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出会い編

前世

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パッパーッッッ!!!!

車のクラクションがその場に響き渡った。
私、成宮千菜なりみやちなが車に敷かれて短い生涯を終えた瞬間だった。

その日は確か大学の合格発表の日だった。

「やてられない。」

気付けば私はそう呟いていた。

合否の書かれた掲示板に自分の番号を見つけて大いに喜んだ。
これで両親は優秀な姉の他に、出来がまあまあな妹もいた事を思い出してくれるだろう。
その時はそう思っていた。

しかし家に帰った私を待っていたのは、超一流の企業から内定を貰い、両親から抱きしめられながら祝福される姉の姿だった。

「ありがとう。不安だったんだけど、認めて貰えたわ。」

友梨奈ゆりななら大丈夫って、母さん分かってた。」

今日はお祝いだと言う父の後ろ姿に向かって私は意を決して話しかけた。

「…ただいま。」

その声に皆一瞬固まった後、ゆっくりとこちらを振り返った。

「あぁ、なんだお前か。」

父の顔には私に何の興味も持っていないとハッキリ書いてあった。
姉のお祝いをする事で頭が一杯なのだろう。今日が私の合格発表の日だと言う事すら覚えていない様子だ。

千菜ちなおかえり!どうだったの大学の合格発表!」

そんな可哀想な私を姉だけは笑顔で迎えてくれた。
優しくて優秀で誰からも愛させる憎たらしい姉が。

「ん、うん。合格してた。」

「スゴイ!やったじゃない!!」

弾ける様な笑顔。
そこに嘘は無い。
それが余計に悲しかった。
私はこんなにも姉の事が憎いのに。
姉は心から私の事を愛してくれているのだから。

「…ありがとう。」

それだけ言うと私は家には帰らずまた歩き始めていた。
行く宛などなかったが、帰る気にはなれなかった。

姉がまだ何か言いたげだったが、両親に連れられ家に戻って行く。

「千菜!!後で話し聞かせてね!!」

玄関に入る直前で姉がそう叫んだが、私はチラリと振り返っただけで頷きもしなかった。
父が舌打ちしたように見えたが私はもう振り返らなかった。

物心ついた頃にはもう姉との格差は出来上がっていた。
天使の様に愛らしい見た目と中身を持った姉は、両親だけに飽き足らず沢山の人達を魅了した。
そのせいで犯罪に巻き込まれ恐ろしい思いもしてきたようだった。
そんな姉を可哀想だと思っていた時期も確かにあったはずなのに。

両親の過保護に磨きがかかったのもそんな事情があったからだ。

仕方ない。
何度も納得しようと思った。

姉は私を本当に愛してくれていたし、両親は私を愛さなくても、周りの人達が姉と私を比較しても、私が好きになった人が皆姉の事を愛していても、それでも納得しようと頑張った。

でも無理だった。
最初から何でも出来る姉に追いつこうと私は懸命に頑張って来たのだ。

運動も勉強も。
姉が美容の為に早く寝ても、私は夜中まで勉強に打ち込んだ。
2倍、3倍努力しても追いつけないのだから仕方ない。
しかしそんな努力をしても追いつけない私の事を、両親は無様だと罵った。

いつの間にか私は諦めてしまっていた。
努力は相変わらず続けていたが、両親に認めて貰いたいという気持ちは無くなっていた。
早くこの家から飛び出したい。
その為の努力だった。

そんな取り止めのない事を考えながら歩いていたら、いつの間にか大通りへ出ていた。
6車線の大きな道路を家路へ急ぐ車が行き交っている。

「トオル君?」

道路を挟んで向かいの歩道を、トオルが歩いているのが見えた。
トオルはついこの間付き合い始めた私の彼氏だ。
姉以外にも私を好きになってくれる人がいるかもしれない。
彼は初めて出来た私の希望だった。
私の何が良かったのか分からないが、付き合おうと彼から告白してくれた。

付き合いたてでお互い遠慮がちで、まだまだ本音では付き合えていないが、いつか何でも話し合えるそんな2人になれれば。
そう願っていた。

「トオル君!!」

彼の名前を叫んだが、車の行き交う音にかき消されてしまった。
横断歩道まで駆けて行くと、信号が青になるのを待ち兼ねて足が弾んでしまう。

「…ッ!?」

しかしそんな私の目に飛び込んで来たのはトオルに巻き付く女の姿だった。
トオルの腕はその女の肩に回され、誰がどう見ても友達以上の仲しか見えない。

兄妹かも。
必死で自分にそう言い聞かそうとした時、2人が触れるだけの軽いキスをした。
そこには初々しい雰囲気は無く、しなれている。そんな感じが伺えた。

「ハハッ。お姉ちゃんが魅力的だからとか関係ないじゃん。」

その瞬間私の中で何かが壊れてしまった。
姉に勝てれば幸せになれる。
そう信じて必死で頑張っていた時が確かにあった。
諦めたと言い張った今でも、もしかしたら心の隅にはその思いは残っていたかもしれない。

でも違った。
姉は関係無かった。

その瞬間、まだ赤信号のままの横断歩道を歩き始めていた。

「…トオル。」

彼の元へ行きたかったのか、今となってはその時の気持ちは思い出す事が出来ない。
気が付けば私の視界が車のヘッドライトで照らされて光の世界に包まれていた。

パッパーッッッ!!!

クラクションの音、宙に浮く身体。

「チナァーーーーー!!!!」

あの時私の名前を呼んだのは誰だったのか、私の記憶はそこで途切れている。
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