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結末
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「明日香!!!」
ガラスにへばりつく。
ガラスの向こうの彼女は包帯だの管だのでめちゃくちゃだった。
「お前にずっと…連絡をしていたんだぞ」
後ろで瀬戸さんが唸るように話す。
俺は携帯を確認しようとポケットや鞄を探る…
そうだ…
家に…
忘れたのだ。
「すみません…携帯を…忘れてしまっていて…」
「…お前にとやかく言っても意味はないな。」
「あの…二人は…何が…」
「…事故。と言ってもいいらしい。
私もねついさっき駆けつけたんだ。
病院から連絡が入った。
祭りの準備をしているのを二人が見学しているのを
目撃した先生がたくさんいたよ。
その準備中の事故だったんだ…」
「…事故」
「聞いた話だとね、
大きなガラス板を運んでいたらしいよ。
そのガラスを冷たく凍らしてね、曇らせるんだそうだ。
それをオブジェの一部にと仰っていたよ。
それを運んでいる時、退くように言ったらしい。
二人がその場を去ろうとした時、
何が原因なのかガラスにヒビが入ってね。
爆破するようにして割れたんだそうだ。
きっと原因はこの暑さだろうね。
怪我人は全部で八人。
しかし重傷者は二人だ。」
「…それが」
「明日香と妻なのだよ。」
胃の中に氷が落ちるような感覚に襲われる。
足が自然とカクンと折れる。
瞬きも出来ず、息さえ出来ない…
「中尾君、立ちなさい」
瀬戸さんの声がとても遠く聞こえる。
「立て!!!」
今度はハッキリと聞こえた。
「……ヒハッ…ハッ…ハッ…ハッ」
本当に息が止まっていたみたいだ。
驚きと一緒に時間が戻ってきた。
「…すみません。」
「私もこの状況を信じたくない。
けどね、ここで弱気になったら駄目なんだ。
祈れる相手が二人もいるんだ。」
「…きっと三人です」
「アイツか」
「はい。アイツはこんなの許さないでしょう」
「…だといいんだがね」
「きっと。」
間もなくして二人は集中治療室を出ることになった。
怪我はとても大きく、頭や腕、足なんかに痕が残るといわれた。
幸い、顔には大した傷がなかったため瀬戸さんと俺は安心した。
ただ、後遺症として手足が痺れ動かしにくくなるかもしれないといわれた時は
さすがに言葉を失った。
それは特にお母さんが危険だと言われた。
「それじゃあ私は妻に着くよ。」
「…あ、はい」
二人の病室は隣同士になった。
時期、目を覚ますはずだと言われた。
命に別状はないらしい。
ただ、しばらくの間意識不明状態が続くかもしれないと。
けれど俺たちは彼女らが生きていてくれることだけが嬉しかった。
俺はそっと彼女の手を握る。
あの日を境に彼女に自分から触れることはなくなった。
そのことできっと彼女を傷つける事もあっただろう。
私には興味もうないの?
なんて聞かれたらどうしようかと焦っていた時期もある。
彼女の顔を見ながら身体中の包帯へと目がいく。
泣きそうになる。
彼女にどうしてこんなにも悲しいことばかり起こるのだろうか。
目が見えなくなり、副作用で髪は抜け、歩きにくくなり、そして亮介を失い…
まだ事故とまできている。
こんなの…惨い。
俺はショボくれた目を擦る。
どういうわけか今日は一日中眠くて仕方がないのだ。
こんな時に眠っていられない。
けれど、彼女の手の暖かさと
その横に置かれた機械の『ピッピッピ』という音に心地よさを感じてしまい
身体がどんどんと重くなるのを感じた。
―ごめん。―
…?
―ごめんな?―
あ…謝るなって
―うん。
けど、謝らないといけない―
どうして?
―僕は酷いヤツだから―
いやな…俺も…
―アレは仕方がないよ。
なぁ、何があっても泣くなよ。笑えよ―
ん…
無理かも…
―お前なぁ…
頼むからさ。―
ん…
仕方ねーな。…亮介。
―…ばれてたか―
あたりまえだよ。
今日一日ずっと眠かったのはお前のせいか。
―まあな。
ずっと…お前と話したかった。
そのために願ったんだ―
願えばかなえられるのか?
―どうだろう―
じゃあ試してくれ。
今…彼女とお母さんが大変なんだ。
―…知ってるよ―
そしたら話が早いな。
彼女らの回復を…一緒に願ってくれ。
―…なぁ中尾。
僕はお前に酷いことを頼んだけど聞いてくれたな。
この数ヶ月間、ずっと苦しい思いしてさ―
そりゃ俺も彼女には笑っててほしかったから。
―ごめん―
亮介?
