あなたへ

深崎香菜

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それから毎日彼女は手紙をくれた。
最初、これが亮介宛なのならば読まないでおこうと思ったが
時々会話の中で返事をしないといけないときがあったため
結局は読むことになってしまった。
彼女の手紙の内容は、濁音や文章の終わりの句点なんかが
変なところにあることがあったが
それも慣れるとスムーズに読むことができるようになった。
 
一ヶ月で30通。
二ヶ月で62通。
そしてついに84通目となった。
 
―あさってびょういんではなつまりがあります
 きょねんはそのまえにたいいんしたから
 しらなかったけれど
 たのしみでしかたがありません
 りょうちゃんもいっしょにいこうね―
 
こんな感じの何気ない文章。
俺はそんな彼女からの届くはずのない相手への手紙を読み、
返事をし、時には苦しみこの数ヶ月を超えてきた。
 
まさか
 
こんな形で
 
俺の新たな道が
 
崩れるとは
 
そのときは知らず
 
いつものように
 
祭りの誘いを
 
OKしていた。
 
 
「タンジョウビ ノ マエダネ」
「そう。誕生日より一週間前に。
 去年は八月半ばだったらしんだけど
 ここ最近天気がいいじゃない?
 だから花火大会に合わせてするんですってー」
「ソレハ トテモ タノシミデスネ」
「うんうん。
 だから亮ちゃんも行こうね?」
「ハイ」
彼女は鼻歌を歌う。
俺はそんな彼女の隣に座って本を読む。
「なんか、亮ちゃん雰囲気変わったよねー」
「ソウカナ」
「うん。
 やっぱいろいろ変わってくのかな…」
「キノセイ ジャ ナイ」
「どうだろうねー
 でも、亮ちゃんがそこにいるってわかるだけで安心できるのは
 ま~ったくかわんないや」
そう言って照れ笑いする。
そういえば以前亮介が言っていたことがある。
 
 
「なぁ、お前は瀬戸さんの何処が好きになったわけ?」
「ん…
 僕も中尾と一緒で一目惚れのようなものだよ。
 入学式の時にさ、遅刻した僕に話し掛けてきて
 なんか唐突な性格がいいなって思ってさ」
「ほー
 俺はあれだ。
 瀬戸さんが笑ってたんだ。
 そのなんか、うん。」
「あぁ。明日香さんの笑顔ってすごい可愛いね。
 照れ笑いした顔とかすごく僕好きだ」
 
 
確かに可愛い。
こうやって俺が亮介の代わりをするようになってから
何度か目にしたが
いつ見ても可愛いと思える表情だった。
 
 
「ジャア ボク バイト イッテキマス」
「あ、はい。
 んじゃー。夏祭り明後日だからね?」
「ワカリマシタ」
「じゃあね」
俺は挨拶をした後病室を出る。
いつもタイミングよくお母さんと会うのだ。
「あら、また明日ね」
「はい。また明日」
 
 
 
玄関を出る時、何かを呟いている汚らしい人とすれ違った。
いつもならば『汚いな』と一瞬見るだけなのだが
その声に覚えがあるために腕を掴んで引き止めた。
「・・す…す…ろ…こ…す…ろ」
「…吉田…」
変わり果てた彼女の姿は吉田亜由美と判断するのに少し時間がかかった。
彼女は俺に気づいていないかのようにして
何かをずっと呟いている。
俺の目を数秒見たかと思ったらそのまま無視して前へ進む。
「おい…待て!」
それでも聞こうとしない。
 
「亜由美ちゃん…!待ちなさい、亜由美!」
後ろから女性が走ってくる。
その女性もまた、酷い姿だった。
疲れきっていて顔は窶れ気味。
服なんかはヨレヨレだった。
「あ、亜由美ちゃん」
「あの…」
俺は彼女の手を離さないようにした。
「吉田さん…の?」
「えっと…」
「あ。同じ美大の者です。
 あの…」
「ごめんなさい。
 この子、数が月前から様子が変で…
 今も…せい…病院から抜け出してしまってたの。
 よかった。追いついて…ありがとうございます。」
その女性は彼女の手を引いて去っていったわけだが、
その間ずっと彼女は奇声をあげていた。
後にわかったことなのだが、
彼女はあの時の事故で亮介という好きな人を自分が原因で亡くした事で
精神的ショックが大きく、
今では精神科で治療を受けているとの事だった。
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
~~~~~~♪
 
 
 
静かな部屋に着信音が響く。
俺は今では亮介のアパートに住んでいた。
亮介の携帯が鳴っている。
彼女からだと悟る。
 
「亮ちゃん…?」
やはりそうだった。
俺は電子機器を引っ張り出し返事をする。
「…ごめんね。
 でも…ちゃんと確認したかった…」
「ナニカ アリマシタ」
携帯用のイヤホンを付けて、音声がちゃんと聞こえるようにマイクへと機械を持っていく。
「…夢を……見たの。
 すごく綺麗なところ。光がたくさんあってまるでオーロラの中だった。
 そこにね…亮ちゃんが立ってるの。
 近づこうとしても亮ちゃんは離れて行くの。
 それで最後に言うの。
 『さようなら』って…
 本当に亮ちゃんに言われた気がして怖くて…でも…」
「ダイジョウブデス」
「…うん。」
「ソッチ イク」
「ううん。
 大丈夫だよ。ありがとう…」
そう言って彼女は電話を切る。
公衆電話からかけたのだろう。
彼女の携帯は解約済みだ。
俺は少し気になったがそのまま眠ることにした。
 
 
 
 
次の日、俺は携帯を家に忘れたことに気づく。
それも自分の分も亮介の分も…
「あー。
 また亮介に怒られるな」
いつかのことを思い出しながら笑う。
取りに戻ろうと思ったがそれでは遅刻になるので
やめておく。
今日一日くらい大丈夫だろう。
夕方には彼女の元へ行くのだがら、その点は心配ない。
 
携帯がなくても不便と感じることなく一日を終え、(普段からあまり鳴らない。)
俺はいつものように電車に乗って病院へ向う。
病棟へと繋がる廊下の辺りが少し騒がしかったが素通りする。
昨日の彼女の様子から早く会いに行きたかった。
しかし、病室の中は空っぽだった。
「…リハビリかな。例の」
未だに内緒にしているつもりの歩行のリハビリ。
だから俺は椅子に座って待つことにした。
 
 
 
 
 
いつのまにか眠ってしまってたのだろう。
ウトウトしだしたところまでは覚えているのだが…。
すごい勢いで扉が開く。
「…お前!ここにいたのか。
 何してる…!」
「…ん…瀬戸…さ?」
「早く、早く来てやれ!!」
慌てた様子が何か怖くて立ち上がることが出来ない。
かすれた声しか出なかったがゆっくりと聞いてみる。
「何か…あったんですか…?」
瀬戸さんは何も答えず俺の手を引っ張る。
寝起きだからなのか、それとも嫌な予感と怖さで足がふらつくのか…
上手く歩けない。
 
 
「…!お母さん?!」
連れてこられたところではお母さんがベッドに寝かされていた。
『集中治療室』
「…な、にが…」
「お前が気にするのは…この部屋だろう」
背中を押される。
覗くとお母さんの姿を見、そして瀬戸さんの言葉を聞いて確信に近づいた…
 
 
 
 
「あ…すか…」
 
明日香の身体。
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