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本当の始まり

ズルして勝った報い

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ドッチボール大会の次の日、クラス分けが決まった。
私は昨日イサキオスから逃げたので、今日の朝捕まり今は彼の膝の上で座らされている。
彼はニコニコしているのだが、私は罪悪感がある為にそれが怖くて仕方ない。

「アハハハハハッ!!!」

あっ、これ私。
たまにイサキオスがこそばしてくる。

「ごめんって、何回も謝ったでしょ?もう許してよ。」

こそばされたせいで私は涙目だ。
顔だけ振り返ると、彼は優しく微笑んでいる。
ダメだ。これはまだ怒ってる。
クラスメイト達は見て見ぬ振りをしているようだ。

「ヒャッ!!」

あっ、これも私。
私は涙目で彼を睨む。
そう首をそっと噛まれたのだ。

「こらそこのバカップルいいかげんにしなさいよ。」

イザベルが見かねてやって来た。
結局いつものメンバーは皆Aクラス入る事が出来た。
それとマリア、彼女もAクラス入りした。
後のメンバーは見た事もあれば見た事無い人もいる。

「イザベル助けてよ。朝からずっとこの調子なんだから。」

イザベルは自業自得といった顔をしたが、私の手を取り引き寄せてくれた。
ようやく解放されホッとする。

「これに懲りて、怒られるならその日の内に怒られなさい。」

イザベルがため息吐いた。
その通りだ。
イサキオスは楽しそうに笑っていた。

私が反省していると、私の目の前に知らない男の子が立てった。
180㎝はあろうかというその少年は、ベタッとした黒髪が顔に張り付き、目は蛇の様に鋭く、そして青白い皮膚、もう死んでいるの?といった容貌をしている。

「???」

彼に見つめられてドギマギする。
彼は手を差し出した。

「サーキス・コーリアスです。初めまして。」

「、、、初めまして。クリスティーナ・バレンティアです。」

私は彼の手を取った。
彼はブンブンと手を振りながらうっとりと囁く。

「昨日のドッチボール大会拝見させて頂きました。とても感動したんです!どうか私を弟子に、いやもう下僕でも何でも良いので、側に置いて下さい!」

「げ、下僕!?」

私は目を向いた。
あのドッチボール大会で私に何を感じたのか、私からすれば無駄に頬を腫らし、せこい術で恋人に無理やり勝った汚点とも言える大会だった。
サーキスは私の手を自分の頬に摺り寄せようとする。
しかし、それをイサキオスが制した。
私の手を取り上げ、彼を睨みつける。

「彼女が嫌がっているだろ。」

サーキスが汚い者でも見るようにイサキオスを見て、口を開こうとした時、教室の扉が開いた。

「おはよう。皆席に着けよ。」

私はホッとして、イサキオスの横の席に慌てて座る。
サーキスの舌打ちが聞こえたが、彼は大人しく後ろの席に戻って行った。

「えー、引き続きAクラスの担任になった、カルロス・トイストイだ。見た顔もいれば初めての奴もいるみたいだな。今年からは魔法の実技が始まる。気を引き締めなければ怪我をするでは済まないからな。」

先生は肩まである髪を耳にかけながら、話しをした。
女子達からホウッとため息が漏れた。
今年も先生はいたいけな少女達を手玉に取ったようだ。

「あっ、クリスティーナ放課後職員室まで来い。」

私は急に名前を呼ばれ驚いた。

「ヒャイッ。」

そのせいで変な返事になる。
今後ろで笑ったのは、きっとシャルロットだ。
私は昨日の事で怒られのではないのかと怯えた。スポーツマンシップに則っとらない私の戦いぶりが非難されるのか、、。

その日は何事もなく終わっていく。
マリアがイザベルに突っかかって来るのではないかと構えていたが、特に何をするでもなかった。
彼女はAクラスで自分の取り巻きを作ろうとしていた。
まず周りを味方に付けてから動こうと静かに水面下で動いていたのだ。
しかし私達がそれに気付くのは少し先の話し。

昼になり私達はランチを食べにカフェへと向かった。
今日は天気も良く暖かい日だったので、テラス席で食べる事になった。
メンバーは、私、シャルロット、イザベルだ。
昨日の事を話したかったので、イサキオス達と今日は別に食べることにした。

「イザベル、あなた何だか黒いオーラが漏れ出してるわよ。」

シャルロットが苦笑いしている。

「だって、、同じクラスにあの女がいると思うと腹が立つんだもの。」

私は半眼で彼女を見る。

「そんな顔しなくても分かってるわよ。もう安易に手を出したりしないわ。嫌がらせは散々受けて来たけど、あんな面と向かって言われたのは初めてだったのよ。」

イザベルはチョット考えて、あぁ、そういえば昔あんたにも言われたわねと私を指差した。

「まぁ、分かってるなら良いよ。」

私は彼女がゲームの中で断罪されるシーンを思い出した。ヘンリーが汚いものを見る目つきでイザベルを見ていたのを思い出すと寒気がする。
あんな目に合わすわけにはいけない。

