あなたへ

深崎香菜

文字の大きさ
8 / 35

誕生日の計画

しおりを挟む
彼女の誕生日は7月末だ。
小さな頃、子供の日と誕生日が近いからと言って
お祝いが一緒だったと文句を言っていたのが昨日の事のようだ。
僕の家は子供の日は夜に妹らと柏餅を食べた。
それくらいしかしていないので子供の日にどういうお祝いをするのか知らない。
聞いてみると彼女は一人っ子らしい。
男の子のいない家なのにお祝いするのか…と笑い合ったことがある。

「こんにちわ。」
「亮ちゃんっっ」
彼女は僕の姿を見るなりベッドから飛び起きてこっちへ飛んで来ようとした。
両手を広げて、まるで漫画のようだ。
僕はニヤリと笑いそれを避けてやろうと思った。
しかし・・・・

「ぶべっ」

彼女は僕に辿り着くよりも先に転んでしまった。
「プッ・・・」
彼女は起き上がったものの、また顔をあげない。
「さ、明日香さんベッドに戻りましょう」
「・・・亮ちゃんの馬鹿ちん。
 今、笑ったでしょ…プッて吹いたでしょ!」
怒りながらこっちを見る顔は、
怒りでなのか恥ずかしさからなのかわからないが真っ赤だった。
「笑ってないですよー。
 ほら、口から空気が・・・・・・アハハハハハハ!!」
駄目みたいだ。これ以上笑いを堪えられない。
彼女は怒りながらベッドに戻り布団に潜った。

「ごめんなさいーってー。
 だって、何も無いところで転ぶなんて…
 明日香さん、吉本入れるくらいの転びっぷりでした!」
「ぜんぜんフォローになってない!」
「褒めてるのに?」
「褒めてない!!」
僕は一通り笑った後、布団に潜る彼女だけに聞こえるような声で話し掛けた。

「さて、本題に入ります。
 もうすぐ明日香さんの誕生日なわけですが。
 検査入院はいつまでなんですか?」
「ほえ」
彼女はやっとのことで布団から顔を出してくれた。
「いや、ね。
 3ヶ月のお祝いが病室内だったので
 誕生日くらい外で食事が出来ないかと思いましてね。」
そう、つい先日の話だが。
彼女が入院してしまったので約束のお祝いはこの病室内でした・
その日はお母さんにも伝えておいて、僕らは二人で一日を過ごしたのだ。
ケーキを買ってきて二人で食べたり話をしているだけでも楽しかった。
けれど、誕生日なのだ。
これは一年に一度のイベントなわけで…
その時くらいいいじゃないかというのが僕の意見。
それに、検査入院なんだから結果さえ良ければすぐに退院だって出来るだろう。

「もうそろそろ結果も出るだろうしねぇ。
 私29日じゃない?それまでには退院できてそうよ。」
「後10日かぁー。わかりました。
 そしたら一応お店とか予約してもいいです?」
「え。いいの?
 ありがとーっ!楽しみにしてるね」
「はい。しててくださいね」

僕らはその日ずっと誕生日、29日のことを話していた。
もし結果が出てなかったらどう抜け出そう…とか、
くだらないことをずっと喋っていた。
途中、お母さんが来たので話はストップしたのだが、
数分の間お母さんが席をはなしたときにまた話題が元に戻った。

「あらあら。何の話ー?」
「もうー!お母さんは何でも入ってこなくていーの!」
「えー。仲間はずれじゃないの」
「んもう!私と亮ちゃんだけの話なのっ」
そんな可愛い親子喧嘩を見るのはもう日常になっていた。
僕とお母さんは、(僕が思っているだけかもしれないが)
会う度に話すことも増え、溶け込んでいけた。
時々二人きりになると、
「明日香はどうです?」と聞かれることもあれば、
「僕がいない間の明日香さんってどういう人なんです?」と、聞いた事もある。
そのときに返ってきた答えが本当なのか、それともただのお世辞?なのかわからないが、
「明日香はあなたがいない間はいつも寂しそうに携帯を覗いているの。
 けどね、あなたからメールが着たらすごく笑顔になってね。
 本当は病院内だし携帯の使用は駄目なんだけど
 なんとも言えなくてね…先生に見つからないようにねって言っちゃいましたよ」
そう言ってお母さんはニコリと笑ってくれた。
僕は素直に嬉しくてただただ照れ笑いをしていた。