薄っすらと目を開ける。
彼女の手を握ったまま眠っていたようだ。
ベッドにうつ伏せになるようにして寝ている。
あー。背中痛くなるだろうな。
足が見えた。
その靴は見覚えのある靴だ。
汚い…コンバースの…靴。
亮介?
声が出ない。
せめてそっちを向こうとするのだが身体が動かない。
ストンと音がした。
コンバースの横にまた一人分の足が増える。
その足は裸足だった。
二つの足はゆっくりと歩いていく。
そしてすぐに俺の視界から消えた。
それと同時に身体が動く。
そしてさっきまで心地よかった電子音が変わる。
「あ…すか!!!!」
彼女に駆け寄る。
薄っすら微笑んだような顔で眠っている。
「明日香、起きてくれよ、明日香!明日香!!!」
彼女が返事をするわけがない。
だってもう電子音は
『ピー』と一定の音を鳴り響かせつづけているのだから。
「おい、亮介かよ…
お前が連れて行ったのかよ…
謝っても許すかよ!!!
どうして…どうして…明日香…明日香…
一緒に祭り行くんだろうがよ!!
お前から言ったんだぜ?
なあ、起きろよ。明日香!!」
「何事…明日香!」
お父さんが入ってくる。
慌ててナースコールを押している。
「すみません、娘が…とにかく。早く、早く来い!!!!!」
その日の夜。
病室内では明日香の名前を呼びつづける泣き声と、
時折声を漏らす悔しそうな声だけが残った。
お母さんが意識を取り戻したのは
明日香の葬式が終わった4日後だった。
最初お母さんはボーっとしていたが
何が起こったのか聞き、そして右腕が上手く動かないことを瀬戸さんに伝えた。
明日香の事を聞くと
亮介の時とは違う表情で声をあげて泣いた。
数日後、遺品整理をしたから来いと瀬戸さんに呼ばれた。
明日香の部屋に入ると
いつか亮介と三人で映画を鑑賞した日のことを思い出す。
二人がいなくて…俺だけ残った。
「おい。」
瀬戸さんから手渡されたのは一枚の便箋だ。
四つ折になっている。
「他にもあるぞ」
他の物はクシャクシャな状態だ。
きっと明日香が書いて捨てた物だろう。
俺はクシャクシャなほうを読む。
―こんにちわ、りょうちゃん
あしたはいよいよおまつりだね
いまから―
―りょうちゃんあしたはいよいよおまつりです
いまからわたしは―
―こんにちわ。
あれ、そういえばこんにちは?わ?―
全て書きかけで止まっていて丸められて捨てられたようだ。
今度はまだ綺麗な便箋を見る。
四つに折られた便箋をゆっくりと開ける。
「…はは」
「…?」
「…ははは…かないませんよね。
俺は…帰らせてもらいますね。
瀬戸さん、ありがとうございました。」
「中尾君?」
「また、お見舞いに行きます。」
「あ、ああ。」
キョトンとした瀬戸さんをおいて俺は瀬戸家を後にする。
手紙の内容は本来ならばとても嬉しい内容だった。
この数年間待ちつづけていた言葉。
けれど、俺はその内容を見ても
嬉しい気持ちにもなれなかったし
涙さえでなかった。
昨日まではあんなに泣いた。
明日香と亮介と過ごした日々を思い出し、
亮介になると誓い、明日香と過ごした日々を思い出し…
涙は枯れてしまったのだろうか?
もう、溢れることも零れることもなかった。
何故…だろう。
きっと理由はこうだ。
この手紙は最初の一通目から…
亮介に宛てられたものだったから。
だから…俺は苦しいのだ。
こんなにも…
あの場に立っていることさえも出来ないくらい。
なあ、
どうして二人はいないのに
俺だけがいるんだよ…
最初いっそのこと俺も…と思った。
しかしあの時あの場所で亮介は俺を連れて行く事はしなかった。
だから俺は死を選ばなかった。
というのは言い訳で本当は怖かったのかもしれない。
結局、一番無力だったのは俺なのだ。
全てを失った俺の背中を彼らは見ているのだろうか?
そんなことはわからない。
俺は先ほど読んだ便箋を亮介の祭壇に供える。
「中尾君それは?」
「さあ。ここに、おいてやってください」
亮介のお母さんは中を見ただろうか。
俺からのメッセージと勘違いしないだろうか。
ふと、笑みがこぼれる。
もしかしたらあの日…
二人で同じ駅で降り、それぞれ反対方向に帰ったあの日…
あの日からこういう運命が待っていたのかもしれない。
いいぜ。
お前らの分笑ってやるよ。
その代わり…そっちに逝ったときは相手しろよ?
