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第二部 大学生編
第二十二話 亀裂の瞬間
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自分でもわかる。あたしはすごく機嫌がいい。
鼻歌なんか歌っちゃって、本当にどうかしている。
歓迎会の間、佐藤先輩が他の先輩たちに呼ばれるまで、あたしはずっと佐藤先輩と話していた。
先輩が席を立った後、相良さんや海野さんにいろいろ聞かれたので今までの経緯を話していいものか少し迷ったけれど、(少し暗い話になってしまうもの。友達がいない、なんて)話すことにし、初めていろいろと共感することが多い人と出会え、仲良くしてもらっていると言った。
誰一人その言葉を信じていなかったけれど、あたしには愛花という恋人もいるし、愛花以外に恋愛感情を抱くなんてありえない事。
周りには言わせておけばいいし、だからと言って愛花との関係を言うわけにもいかないので適当にはぐらかしておいた。
みんなは二次会に参加するようだったけれど、愛花が気分が悪いと言ったのであたしたちは帰る事になった。
本当に気分が悪いのか、愛花はバスの中でもずっと黙ったままだった。
未成年のくせにいつの間にかお酒を口にしたのだろうか?
今まで飲んだことないものだから、それで気分が悪くなったのかもしれない。
「マナ、大丈夫?」
「……うん、先にお風呂入るね」
「お酒、呑んだの? もしそうなら入らないほうがいいわよ? 余計に酔いが回っちゃう」
「……呑んでないから、大丈夫」
「そんな事言ってぇ。本当は呑んだんでしょ? お母さんたちには内緒にしておいてあげる」
「呑んでないってば! 大丈夫だから、お風呂いってくるから」
少し怒った様子の愛花に驚き、それ以上何も言えなくなってしまった。
愛花はあたしが何も言わないと、そのまま脱衣所に姿を消す。
少し大きな声だったからか、心配そうに母が顔を覗かしたけれど誤魔化しておいた。
母も少し呆れたようにため息をついて、
「マナ、お酒でも呑んだんでしょ~? まあ、そういう場だから付き合いもあるから何もいわないけど。弱いならほどほどになさいって言っておいてね?」
と、言った。なんでもお見通しってわけかしら?
一足先に自室に戻り、携帯電話を取り出す。
正直、あれは歓迎会という名の合コンに近いな~と、思った。
思った事を口にすると先輩も同じように笑い、「俺もそう思う」と言っていて二人で笑った。
皆それぞれ、携帯の番号を交換していたけれど、ここで便乗するとなんだか負けた気分になり先輩の番号を聞こうとしてやめておいた。
それは先輩も同じだったのか、向こうからも聞かれなかった。……興味が無かったのかもしれないけれど。
先輩に聞いた作家の名前を検索してみる。
あまり聞いたことのない作家名だったのだけれど、タイトルを見るといくつか知っているものがあった。
あぁ、あれを書いた人か~なんて思っているところに、愛花がお風呂からあがってきた。
「お疲れ様。今日はもう寝るでしょう? 先に寝てていいからね。あたしもお風呂入ってくる」
そう言って自分のパジャマを持ち部屋を出ようとしたとき、突然右腕を捕まれた。
掴んだ相手はもちろん愛花。何も言わない事に疑問を感じ、どうしたのかと問いかけてみても何も答えない。
あたしだって早くお風呂に入りたいのに……
けれど、こんな愛花は珍しく、放っておく事も出来ない。何かあったのだろうか?
