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ダンスパーティーの誘い イサキオス編

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その日は夏休みが明けて学園生活1日目。

夏休みに入る前に行われたテストの結果、今回初めて皆揃ってAクラスとなった。

先程、転びかけたイザベルを抱きしめたヘンリーが、彼女をようやく解放したので、皆で教室へ向かう。
イザベルは真っ赤だ。

教室へ行く前に、私だけトイレへ行くと言って皆と別れた。
教室からトイレまでは少し離れている。

はぁ~すっきり。と思いながらトイレから出ると、廊下でイサキオスが待っていた。
トイレの待ち伏せ、、異常に恥ずかしい。
イサキオスは私が出て来るのに気付くと、こっちへやって来た。

先生が教室に来るまでには、あと15分ある。

「どうしたの?」

イサキオスは何も言わずに私の腕を取って歩き出した。
近くの空き教室に入って行く。
私は少し不安になる。

「イサキオス?」

私が不安そうに尋ねると、イサキオスは私と向かい合い、片膝を付いた。

「クリス、今度のダンスパーティー、俺のパートナーになってくれないか?」
 
一瞬私は何を言われたか分からなかった。
確かに私は彼を誘う気だった。
クリスとして誘うのだ。何と思われるだろうと不安が無かった訳ではない。
だからこそ私は、ダンスパーティーの会場へ一緒に行こうと誘うつもりだった。
そして、ドレス姿で現れ、真実を伝え、その上で私を受け入れてくれるなら、ダンスパーティーに一緒に出たいと願っていた。

「僕と踊るの?」

私は男ではない。でも彼にとっては私は男だ。彼の言うパートナーとは?

「あぁ。一緒に踊ろう?」

彼は片膝を立てたまま、私に手を差し出した。
俺の手を取れと、彼の目が言っている。

彼の手を取っても良いのだろうか。
今真実を言った方が良いのでは、、
先延ばしにする意味はあるのだろうか。

私が答える前にイサキオスが言葉を重ねる。

「好奇の目からは俺が守る。」

私は驚いた。彼は何もかも覚悟の上で私を誘っているのだと分かったから。

あぁ、彼と私とでは何もかもが違うのだ。
真実しか口にしない誠実な彼と、嘘ばかりの私。

あと少し、もう少し。
それが良い事なのか、悪い事なのか。
私にはもう分からない。

それでも、もう彼しか見えない。

気付いたら彼の手を握っていた。

嬉しそうな彼の顔を見て、私は悲しくなった。


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