…亮介。
ガラスにへばりつく。
ガラスの向こうの彼女は包帯だの管だのでめちゃくちゃだった。
「お前にずっと…連絡をしていたんだぞ」
後ろで瀬戸さんが唸るように話す。
俺は携帯を確認しようとポケットや鞄を探る…
そうだ…
家に…
忘れたのだ。
「すみません…携帯を…忘れてしまっていて…」
「…お前にとやかく言っても意味はないな。」
「あの…二人は…何が…」
「…事故。と言ってもいいらしい。
私もねついさっき駆けつけたんだ。
病院から連絡が入った。
祭りの準備をしているのを二人が見学しているのを
目撃した先生がたくさんいたよ。
その準備中の事故だったんだ…」
「…事故」
「聞いた話だとね、
大きなガラス板を運んでいたらしいよ。
そのガラスを冷たく凍らしてね、曇らせるんだそうだ。
それをオブジェの一部にと仰っていたよ。
それを運んでいる時、退くように言ったらしい。
二人がその場を去ろうとした時、
何が原因なのかガラスにヒビが入ってね。
爆破するようにして割れたんだそうだ。
きっと原因はこの暑さだろうね。
怪我人は全部で八人。
しかし重傷者は二人だ。」
「…それが」
「明日香と妻なのだよ。」
胃の中に氷が落ちるような感覚に襲われる。
足が自然とカクンと折れる。
瞬きも出来ず、息さえ出来ない…
「中尾君、立ちなさい」
瀬戸さんの声がとても遠く聞こえる。
「立て!!!」
今度はハッキリと聞こえた。
「……ヒハッ…ハッ…ハッ…ハッ」
本当に息が止まっていたみたいだ。
驚きと一緒に時間が戻ってきた。
「…すみません。」
「私もこの状況を信じたくない。
けどね、ここで弱気になったら駄目なんだ。
祈れる相手が二人もいるんだ。」
「…きっと三人です」
「アイツか」
「はい。アイツはこんなの許さないでしょう」
「…だといいんだがね」
「きっと。」
間もなくして二人は集中治療室を出ることになった。
怪我はとても大きく、頭や腕、足なんかに痕が残るといわれた。
幸い、顔には大した傷がなかったため瀬戸さんと俺は安心した。
ただ、後遺症として手足が痺れ動かしにくくなるかもしれないといわれた時は
さすがに言葉を失った。
それは特にお母さんが危険だと言われた。
「それじゃあ私は妻に着くよ。」
「…あ、はい」
二人の病室は隣同士になった。
時期、目を覚ますはずだと言われた。
命に別状はないらしい。
ただ、しばらくの間意識不明状態が続くかもしれないと。
けれど俺たちは彼女らが生きていてくれることだけが嬉しかった。
俺はそっと彼女の手を握る。
あの日を境に彼女に自分から触れることはなくなった。
そのことできっと彼女を傷つける事もあっただろう。
私には興味もうないの?
なんて聞かれたらどうしようかと焦っていた時期もある。
彼女の顔を見ながら身体中の包帯へと目がいく。
泣きそうになる。
彼女にどうしてこんなにも悲しいことばかり起こるのだろうか。
目が見えなくなり、副作用で髪は抜け、歩きにくくなり、そして亮介を失い…
まだ事故とまできている。
こんなの…惨い。
俺はショボくれた目を擦る。
どういうわけか今日は一日中眠くて仕方がないのだ。
こんな時に眠っていられない。
けれど、彼女の手の暖かさと
その横に置かれた機械の『ピッピッピ』という音に心地よさを感じてしまい
身体がどんどんと重くなるのを感じた。
―ごめん。―
…?
―ごめんな?―
あ…謝るなって
―うん。
けど、謝らないといけない―
どうして?
―僕は酷いヤツだから―
いやな…俺も…
―アレは仕方がないよ。
なぁ、何があっても泣くなよ。笑えよ―
ん…
無理かも…
―お前なぁ…
頼むからさ。―
ん…
仕方ねーな。…亮介。
―…ばれてたか―
あたりまえだよ。
今日一日ずっと眠かったのはお前のせいか。
―まあな。
ずっと…お前と話したかった。
そのために願ったんだ―
願えばかなえられるのか?
―どうだろう―
じゃあ試してくれ。
今…彼女とお母さんが大変なんだ。
―…知ってるよ―
そしたら話が早いな。
彼女らの回復を…一緒に願ってくれ。
―…なぁ中尾。
僕はお前に酷いことを頼んだけど聞いてくれたな。
この数ヶ月間、ずっと苦しい思いしてさ―
そりゃ俺も彼女には笑っててほしかったから。
―ごめん―
亮介?
