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父親登場
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「ねぇ、これあなたの恋人の絵でしょう」
声をかけてきた女性が指差しているのは
明日香が退学する時に仲の良かった教授にプレゼントした作品だ。
それは賞を受賞し、僕と過ごした一日の風景・・・。
彼女の最後の作品だ。
「ん…そうだよ」
「すごいね。
これって木とかの朝の風景なんだっけね。」
「よく知っているね。
そうだよ。この作品は朝の風景なんだ。」
「…ねえ、この作品を描いた・・・・えーっと…」
「瀬戸明日香」
「そう、瀬戸明日香さんってどうして辞めたの?」
直球だなあ・・。
少しは遠慮とかないのか?
「…簡単にいえるかーってか。
そうだよね。私たち今日会ったばかりだもの。
私陶芸科の吉田亜由美。仲良くしてよ」
そう言って手を差し出した。
僕はその手を握り返した。
「この作品不思議…。
どうして同じ色を使わなかったのかしら。
あなたも一緒の風景を描いたのよね?
こんな…色が違うのにこんなに綺麗だなんて…」
この作品を描いたとき彼女の目は既に変化が訪れていた。
色なんかも普通の人とは違って見えたし、
(赤だとピンクに見えているときがあったらしい)
彼女は彼女が見たありのままを描いたのだろうが
それが評価され賞を受賞したというわけだ。
「あ、」
僕は相手に名乗らすだけ名乗らせて自分は何も言っていないと思い
慌てて吉田さんのほうを向く。
「僕は…」
「…田村亮介君。水彩画科でしょ」
そう言ってニッコリと微笑んだ。
「なんでも知ってるんだ」
「うん。ッて言ってもそんなことくらいしかわかんないなー
・・・・あ。後は笑顔が素敵なのとやさしいってのと…うーん。
瀬戸明日香さんと一緒にいると最高の笑顔を見せる…かな」
そう言った後彼女はもう一度明日香の絵を見た。
そして『バイバイ』と口に出さず手だけを振ってその場を去った。
「おいおいおい」
吉田さんが去ったと思ったら今度は中尾だった。
「お前か」
「なぁ、今の意味わかったよな…。
うわーお前罪。うん、罪だー」
「は」
「は?じゃねーよ!!!
お前は俺を苦しめ、そんでもってあの子も苦しめるのかッ」
「お前は勝手に苦しい道歩いてるんだろ!」
「きづかねーのか」
「…わかるよ、それくらい。
けど僕には明日香しかありえない。
笑うなよ…おい。」
僕が照れくさそうな顔をするのを見ながら中尾は大笑いしていた。
僕はとりあえず思いっきり殴りつけたあと吉田さんがしたように彼女の絵を見た。
「…本当不思議だ」
「この絵?」
「うん。同じ風景でさ、彼女の目ではこう見えてたんだ。
例えそれが病気のせいでもさ、こっちのが綺麗だよな」
「だな。
俺はこれ見たときちょっとしびれたかも…
俺も絵が好きで入ったけどこんなの無理だもん」
「あのさー…
この絵見るたびに後悔するわけ…。
あんな約束守れないってー・・・・・・・・」
中尾が僕の背中を思いっきり叩く。
気合を入れてくれたようだった。
「…えぇ!?
わ、私の絵飾ってあるの!?」
「ですよー。
教授が喜んでね、飾ってあります」
「ど・・こに」
「教授の部屋の前です」
「よ、よかったあ…
あそこ人来ること少ないでしょ…もー!」
彼女は顔を真っ赤にしながら怒った。
本当は嬉しくて仕方ないのだろう。
嬉しいのを隠す癖である布地を握るが出ていた。
シーツをギューっと握り締めている。
「でも…あれ賞とったしいいかなと思って渡したけど
やっぱりちゃんと見えてたときの作品のがよかったよねえ…」
「ん、いや。
僕はあれがいいと思います。
今日話し掛けられた子とも言っていたんですが
あの作品は不思議なところもあって僕大好きです。」
「…そう?」
「はい。
同じ景色を見たのに色使いが違うだけで不思議な空気も出てていいですよ」
「見たままだったんだけどねー(笑)
それがよかったんですよ」
彼女はそう言われると窓から吹く風で紙を揺らしながら
「そしたら…それが最後の作品になったのはよかったのかもしれないね」
と、笑った。
僕は頷いていいのか迷ったがそうだと思ったし頷いた。
「で。
今日話し掛けられた子って…だあれ?女の子でしょう!!」
「え。そうですけど…どうして性別が?!」
「亮ちゃんはね、男の子なら『あいつ』とか『奴』っていうの!