「マナ? どうしたの?」
いつものように、優しく聞いたつもりだった。
けれどあたしの問いかけに対し、愛花が返してきたのは言葉ではなかった。
鋭い目つきで睨み付け、そして、掴まれているのとは反対の手で頭に触れようとしたところ、思いっきり払われてしまった。
愛花の行動が理解できない。じわじわと手の甲が痛み出してきた。
「~~~っ!」
手の甲よりも激しい痛みを感じる。それは掴まれた右腕だ。
掴んだ時よりも強い力が加わり、思わず目に涙が浮かぶ。
何処からそんな力を出しているの? と聞きたいほどに、強い力が加えられていた。
「マナ、痛い。離して? ~~っ! 痛いってば!!!」
離してと言うと更に強くなる。一体あたしにどうしてほしいのだろう。
「何も言わないから、わからないわよ。どうしたの? ねえ、痛いってば。ちょ、っと痛い!!!」
きしきしと骨が悲鳴を上げる。
このままじゃ骨が折られちゃう。そう思ってしまうほどの力。
反対側の手で掴まれた腕を解放しようとする。
もう愛花に何を言っても意味が無いと思ったからだ。
何も答えず、ただあたしの腕に力を加えて何かを訴えかけている。
いつものあたしなら、愛花がその何かを口にするまで付き合うのだけれど、この痛みに耐えながらは、無理。
なんとかしようとするあたしに腹を立てたのか、愛花は再びあたしを睨み付けると今度はあたしを思いっきり後ろに押した。
強い力で掴まれていた腕が離れ、そこに身体を押されてしまったのだから、あたしは派手に後ろに倒れこんでしまった。
しりもちもついたけれど、勢いで棚に腕をぶつけてしまう。
ぶつけた所はすぐには痛まないのだけれど、じわじわと熱を持ち痛み出してくる。
「ねえ、あの人は、誰?」
倒れこんだあたしの上に座って愛花がやっと口を開く。
一体何の事だかわからない。
「あの人、って……?」
「誰? どうしてあんなに仲が良いの? どうして、アイちゃんが、他の人とあんなに楽しそうにするの? わたしだって、アイちゃんと小説のお話、できるよ? 漫画も好きだけど、アイちゃんがオススメしてくれるなら、小説だって読むもん」
“小説”でようやく理解する。愛花は佐藤先輩の事を言っているのだ。
きっと歓迎会で愛花そっちのけで話していたのが気に障ってしまったのだろう。
思い出してみれば、あたしは本当に愛花を気にせず話し込んでしまっていた。
逆の立場ならきっと、あたしだって怒っている。
「マナ、ごめんね? あの人はマナに紹介した通りで……ずっとマナにも紹介したいと思っていたの。珍しくあたしと気があって、初めて出来たお友達で、少し舞い上がりすぎていた。ごめんね? 歓迎会ではマナの事そっちのけだったね。ごめん、本当にごめんなさい」
鼻で笑われる。
そしてしばらく間を空け、「友達?」と言うとクスリと笑われてしまった。
何がおかしいのかと、口を開いた瞬間頭が床に打ち付けられる。
それと同時に息が苦しくなり、顔が腫れ上がるような感覚に襲われた。
「ぁ……ッガ…………ッ!」
首を、絞められていた。
抵抗しようとしても上から体重をかけられている所為か、どうする事も出来ない。
暴れて階下にいる両親に助けを求めようとしたけれど、上手く身体が動かせなかった。
涙が零れ、もう顔が破裂してしまうんじゃないかと思ったときふっと力が弱まった。
愛花を押しのけなんとか逃れる事が出来たけれど、そこであたしはへたり込んでしまう。
「ガハッ……ヘッ……ゴホッ…………ハァ、ハァ……っ」
今度は息を吸いすぎて咽てしまう。こんなところでへたっていたら、愛花がまた襲ってくるかもしれない。
どうにかしないといけないのに、視界は霞み意識は朦朧としていた。
ぼんやりとした視界の中、押し退けたときに転んだであろう愛花がフラリと起き上がる。
駄目だ、もしかしたら今度は殺されてしまうかもしれない。
そう思ったとき、耳に届いたのは予想外の言葉だった。
「わたし……わたしの、一番、は……アイ、ちゃん、なん……だ、よ?」
あの時、あたしに届く事のなかった、聞いた事も忘れていたあの質問の答え、だった……
鼻歌なんか歌っちゃって、本当にどうかしている。
歓迎会の間、佐藤先輩が他の先輩たちに呼ばれるまで、あたしはずっと佐藤先輩と話していた。
先輩が席を立った後、相良さんや海野さんにいろいろ聞かれたので今までの経緯を話していいものか少し迷ったけれど、(少し暗い話になってしまうもの。友達がいない、なんて)話すことにし、初めていろいろと共感することが多い人と出会え、仲良くしてもらっていると言った。
誰一人その言葉を信じていなかったけれど、あたしには愛花という恋人もいるし、愛花以外に恋愛感情を抱くなんてありえない事。
周りには言わせておけばいいし、だからと言って愛花との関係を言うわけにもいかないので適当にはぐらかしておいた。
みんなは二次会に参加するようだったけれど、愛花が気分が悪いと言ったのであたしたちは帰る事になった。
本当に気分が悪いのか、愛花はバスの中でもずっと黙ったままだった。
未成年のくせにいつの間にかお酒を口にしたのだろうか?