「それにしても、本気なのかな、、。」

私は2人に語りかけるわけでもなく呟いた。
イザベルは私を見て言った。

「本気でも無いのに私にあんな事を言ったのだとすれば、余計に腹が立つわ。」

「でも、聖剣を出すだなんて。イサキオスは幼い頃からずっと騎士団で訓練してきたんだよ?マリアはそれを今からするつもりなのかな?」

勉強の事に関してはマリアも努力したのだろう。
しかし、あの騎士団の地獄のような訓練を彼女がするのだろうか?
イザベルがこれに答える。

「聖剣は光魔法が使える者しか出せない。この条件だけだとイサキオス様が出せたのも不思議では無いのだけど、でも今まで男性が聖剣を出した事など無かったのよ。ホント前代未聞よ。だから、男と女では聖剣を出す為の発動条件が違うのかもしれないわ。」

無敵で化け物な彼を思い出す。
そうか、あれは本当に奇跡だったのか。

「じゃぁ、マリアはもっと簡単に聖剣を出してしまうかもしれないって事?」

イザベルは首を振った。

「分からない。それに国に2本もの聖剣があった言い伝えなど無いの。それどころか長い間聖剣がどこの国にも無かった時代もあるのよ。それを考えると簡単に出せるものじゃないのかもね。」

結局分からない事だらけだ。
私は食べかけのサンドウィッチに手を伸ばした。
しかし後ろから伸ばされた手に先に取られる。

「もう、マグリット!!」

私が振り返るとそこにいたのは、パオロ君だった。

「えっ?パオロ君?」

私のサンドウィッチを取るなど、マグリット以外あり得ないので目を丸くする。
パオロ君は元生徒会の先輩で、学園を卒業してからは、お父様の元で働きだした。
色々あったが今は仲の良い友達だと思う。

「聞いてよティーナ。」

彼は私の横の席に着いた。サンドウィッチは彼の口の中だ。

「分かった。落ち着いてパオロ君、それ私のサンドウィッチだから。」

イザベルとシャルロットはあまりパオロ君とは関わっていない。
見た目がきのこな上に、急に人のサンドウィッチを取り上げて食べ始めた彼を不気味そうに彼女達が見つめている。

「今まで僕どこにいたと思う?山だよ山、、旦那様がこの前の仕事の途中で無くし物をしたって言って。」

彼は伏せって泣き出した。
あぁ、やはり彼の扱いは酷いのだな。
サンドウィッチは諦めてあげよう。
山から帰って来たところなのか、何だか彼は犬っぽい匂いがするし、ご丁寧に木の葉まで付いていた。

何だかよく分からない集まりになったところで、パオロ君は爆弾を落とす。

「そう言えばティーナ生徒会に入るの?アドルフとユリアーネが言ってた。」

「えっ??」

アドルフさんとユリアーネさんも元生徒会のメンバーだ。とても優秀な方達だったので、魔法署への就職が真っ先に決まった。
しかし、それを受けたのはアドルフさんだけで、ユリアーネさんはどこかの貴族と結婚が決まったと聞いた。
30歳ほど年上の人と結婚するとかなんとか、、まぁ風の噂だ。

「何で2人が?もう卒業したよね?」

「何か卒業前にぜひティーナを生徒会にって推薦したらしいよ。」

彼は私の紅茶まで飲み出した。
言ってくれれば頼んであげるのに。
シャルロットが閃いた顔をした。もうパオロくんに慣れたらしい。彼女の順応能力は素晴らしい。

「ほら、カルロス先生の呼び出し!それなんじゃない?ティーナが生徒会長かぁ~楽しみだわぁ~。」

私をうっとりと見つめてくる。

「いやいや、生徒会長はヘンリーで間違いないでしょ。私絶対向いてないじゃん。」

あぁ、こんな事になるならスポーツマンシップに則って戦えば良かった。
私はため息を吐いた。

「ティーナ、ドッチボール大会のせいで選ばれたんじゃないと思うわよ?」

私の顔を見たイザベルが突っ込んできた。
私は首を傾げた。
ん?ズルして勝った報いじゃないの?

3人が同時にため息を吐く。
皆エスパーなの?皆スゴイ能力の持ち主なの?

「ティーナは相変わらずだね。」

パオロ君が笑う。

「そうそう。今日来たのは旦那様のお使い。学園祭の時に魔竜騒ぎを起こした奴らが学園に入り込んでるらしいんだ。十分気を付けなさいだって。」

「魔竜、、。」

あれはあれで汚点だ。
変な薬でおかしくなった上に、お腹チャポンチャポンの、足剥き出し。
私は一体何個汚点を作るのか、、。

「分かった。どう気を付けたら良いのか分からないけど、気をつけるわ。」

パオロ君は帰って寝ると言って去って行った。
一難去ってまた一難、、?いや違うな。
一難去らずにまた一難か、、。
生徒会の事を合わせればまた二難?
訳が分からなくなって来た。
よし忘れよう。

結局は、ズルして勝った報いだ。
全てをこれで片付けよう!
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