女の子なら『あの子』とか優しげなのー!!誰なの!」
「え、えっとー…
陶芸の吉田…吉田…」
「亜由美?」
「あ、そう亜由美…って!」
彼女は手をあごに当てて何か考えているようだった。
「んー…あの子かぁ…。」
「どうかしました?」
「ねぇ、亮ちゃん」
彼女がベッドの上に正座した。
「キス…しよう」
突然何を言い出すんだこの人!!
「あの…何を…突然…」
「い…や?」
嫌じゃない。
全然全く。
変に積極的な彼女にドキマギしながら頬にそっと手を当てる。
そうすることによって彼女の身体が一瞬固まるのを感じる。
僕を見つめていた目を閉じ少し顔を上げる。
僕はその彼女の唇にそっと唇を重ねる…
いつもは僕がすることに応えてくれる彼女。
けれど今日は逆で、彼女が僕の口内を探るようにする。
僕は彼女が入ってきやすいようにしたりと応える…
「ど・・うし・・・たんです・・・か・・・?」
唇が離れるときを狙って声を出す。
彼女は唇を離し、ニコリと笑って
「嫌?」
と聞く。
「なわけないじゃないですか」
そう言うともう一度唇を重ねる…
深く、深く、そして長い、長いキスが
何分続いたのだろうか。
頭がぼーっとし始めた頃、僕は限界を感じる。
ゆっくりと彼女を放した。
「…亮ちゃん?」
「ごめんなさい。この間といい今日といい…。
僕、もう駄目ですよ…
こんなこと言うの恥ずかしいですけど…我慢が…ね」
そう言うと彼女はニッコリと笑って
「…わかった。
私だって…その…えと…だから、し…よ?」
思いもしなかった展開に僕は唖然とする。
本来ならばこのまま…と思うがまだ僕には理性を押さえつける力が残っていたみたいだ。
(よ、よかった…本当に)
「…駄目です。
前明日香が言った通り誰がくるかわからない…」
「大丈夫…誰も…来ないよ」
「…明日香。」
そっと彼女を寝かせる。
彼女はゆっくりと目を閉じた。
僕はもう一度彼女にキスをしたあと
「こうしましょう。
二人でもしもの時の対策で最高なアイディアが浮かんだときに…どうです?
じゃないとここにいるのは明日香だ。
恥ずかしさとかでやってけなくなるよ」
最後は冗談っぽく笑って見せた。
彼女はゆっくりと頷き僕の肩を持って座りなおす。
「ねぇ、亮ちゃん…できないからって私のこと嫌いになったり…しない?」
「…何言ってるんですか?
それ目的だけなら今でもしてますって。
大丈夫です。何も心配しなくてもいいんです」
「うん、うん…
亮ちゃん…好き。好きだから…」
「はい」
「好き…」
「はい」
「好き…好き…好き…好きです…」
「僕もです」
僕らはもう一度キスをする。
これ以上にない、幸せな味なキス…
「あらまぁまぁまぁ」
声がしたのに驚き、そしてその声には聞き覚えがありまくるのに驚き
僕らの体はカチっと固まった。
動かしにくい首を扉に向ける・・・・
「あ、ご、ごめんなさいね、出るわね!」
お母さんだ…
「おおおおおおおおお母さんッ
も、もう!ノックくらいしてよ!」
「し、したけど…あ、ちょ、ちょっとあなた!!」
お母さんを押しのけるようにして怖い顔をした男性が入り込んできた。
彼女が僕の横でハッと息を呑んだ…
ま、まさか・・・・・・・
「人様の娘をこんな病室で…!!!