「ねぇ、お母さん」
「ん?なぁに」
「いつ退院?前は一ヶ月もいなかったしそろそろだよね?」
「…そうね。今週末には出れるはずよ。
 検査の結果を今日聞いてきましたからね。」
「どうだったんですか?」
「どーせ。また異常なしでしょぉ」
「・・・・・・ええ。そうね。
 なんともなかったわ。ほ、ら。あんた一人娘だしねいろいろ心配なの。
 わかってちょうだいよー。」
「んもー!
 また留年させないでよぉ!?
 今年は亮ちゃんと進級なんだから」
「あらあらー」
「それに!亮ちゃんは私が落ちたら一緒に落ちる運命なのよ!」
「?!」
「仲良しねぇー」
お母さん!?
止めてくださいッッ
「そうならないように努力します」
僕が苦笑いすると二人は大笑いした。
笑い事じゃないですってばぁ…

「そういえばお母さんさー。
 私と二人のとき、前は亮ちゃんって亮ちゃんのこと呼んでたけど
 最近は違うのねぇ?」
「ちょっと…言わないでよ!」
「あ、僕も気になってたんです。
 初めてお会いしたとき、『亮ちゃん』って言いかけませんでした?」
「…だってね、この子ずっとあなたのこと亮ちゃん、亮ちゃんって言うから
 わからないじゃない?名前…だからそう呼ばせてもらってたの。」
今度は僕らが笑うとお母さんは照れていた。
照れ方も似ている。
なんだか面白いな。
そういえばお母さんは僕のことを田村さんから亮介君になっている。
これもまた一つ進歩かな。


「あ。明日香。
 退院後の事なんだけどね。
 亮介君もいることだし意見を聞かせて頂戴?
 あなた、実家に帰る気はない?」
「…ないよー。
 せっかく今の暮らしにも慣れたし。
 今のところ大学にも近いしね。」
「…でもね、もしまたこんなことっていうか。
 またあんなふうに体調が悪くなったとき、
 今回は大学で亮介君が傍にいてくれたからいいけれど
 もし家にいるときなら一人なのよ?
 だから、実家にいたらその辺は安心でしょう?
 それに、近さだって少ししか変わらないし…」
明日香さんはダダをこねる子供様に承諾しなかった。
明日香さんにしては珍しいことかもしれない。

「亮介君はどう思う?」
「…僕ですか?
 ・・・・・・そりゃ、今回のことがお母さんの言う通りに
 一人のときだととても心配ですし、どうなるかわからないですけど。
 でも、明日香さんが望む生活ってのは駄目でしょうか?
 心配なのはわかります。
 僕だって同じ気持ちですから…
 それに、娘の事ですしね。けれど、明日香さんだってもう大人です。
 頭痛なんて風邪みたいなものでしょうし。
 彼女が頭痛を起こすのはいつも決まって夜更かしの後です。
 だからそんなに心配しなくても大丈夫ですよ。
 それに、もしものときは僕が駆けつけます」

僕がそういうと、お母さんは納得してくれたのか
それ以上何も言わなかった。
お母さんが帰った後、彼女はまた29日の話に花を咲かせるのだが、
母親の行為を蹴ってしまったことを後悔しているのか…
時々寂しそうな顔もした。
僕は何か言おうと思ったのだが、これは親子の問題なのだろう。
そこに僕が首を突っ込むのはどうだろうか。
だから今は何も言わないことにした。

「29日は抜け出しとかしなくっても会えるし
 なんかつまんないけど楽しみだなぁ~」
「つまんないって…
 抜け出すとかかなり迷惑かけるんですから…
 それをしないでいいってことを喜んでくださいよ」
「いいじゃない?
 愛の逃避行!」
「夜には戻しますから。」
「えぇ?!」
「えぇ?ってえぇ?!」
彼女は爆笑し、看護士さんに一喝され少し反省しているようだった。
僕はその姿が可愛くて仕方なく、そして込み上げてくる笑いを堪えるのに必死だった。