薄っすらと目を開ける。
彼女の手を握ったまま眠っていたようだ。
ベッドにうつ伏せになるようにして寝ている。
あー。背中痛くなるだろうな。
足が見えた。
その靴は見覚えのある靴だ。
汚い…コンバースの…靴。
亮介?
声が出ない。
せめてそっちを向こうとするのだが身体が動かない。
ストンと音がした。
コンバースの横にまた一人分の足が増える。
その足は裸足だった。
二つの足はゆっくりと歩いていく。
そしてすぐに俺の視界から消えた。
それと同時に身体が動く。
そしてさっきまで心地よかった電子音が変わる。
「あ…すか!!!!」
彼女に駆け寄る。
薄っすら微笑んだような顔で眠っている。
「明日香、起きてくれよ、明日香!明日香!!!」
彼女が返事をするわけがない。
だってもう電子音は
『ピー』と一定の音を鳴り響かせつづけているのだから。
「おい、亮介かよ…
お前が連れて行ったのかよ…
謝っても許すかよ!!!
どうして…どうして…明日香…明日香…
一緒に祭り行くんだろうがよ!!
お前から言ったんだぜ?
なあ、起きろよ。明日香!!」
「何事…明日香!」
お父さんが入ってくる。
慌ててナースコールを押している。
「すみません、娘が…とにかく。早く、早く来い!!!!!」
その日の夜。
病室内では明日香の名前を呼びつづける泣き声と、
時折声を漏らす悔しそうな声だけが残った。
お母さんが意識を取り戻したのは
明日香の葬式が終わった4日後だった。
最初お母さんはボーっとしていたが
何が起こったのか聞き、そして右腕が上手く動かないことを瀬戸さんに伝えた。
明日香の事を聞くと
亮介の時とは違う表情で声をあげて泣いた。
数日後、遺品整理をしたから来いと瀬戸さんに呼ばれた。
明日香の部屋に入ると
いつか亮介と三人で映画を鑑賞した日のことを思い出す。
二人がいなくて…俺だけ残った。
「おい。」
瀬戸さんから手渡されたのは一枚の便箋だ。
四つ折になっている。
「他にもあるぞ」
他の物はクシャクシャな状態だ。
きっと明日香が書いて捨てた物だろう。
俺はクシャクシャなほうを読む。
―こんにちわ、りょうちゃん
あしたはいよいよおまつりだね
いまから―
―りょうちゃんあしたはいよいよおまつりです
いまからわたしは―
―こんにちわ。
あれ、そういえばこんにちは?わ?―
全て書きかけで止まっていて丸められて捨てられたようだ。
今度はまだ綺麗な便箋を見る。
四つに折られた便箋をゆっくりと開ける。
「…はは」
「…?」
「…ははは…かないませんよね。
俺は…帰らせてもらいますね。
瀬戸さん、ありがとうございました。」
「中尾君?」
「また、お見舞いに行きます。」
「あ、ああ。」
キョトンとした瀬戸さんをおいて俺は瀬戸家を後にする。
手紙の内容は本来ならばとても嬉しい内容だった。
この数年間待ちつづけていた言葉。
けれど、俺はその内容を見ても
嬉しい気持ちにもなれなかったし
涙さえでなかった。
昨日まではあんなに泣いた。
明日香と亮介と過ごした日々を思い出し、
亮介になると誓い、明日香と過ごした日々を思い出し…
涙は枯れてしまったのだろうか?
もう、溢れることも零れることもなかった。
何故…だろう。
きっと理由はこうだ。
この手紙は最初の一通目から…
亮介に宛てられたものだったから。
だから…俺は苦しいのだ。
こんなにも…
あの場に立っていることさえも出来ないくらい。
なあ、
どうして二人はいないのに
俺だけがいるんだよ…
最初いっそのこと俺も…と思った。
しかしあの時あの場所で亮介は俺を連れて行く事はしなかった。
だから俺は死を選ばなかった。
というのは言い訳で本当は怖かったのかもしれない。
結局、一番無力だったのは俺なのだ。
全てを失った俺の背中を彼らは見ているのだろうか?
そんなことはわからない。
俺は先ほど読んだ便箋を亮介の祭壇に供える。
「中尾君それは?」
「さあ。ここに、おいてやってください」
亮介のお母さんは中を見ただろうか。
俺からのメッセージと勘違いしないだろうか。
ふと、笑みがこぼれる。
もしかしたらあの日…
二人で同じ駅で降り、それぞれ反対方向に帰ったあの日…
あの日からこういう運命が待っていたのかもしれない。
いいぜ。
お前らの分笑ってやるよ。
その代わり…そっちに逝ったときは相手しろよ?
…亮介。
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