お前!ドコのドイツだ!ええ!?」
「あ、え、は、あ、は、はい、え、えと」
僕が思いっきり慌てているのを心配そうに彼女は見ながら僕の手をギュっと握った。
その瞬間、全ての緊張が解けた。
「初めまして。
明日香さんのお父様ですか…?」
「そうだ。それよりも…」
「田村亮介と申します。
彼女と…お、お付き合いさせていただいています。
ご機嫌を損ねられるところをお見せしてしまって、すみませんでした」
僕が深く頭を下げた時、周りが笑いに包まれた。
「りょ、亮ちゃん…そんなキャラじゃないでしょぉ!?」
「亮介君なかなかやるのねぇ」
「あぁーどんな顔してるのぉ?!面白いだろうなぁ…」
僕がオドオドしていると肩をボスンと叩かれる。
イ、痛い・・・・・・・・
「おーまえが亮ちゃんか!
いやー驚かせてしまったね。
明日香の父です。明日香や妻から話は聞いているよ。ありがとう」
このありがとうにはいろいろな意味が含まれているのだろうか。
僕はこのありがとうには大きさが半端ないと勝手に理解して頭を下げた。
それからしばらく4人での談笑が続いた。
お父さんもお母さん同様楽しい人ですぐに溶け込めた。
お母さんが嬉しそうに
「いつかうちの食卓を囲んでこんな風に話したいわねー」
「明日香孫を用意しなさい」
「えー!それって…
どうかなぁー亮ちゃん次第だなぁ」
「え、ぇ?!」
そんな会話もあり、
僕はこの家族の一員になってもいいのかと思えると嬉しくてたまらかった。
いつもはお母さんと病院を後にするのだが
今日は彼女の両親そろってと帰宅だ。
さっきまであんなに笑って話していたのに
病室を出ると静かな空気に絶えられなかった。
「田村君、私たちは車なんだ乗っていきなさい」
さっきまでは『亮ちゃん』や『亮介君』だったのに
突然の呼び方に身体が固まる。
「え、いや…」
「遠慮したら私は怒るよ」
ニッコリと笑うその笑顔が怖い。
いつものようにお母さんが笑ってくれると少しは気が楽なのだが
お母さんも笑いはせず、黙っているだけだった。
「え、っとお願いします」
僕がそう言うとお父さんは頷き歩き出した。
声をかけてきた女性が指差しているのは
明日香が退学する時に仲の良かった教授にプレゼントした作品だ。
それは賞を受賞し、僕と過ごした一日の風景・・・。
彼女の最後の作品だ。
「ん…そうだよ」
「すごいね。
これって木とかの朝の風景なんだっけね。」
「よく知っているね。
そうだよ。この作品は朝の風景なんだ。」
「…ねえ、この作品を描いた・・・・えーっと…」
「瀬戸明日香」
「そう、瀬戸明日香さんってどうして辞めたの?」
直球だなあ・・。
少しは遠慮とかないのか?
「…簡単にいえるかーってか。
そうだよね。私たち今日会ったばかりだもの。
私陶芸科の吉田亜由美。仲良くしてよ」
そう言って手を差し出した。
僕はその手を握り返した。
「この作品不思議…。
どうして同じ色を使わなかったのかしら。
あなたも一緒の風景を描いたのよね?
こんな…色が違うのにこんなに綺麗だなんて…」
この作品を描いたとき彼女の目は既に変化が訪れていた。
色なんかも普通の人とは違って見えたし、
(赤だとピンクに見えているときがあったらしい)
彼女は彼女が見たありのままを描いたのだろうが
それが評価され賞を受賞したというわけだ。
「あ、」
僕は相手に名乗らすだけ名乗らせて自分は何も言っていないと思い
慌てて吉田さんのほうを向く。
「僕は…」
「…田村亮介君。水彩画科でしょ」
そう言ってニッコリと微笑んだ。
「なんでも知ってるんだ」
「うん。ッて言ってもそんなことくらいしかわかんないなー
・・・・あ。後は笑顔が素敵なのとやさしいってのと…うーん。
瀬戸明日香さんと一緒にいると最高の笑顔を見せる…かな」
そう言った後彼女はもう一度明日香の絵を見た。
そして『バイバイ』と口に出さず手だけを振ってその場を去った。
「おいおいおい」
吉田さんが去ったと思ったら今度は中尾だった。
「お前か」
「なぁ、今の意味わかったよな…。
うわーお前罪。うん、罪だー」
「は」
「は?じゃねーよ!!!