僕は帰宅後、
ネットでいい店を調べたり、彼女のプレゼントを考えたりしていた。
彼女からのおやすみメールが着てから一時間…
時計を見ると夜中の三時をまわっていたので僕も布団に入る。
もうすぐ…もうすぐ彼女との生活が戻ってくる。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたの片想いを聞いてしまった夜

柴田はつみ
恋愛
「『好きな人がいる』——その一言で、私の世界は音を失った。」 公爵令嬢リリアーヌの初恋は、隣家の若き公爵アレクシスだった。 政務や領地行事で顔を合わせるたび、言葉少なな彼の沈黙さえ、彼女には優しさに聞こえた。——毎日会える。それだけで十分幸せだと信じていた。 しかしある日、回廊の陰で聞いてしまう。 「好きな人がいる。……片想いなんだ」 名前は出ない。だから、リリアーヌの胸は残酷に結論を作る。自分ではないのだ、と。

#秒恋9 初めてのキスは、甘い別れと、確かな希望

ReN
恋愛
春休みが明け、それぞれに、新しい生活に足を踏み入れた悠里と剛士。 学校に向かう悠里の目の前に、1つ年下の幼なじみ アキラが現れる。 小学校時代に引っ越した彼だったが、高校受験をし、近隣の北高校に入学したのだ。 戻ってきたアキラの目的はもちろん、悠里と再会することだった。 悠里とアキラが再会し、仲良く話している とき、運悪く、剛士と拓真が鉢合わせ。 「俺には関係ない」 緊張感漂う空気の中、剛士の言い放った冷たい言葉。 絶望感に包まれる悠里に対し、拓真は剛士に激怒。 拗れていく友情をよそに、アキラは剛士をライバルと認識し、暴走していく―― 悠里から離れていく、剛士の本心は? アキラから猛烈なアピールを受ける悠里は、何を思う? いまは、傍にいられない。 でも本当は、気持ちは、変わらない。 いつか――迎えに来てくれる? 約束は、お互いを縛りつけてしまうから、口にはできない。 それでも、好きでいたい。 いつか、を信じて。

氷の宰相補佐と押しつけられた厄災の花嫁

瑞原唯子
恋愛
王命により、アイザックはまだ十歳の少女を妻として娶ることになった。 彼女は生後まもなく始末されたはずの『厄災の姫』である。最近になって生存が判明したが、いまさら王家に迎え入れることも始末することもできない——悩んだ末、国王は序列一位のシェフィールド公爵家に押しつけたのだ。

罪悪と愛情

暦海
恋愛
 地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。  だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――

マチ恋 ―君に捧げるLove song― 一夜の相手はスーパースター。誰にも言えない秘密の恋。【完結】

remo
恋愛
あなたにとっては遊びでも、私にとっては、…奇跡の夜だった。 地味で平凡で取り柄のない私に起きた一夜のキセキ。 水村ゆい、23歳、シングルマザー。 誰にも言えないけど、愛息子の父親は、 今人気絶頂バンドのボーカルなんです。 初めての恋。奇跡の恋。離れ離れの恋。不倫の恋。一途な恋。最後の恋。 待っている… 人生で、一度だけの恋。 【完結】ありがとうございました‼︎

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛

ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎 潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。 大学卒業後、海外に留学した。 過去の恋愛にトラウマを抱えていた。 そんな時、気になる女性社員と巡り会う。 八神あやか 村藤コーポレーション社員の四十歳。 過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。 恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。 そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に...... 八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。

12年目の恋物語

真矢すみれ
恋愛
生まれつき心臓の悪い少女陽菜(はるな)と、12年間同じクラス、隣の家に住む幼なじみの男の子叶太(かなた)は学校公認カップルと呼ばれるほどに仲が良く、同じ時間を過ごしていた。 だけど、陽菜はある日、叶太が自分の身体に責任を感じて、ずっと一緒にいてくれるのだと知り、叶太から離れることを決意をする。 すれ違う想い。陽菜を好きな先輩の出現。二人を見守り、何とか想いが通じるようにと奔走する友人たち。 2人が結ばれるまでの物語。 第一部「12年目の恋物語」完結 第二部「13年目のやさしい願い」完結 第三部「14年目の永遠の誓い」←順次公開中 ※ベリーズカフェと小説家になろうにも公開しています。

処理中です...