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始まらないダンス

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ダンスパーティーの会場は、入園式があった講堂だ。
とても広い会場なのだが、全員が踊るのは難しいので、大人はダンスに参加しないという決まりがある。

お父様は少し挨拶回りに行ってくると、私と離れた。
私は緊張の為か、2回目のトイレへ向かっていた。
今は5時45分、6時に彼と正面の入り口で待ち合わせしている。

トイレの鏡で私は自分の顔を見ていた。リサとアンリが頑張ってとても綺麗にしてくれたと思う。
自信を持て、自分に言い聞かせる。

トイレを出ようとすると、扉の鍵が閉められていた。
古典的なイジメに驚く。
今の私を閉じ込めるメリットが分からない。
首を傾げていると、個室の扉が開いた。どうやら私以外にもう1人トイレに入っていた様だ。

出てきた人を見れば、イザベルだった。
あぁ、彼女なら閉じ込められるか。私は納得した。

「あら、クリス。、、あぁ、もうクリスティーナね。とても美しいドレスだわ。」

「ありがとう。」

イザベルは可愛らしい薄ピンクのドレスを着ていた。気の強い彼女の事だ、濃い赤色でも選びそうだが、、でも色の白い彼女に淡いピンクがとても似合っていた。
イザベルは頬を染めながら、

「ヘンリー様から頂いたの。」

と微笑んだ。
どうやら2人は上手くいっているらしい。

「イザベルも良く似合ってる。」

私達は珍しく微笑み合ったが、私は大事な事を思い出す。

「イザベルそれどころじゃ無かった。ここ鍵をかけられてるよ。」

私は扉を指差す。
魔法で開けようとしたが、ご丁寧に魔法無効化の術までかけているようだ。
転移魔法で移動しようかと思ったが、学園祭中の転移魔法は禁止である。
人が多いので怪我を避けるため、例外無く禁止なのだ。

「でも今はそんな事言ってられないよね?扉の前に出るだけなら大丈夫だろうし。」

イザベルに確認を取る。

「いいえ、やめた方が良いわ。転移魔法を使った所を取り押さえて、今日のダンスパーティーに出れなくするのが狙いなのかも。その為に鍵をかけたのかもしれないわ。」

「、、そっかぁ。じゃぁ、窓から出て扉開けに来るからチョット待っててよ。」

私は奥の窓が開くか調べる。
こちらは細工されていないようだ。
そう言えば、乙女ゲーム内でヒロインが閉じ込められたシーンがあったなぁと思ったが、、関係あるのだろうか?

私が窓を開け、乗り越えようとした所で、イザベルが待ったをかけた。

「私も行くわ。閉じ込められて待ってるなんて性に合わない。」

「分かった。」

止めてもどうせ無駄だろう。私は先に窓から出て、イザベルを抱き上げた。
彼女なら自分で出られるが、ドレスが汚れては可哀想だ。

きっと閉じ込めたご令嬢達は、イザベルが窓から出るとは思っていない。
転移で扉から出て来るのを、今か今かと待っているだろう。
それなら回り込めば犯人も捕まえれるかもと、会場へ戻ろうとした時、奥の暗闇で男達の声がした。
私とイザベルは顔を見合わせる。

トイレの窓から出ると講堂の裏へ出るようになる。
裏はすぐ林となっているので、客が入り込む場所ではない。
警備の人かな?と思いながら、近付くと、黒ずくめの男達が数人居るのが見えた。

とっさにヤバイと感じた私は、隠密の魔法をかける。
最大威力にし、そっと近づく。
嫌な予感がし、全身鳥肌が立った。
近付くと声が聞こえた。

「どれほど用意したんだ。」

「大体100匹用意しました。今は大池に魔力の縄を張り巡らせて泳がしています。」

「100匹か、、まぁ良いだろう。あいつらが焦って結界を使った時に発動するようになっている。」

「あっちで騒ぎが起きたのをきっかけにこちらも動くぞ。」

何が100匹か聞こえない。
分からない事だらけだが、何者かが騒ぎに乗じて陛下を狙うつもりだ。
私はイザベルを見た。
いつもは自信に溢れている彼女の瞳が不安で揺れている。

私は考える。

陛下に危険を伝えなくては、しかし大池の方も何やらヤバそうだ。

私はイサキオスと訓練の時に身に付けつつあった魔法を試す事にする。

彼らの話しを引き続き聞きながら、集中していく。
私の新たな魔法は、透視魔法、本来完成すれば見たい場所を鮮明に見る事が出来る。プライバシーも何もあったものじゃない魔法だ。

私の今の実力では、サーモグラフィーの様に人物や物が見えるだけで、鮮明とは程遠い。
しかし、相手の持っている魔力の質を覚えていればボンヤリした映像でも、誰かが分かる。

私は透視を行った。集中を切らさず、しかし急いで知った人を探す。
出来れば、ヘンリーか、マグリット、生徒会長辺りが良い。
しかし内部にも敵が紛れ込んでいるかもしれない、周りに人がおらず個室でいてくれれば尚良い。

私は慣れない魔法に気分が悪くなってきた。
しかし、見つけた!!
マグリットと生徒会長、ユリアーネさんだ!3人がちょうど個室でいる。
私はイザベルの肩に手を置いた。

「イザベルは、マグリット達に今の事を話して。陛下とヘンリーが危ない。私は大池へ向かう。何がいるか分からないけど、結界を使うといけない事を伝えないと。」

「分かったわ。」

私は彼女に転移魔法を使った。
座っているマグリットの膝に乗るように送ったのは嫌がらせではなく、危険を避ける為だ。
しかしきっと後で怒らる、、。
まぁ良い、皆無事なら何でも良い。
隠密の魔法を使ったまま、私は大池へ向かって走り出した。

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