今まで飲んだことないものだから、それで気分が悪くなったのかもしれない。
「マナ、大丈夫?」
「……うん、先にお風呂入るね」
「お酒、呑んだの? もしそうなら入らないほうがいいわよ? 余計に酔いが回っちゃう」
「……呑んでないから、大丈夫」
「そんな事言ってぇ。本当は呑んだんでしょ? お母さんたちには内緒にしておいてあげる」
「呑んでないってば! 大丈夫だから、お風呂いってくるから」
少し怒った様子の愛花に驚き、それ以上何も言えなくなってしまった。
愛花はあたしが何も言わないと、そのまま脱衣所に姿を消す。
少し大きな声だったからか、心配そうに母が顔を覗かしたけれど誤魔化しておいた。
母も少し呆れたようにため息をついて、
「マナ、お酒でも呑んだんでしょ~? まあ、そういう場だから付き合いもあるから何もいわないけど。弱いならほどほどになさいって言っておいてね?」
と、言った。なんでもお見通しってわけかしら?
一足先に自室に戻り、携帯電話を取り出す。
正直、あれは歓迎会という名の合コンに近いな~と、思った。
思った事を口にすると先輩も同じように笑い、「俺もそう思う」と言っていて二人で笑った。
皆それぞれ、携帯の番号を交換していたけれど、ここで便乗するとなんだか負けた気分になり先輩の番号を聞こうとしてやめておいた。
それは先輩も同じだったのか、向こうからも聞かれなかった。……興味が無かったのかもしれないけれど。
先輩に聞いた作家の名前を検索してみる。
あまり聞いたことのない作家名だったのだけれど、タイトルを見るといくつか知っているものがあった。
あぁ、あれを書いた人か~なんて思っているところに、愛花がお風呂からあがってきた。
「お疲れ様。今日はもう寝るでしょう? 先に寝てていいからね。あたしもお風呂入ってくる」
そう言って自分のパジャマを持ち部屋を出ようとしたとき、突然右腕を捕まれた。
掴んだ相手はもちろん愛花。何も言わない事に疑問を感じ、どうしたのかと問いかけてみても何も答えない。
あたしだって早くお風呂に入りたいのに……
けれど、こんな愛花は珍しく、放っておく事も出来ない。何かあったのだろうか?