お前は俺を苦しめ、そんでもってあの子も苦しめるのかッ」
「お前は勝手に苦しい道歩いてるんだろ!」
「きづかねーのか」
「…わかるよ、それくらい。
けど僕には明日香しかありえない。
笑うなよ…おい。」
僕が照れくさそうな顔をするのを見ながら中尾は大笑いしていた。
僕はとりあえず思いっきり殴りつけたあと吉田さんがしたように彼女の絵を見た。
「…本当不思議だ」
「この絵?」
「うん。同じ風景でさ、彼女の目ではこう見えてたんだ。
例えそれが病気のせいでもさ、こっちのが綺麗だよな」
「だな。
俺はこれ見たときちょっとしびれたかも…
俺も絵が好きで入ったけどこんなの無理だもん」
「あのさー…
この絵見るたびに後悔するわけ…。
あんな約束守れないってー・・・・・・・・」
中尾が僕の背中を思いっきり叩く。
気合を入れてくれたようだった。
「…えぇ!?
わ、私の絵飾ってあるの!?」
「ですよー。
教授が喜んでね、飾ってあります」
「ど・・こに」
「教授の部屋の前です」
「よ、よかったあ…
あそこ人来ること少ないでしょ…もー!」
彼女は顔を真っ赤にしながら怒った。
本当は嬉しくて仕方ないのだろう。
嬉しいのを隠す癖である布地を握るが出ていた。
シーツをギューっと握り締めている。
「でも…あれ賞とったしいいかなと思って渡したけど
やっぱりちゃんと見えてたときの作品のがよかったよねえ…」
「ん、いや。
僕はあれがいいと思います。
今日話し掛けられた子とも言っていたんですが
あの作品は不思議なところもあって僕大好きです。」
「…そう?」
「はい。
同じ景色を見たのに色使いが違うだけで不思議な空気も出てていいですよ」
「見たままだったんだけどねー(笑)
それがよかったんですよ」
彼女はそう言われると窓から吹く風で紙を揺らしながら
「そしたら…それが最後の作品になったのはよかったのかもしれないね」
と、笑った。
僕は頷いていいのか迷ったがそうだと思ったし頷いた。
「で。
今日話し掛けられた子って…だあれ?女の子でしょう!!」
「え。そうですけど…どうして性別が?!」
「亮ちゃんはね、男の子なら『あいつ』とか『奴』っていうの!
女の子なら『あの子』とか優しげなのー!!誰なの!」
「え、えっとー…
陶芸の吉田…吉田…」
「亜由美?」
「あ、そう亜由美…って!」
彼女は手をあごに当てて何か考えているようだった。
「んー…あの子かぁ…。」
「どうかしました?」
「ねぇ、亮ちゃん」
彼女がベッドの上に正座した。
「キス…しよう」
突然何を言い出すんだこの人!!
「あの…何を…突然…」
「い…や?」
嫌じゃない。
全然全く。
変に積極的な彼女にドキマギしながら頬にそっと手を当てる。
そうすることによって彼女の身体が一瞬固まるのを感じる。
僕を見つめていた目を閉じ少し顔を上げる。
僕はその彼女の唇にそっと唇を重ねる…
いつもは僕がすることに応えてくれる彼女。
けれど今日は逆で、彼女が僕の口内を探るようにする。
僕は彼女が入ってきやすいようにしたりと応える…
「ど・・うし・・・たんです・・・か・・・?」
唇が離れるときを狙って声を出す。
彼女は唇を離し、ニコリと笑って
「嫌?」
と聞く。
「なわけないじゃないですか」
そう言うともう一度唇を重ねる…
深く、深く、そして長い、長いキスが
何分続いたのだろうか。
頭がぼーっとし始めた頃、僕は限界を感じる。
ゆっくりと彼女を放した。
「…亮ちゃん?」
「ごめんなさい。この間といい今日といい…。
僕、もう駄目ですよ…
こんなこと言うの恥ずかしいですけど…我慢が…ね」
そう言うと彼女はニッコリと笑って
「…わかった。
私だって…その…えと…だから、し…よ?」
思いもしなかった展開に僕は唖然とする。
本来ならばこのまま…と思うがまだ僕には理性を押さえつける力が残っていたみたいだ。
(よ、よかった…本当に)
「…駄目です。
前明日香が言った通り誰がくるかわからない…」
「大丈夫…誰も…来ないよ」
「…明日香。」
そっと彼女を寝かせる。
彼女はゆっくりと目を閉じた。
僕はもう一度彼女にキスをしたあと
「こうしましょう。
二人でもしもの時の対策で最高なアイディアが浮かんだときに…どうです?
