに楽しそうに出来るんだよ、
 どうして、どうして・・・抵抗しないんだ・・どうして真っ赤になって可愛いとこ見せてんだよ・・・
 見せんなよ、誰にも・・・・
 俺だけにしてよ・・!可愛いとことか見せるの、俺だけにしてよ・・・!」

僕がそう言って泣きそうになっているのを彼女はそっと抱きしめてくれた。
彼女はベッドに寝転んでいてその上に覆いかぶさるようになっていたわけだが
僕の頭をそっと撫でながら抱きしめてくれた。

「亮ちゃん、ごめんね?
 うん、そうするから…そういうところ、亮ちゃんだけにする。」
「ごめん・・・なさい。」
「ねぇ、亮ちゃん・・・嫉妬。やきもちやいてくれたんだね」
彼女は嬉しそうな顔をした。
嬉しい・・・・のか?
「なんか、嬉しいの。
 あぁ、私想われてるなぁって思えるから。」
こんなとき歯止めが利かなくなる。
絶対に言ってはいけないとわかっているのに言ってしまう…
ナルホド。そこが子供なわけ?



「明日香さん、このアパートで一緒に住んでもらえませんか?」

「・・・・いいよ」

予想外な答えだった。
僕は言ってしまった後、後悔してしまったというのに…

「って、言うわけないでしょう!!」

突然彼女が起き上がった。
僕は慌ててその場に座って彼女と向かい合わせの体勢となる。
「いい、のは、卒業して・・・からじゃだめですか?」
彼女がまたいつものように照れながら言う。
僕は、卒業したその先も彼女が傍にいてくれるという意味の言葉に心が躍っていた。
「もちろん…お願いします」
そう言ってニッコリと笑えた。
「…私だってそうだけど、亮ちゃんもまだ親の仕送りとかにも頼ってるじゃない?
 だから、卒業して、就活も終わらせてちゃんと周りが落ち着いてから。ね?」
僕は当たり前の答えだと思い、頷いた。
もう一押しすれば彼女はここに住んでくれると思う。
けど、現実はそんなに甘くないわけで、僕は嫉妬に狂って思わず言ってしまっただけだ。
後で大変な思いを彼女にさせたくもないし、
もう少し今のままで楽しむのだって悪くない。

「あ、でもね。
 私からお願いがあるんだけど」
「ん。なんでしょうか」
「え・・っと、少しづ私の荷物を、移動・・・させて、
 毎週金曜は一緒に、ここへ帰って・・その」
「休日2日は一緒に?」
「・・・・ダメ…かな?」
僕は彼女をギュっと抱きしめながら『お願いします』と返事した。
そして彼女が優しくキスをしてくれた。
それに僕は応えた。






「送ります」
「い、や、ダメだよ。明日も早いでしょ」
「送らせなさい」
そう言って笑うと彼女はクスクスと笑った。
そして二人で手をつないで歩き、彼女のアパートまで行った。
別れのキスをして、ギュっと抱きしめて…
まだ別れたくない寂しさを乗り越えて僕はまた手を振り電車に乗る…
まだ手には彼女のぬくもりが残っていて手のひらを見ているだけでニヤケてしまった。


「何、ニヤケてんだよ。」
顔を上げると中尾が立っていた。
「・・・別に」
中尾は何も言わずに隣に座った。
すごく気まずい空気の中、僕はひとつ手前の駅で降りることにした。

「・・・・中尾。
 今日は、ごめんな」
そう言って電車を降りると中尾も降りた。
「・・・俺こそ、ごめん。」
「なんだよ。着いてくんなよ」
「俺ここで降りるんだよ・・・!」
「・・・・・あっそ。」
その後駅を出ると僕らはそれぞれ反対方向へ歩き出した。
それがなぜかおかしくて笑えてきてしまった。
何が面白いのかわらないまま僕は笑いをこらえつつ、アパートに到着した。


いつものように彼女に電話をして、メールを打って…
彼女が『おやすみ』と言ったら僕も寝る。
ベッドに転んだときの気持ちが今日は違った。
今日、ここの上で彼女は言った。

『週末一緒にすごそう』

それが嬉しくて、嬉しくてたまらなかった。
まだ子供心が残っている僕にたまに大人になる彼女。
それがピッタリでいいのかもしれないな、とまた僕は笑っていた。
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