「マナ? どうしたの?」
いつものように、優しく聞いたつもりだった。
けれどあたしの問いかけに対し、愛花が返してきたのは言葉ではなかった。
鋭い目つきで睨み付け、そして、掴まれているのとは反対の手で頭に触れようとしたところ、思いっきり払われてしまった。
愛花の行動が理解できない。じわじわと手の甲が痛み出してきた。
「~~~っ!」
手の甲よりも激しい痛みを感じる。それは掴まれた右腕だ。
掴んだ時よりも強い力が加わり、思わず目に涙が浮かぶ。
何処からそんな力を出しているの? と聞きたいほどに、強い力が加えられていた。
「マナ、痛い。離して? ~~っ! 痛いってば!!!」
離してと言うと更に強くなる。一体あたしにどうしてほしいのだろう。
「何も言わないから、わからないわよ。どうしたの? ねえ、痛いってば。ちょ、っと痛い!!!」
きしきしと骨が悲鳴を上げる。
このままじゃ骨が折られちゃう。そう思ってしまうほどの力。
反対側の手で掴まれた腕を解放しようとする。
もう愛花に何を言っても意味が無いと思ったからだ。
何も答えず、ただあたしの腕に力を加えて何かを訴えかけている。
いつものあたしなら、愛花がその何かを口にするまで付き合うのだけれど、この痛みに耐えながらは、無理。
なんとかしようとするあたしに腹を立てたのか、愛花は再びあたしを睨み付けると今度はあたしを思いっきり後ろに押した。
強い力で掴まれていた腕が離れ、そこに身体を押されてしまったのだから、あたしは派手に後ろに倒れこんでしまった。
しりもちもついたけれど、勢いで棚に腕をぶつけてしまう。
ぶつけた所はすぐには痛まないのだけれど、じわじわと熱を持ち痛み出してくる。
「ねえ、あの人は、誰?」
倒れこんだあたしの上に座って愛花がやっと口を開く。
一体何の事だかわからない。
「あの人、って……?」
「誰? どうしてあんなに仲が良いの? どうして、アイちゃんが、他の人とあんなに楽しそうにするの? わたしだって、アイちゃんと小説のお話、できるよ? 漫画も好きだけど、アイちゃんがオススメしてくれるなら、小説だって読むもん」
“小説”でようやく理解する。愛花は佐藤先輩の事を言っているのだ。
きっと歓迎会で愛花そっちのけで話していたのが気に障ってしまったのだろう。
思い出してみれば、あたしは本当に愛花を気にせず話し込んでしまっていた。
逆の立場ならきっと、あたしだって怒っている。
「マナ、ごめんね? あの人はマナに紹介した通りで……ずっとマナにも紹介したいと思っていたの。珍しくあたしと気があって、初めて出来たお友達で、少し舞い上がりすぎていた。ごめんね? 歓迎会ではマナの事そっちのけだったね。ごめん、本当にごめんなさい」
鼻で笑われる。
そしてしばらく間を空け、「友達?」と言うとクスリと笑われてしまった。
何がおかしいのかと、口を開いた瞬間頭が床に打ち付けられる。
それと同時に息が苦しくなり、顔が腫れ上がるような感覚に襲われた。
「ぁ……ッガ…………ッ!」
首を、絞められていた。
抵抗しようとしても上から体重をかけられている所為か、どうする事も出来ない。
暴れて階下にいる両親に助けを求めようとしたけれど、上手く身体が動かせなかった。
涙が零れ、もう顔が破裂してしまうんじゃないかと思ったときふっと力が弱まった。
愛花を押しのけなんとか逃れる事が出来たけれど、そこであたしはへたり込んでしまう。
「ガハッ……ヘッ……ゴホッ…………ハァ、ハァ……っ」
今度は息を吸いすぎて咽てしまう。こんなところでへたっていたら、愛花がまた襲ってくるかもしれない。
どうにかしないといけないのに、視界は霞み意識は朦朧としていた。
ぼんやりとした視界の中、押し退けたときに転んだであろう愛花がフラリと起き上がる。
駄目だ、もしかしたら今度は殺されてしまうかもしれない。
そう思ったとき、耳に届いたのは予想外の言葉だった。
「わたし……わたしの、一番、は……アイ、ちゃん、なん……だ、よ?」
あの時、あたしに届く事のなかった、聞いた事も忘れていたあの質問の答え、だった……
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