じゃないとここにいるのは明日香だ。
恥ずかしさとかでやってけなくなるよ」
最後は冗談っぽく笑って見せた。
彼女はゆっくりと頷き僕の肩を持って座りなおす。
「ねぇ、亮ちゃん…できないからって私のこと嫌いになったり…しない?」
「…何言ってるんですか?
それ目的だけなら今でもしてますって。
大丈夫です。何も心配しなくてもいいんです」
「うん、うん…
亮ちゃん…好き。好きだから…」
「はい」
「好き…」
「はい」
「好き…好き…好き…好きです…」
「僕もです」
僕らはもう一度キスをする。
これ以上にない、幸せな味なキス…
「あらまぁまぁまぁ」
声がしたのに驚き、そしてその声には聞き覚えがありまくるのに驚き
僕らの体はカチっと固まった。
動かしにくい首を扉に向ける・・・・
「あ、ご、ごめんなさいね、出るわね!」
お母さんだ…
「おおおおおおおおお母さんッ
も、もう!ノックくらいしてよ!」
「し、したけど…あ、ちょ、ちょっとあなた!!」
お母さんを押しのけるようにして怖い顔をした男性が入り込んできた。
彼女が僕の横でハッと息を呑んだ…
ま、まさか・・・・・・・
「人様の娘をこんな病室で…!!!
お前!ドコのドイツだ!ええ!?」
「あ、え、は、あ、は、はい、え、えと」
僕が思いっきり慌てているのを心配そうに彼女は見ながら僕の手をギュっと握った。
その瞬間、全ての緊張が解けた。
「初めまして。
明日香さんのお父様ですか…?」
「そうだ。それよりも…」
「田村亮介と申します。
彼女と…お、お付き合いさせていただいています。
ご機嫌を損ねられるところをお見せしてしまって、すみませんでした」
僕が深く頭を下げた時、周りが笑いに包まれた。
「りょ、亮ちゃん…そんなキャラじゃないでしょぉ!?」
「亮介君なかなかやるのねぇ」
「あぁーどんな顔してるのぉ?!面白いだろうなぁ…」
僕がオドオドしていると肩をボスンと叩かれる。
イ、痛い・・・・・・・・
「おーまえが亮ちゃんか!
いやー驚かせてしまったね。
明日香の父です。明日香や妻から話は聞いているよ。ありがとう」
このありがとうにはいろいろな意味が含まれているのだろうか。
僕はこのありがとうには大きさが半端ないと勝手に理解して頭を下げた。
それからしばらく4人での談笑が続いた。
お父さんもお母さん同様楽しい人ですぐに溶け込めた。
お母さんが嬉しそうに
「いつかうちの食卓を囲んでこんな風に話したいわねー」
「明日香孫を用意しなさい」
「えー!それって…
どうかなぁー亮ちゃん次第だなぁ」
「え、ぇ?!」
そんな会話もあり、
僕はこの家族の一員になってもいいのかと思えると嬉しくてたまらかった。
いつもはお母さんと病院を後にするのだが
今日は彼女の両親そろってと帰宅だ。
さっきまであんなに笑って話していたのに
病室を出ると静かな空気に絶えられなかった。
「田村君、私たちは車なんだ乗っていきなさい」
さっきまでは『亮ちゃん』や『亮介君』だったのに
突然の呼び方に身体が固まる。
「え、いや…」
「遠慮したら私は怒るよ」
ニッコリと笑うその笑顔が怖い。
いつものようにお母さんが笑ってくれると少しは気が楽なのだが
お母さんも笑いはせず、黙っているだけだった。
「え、っとお願いします」
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