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本当の始まり

甘々の日曜日

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日曜日、私は皆に励まされたこともあり、騎士団の訓練所へとやって来ていた。
訓練所へ入る門を通ろうとしたが、それ以上足が動かなくなり、門の前にあるベンチに座り込んでしまう。
彼は怒っていない。皆にそう言われたのだが、彼の腕を振りほどいた時の彼の悲しそうな顔が思い出されるたびに心が重くなる。

門の横は高い塀になっていて、中の様子は見えなくなっている。
今はお昼前、彼は中でいるはずだ。

今日は暖かく過ごしやすい日だった。
私は白いワンピースに、淡い黄色のカーディガンを羽織り、清楚なお嬢様風ファッションでやって来ていた。
何をするでもなくボーッとベンチに座っていると、眠たくなってくる。
昨日中々寝付けなかったせいだ。
ヒラヒラと飛んできた蝶が私の頭に止まる。

「フフッ。」

何だか嬉しくなって人差し指をそっと立ててみる。
ヒラヒラと飛んだ蝶は私の人差し指の先に止まった。
こんな事をしている場合ではないと思うのだが、羽を休める蝶から目が離せない。
ゆっくり動く羽を見ているうちに、私はウトウトとし始めてしまう。

スー、、。
コクコクしながら私は寝入ってしまった。

どれぐらい寝ただろうか、ふと目を覚ますと私は何かにもたれかかっていたようだ。
ゆっくりと覚醒していく。

「ティーナ、起きたか?」

聞き慣れた彼の声がした。
あぁ、私は彼にもたれかかっていたのか。意識がハッキリしてくると、額から冷や汗が出て来るのが分かった。身体も強張る。
何から話すべきか、、
私は彼から身体を離し、立ち上がって彼に向き合った。
彼は優しげな顔で私見上げている。
この1年で彼はかなり背が高くなったので、この目線は新鮮だなと思った。
私の両手の指先を彼がそっと掴む。

「イサキオス、、、ごめんなさい。」

イサキオスは首を傾げた。

「なぜ謝る?」

「、、あなたに悲しい顔をさせてしまったから。」

彼はそのまま私を引き寄せた。
私の胸の辺りに彼の頭がある。私の早くなった鼓動を聞かれる事が恥ずかしいが、振りほどく事など出来ない。

「ティーナ、俺が悲しい顔をしたのは、お前が悲しい顔をしていたからだ。」

私は黙って彼の話しを聞く。
そうしている間にも鼓動はどんどん早くなる。

「ティーナがあの時人を殺めていたとしても、俺は離れて行ったりなどしなかった。」

彼はほんの少し離れ私の頬に触れた。

「でも、ティーナはあの時アメリ嬢を殺めていれば後悔していただろう?きっと俺からも友からも去っていたと、、そう思う。」

私は頷いた。
あの時彼女をあのまま殺めていれば、きっと私はもう私らしく生きてはいけなかった。

「俺もずっと考えてた。騎士になって人を守る為に、人を殺さねばいけない事を。その矛盾を、、。」

「、、イサキオスも?」

彼は頷く。

「きっと答えなど出ない。俺はその矛盾を抱えたまま騎士として生きていくんだと思う。」

私は彼の美しい金色の瞳を見つめる。
そこには優しげな眼差し。そして太陽の光でキラキラと輝く銀色の髪。
彼を見つめているだけで自然と涙が溢れる。

「それでも俺は守りたいものがあるから。」

彼の手が私の涙をすくう。

「ティーナ、お願いだ。俺から逃げないでくれ。俺は全て受け止めれほど強くはないが、お前の側で一緒に悩みたい。苦しい時に一緒にいたいんだ。」

彼の言葉に私の涙がポロポロと流れ出す。私は自分の事しか考えずに彼から逃げ出した意味を、きっと今初めて理解したのだ。

「、、ごめん、、ごめんなさい。」

この、ごめんなさいは最初に彼に言ったごめんなさいとはきっと重みが違う。
彼はそっと立ち上がり、私を抱き寄せた。
優しく背中を撫でてくれる。
それが切なくて私の涙は中々止まらない。
涙に鼻水に大洪水な私の顔を見て、イサキオスは笑っていた。
タオルで拭いて頭を撫でてくれる。

「ティーナ、今日はもう終わったからデートしよう。」

少し落ち着いた私に彼は笑顔で提案した。
私達のデートと言えば、騎士団の訓練所で身体を鍛える事ばかり。
私は初めてのデートに胸が高鳴った。

「行くっ!!」

泣き過ぎて腫れぼったい顔の私は一瞬帰りたいと思ったのだが、初デートの誘惑になど勝てるはずがない。

彼と手を繋ぎ街へ出かけた。
人気のカフェでご飯を食べ、武器屋で剣を見て、防具屋で鎧を見た。
ん?デートらしくなくなってきたな。
しかし、彼と一緒だと何をしても楽しかった。
お揃いの剣を買うという謎のイチャイチャをし、アクセサリーを見に宝石店へ来ていた。

「これはどうかな?」

魔法攻撃を一度だけ防いでくれるネックレスをお揃いで探していると、珍しい緑色のターコイズが埋め込まれたネックレスが目にとまった。
シルバーを燻したチェーンが使われていて、アンティークな雰囲気が素敵である。

「あぁ、良く似合ってる。」

彼は嬉しそうに笑う。
今日はずっと甘々な雰囲気を醸し出す彼に戸惑いながら、私も笑顔になる。
彼が2つとも買って、私にプレゼントしてくれた。
休憩に入ったカフェでお互いにネックレスを付け合い、私はもういつ死んでも良いぐらいの幸せを噛み締めている。

「ティーナ。」

彼は私を呼ぶと、頬に口付けをした。
彼が甘過ぎてそろそろ溶けそうだ。
周りの人がこちらを見ている気がするのだが、彼には気にならないらしい。
彼は私の指先を摘んだ。

「ティーナ。」

あぁ、今日はどれだけ名前を呼ぶのだろう。
私の幸せタンクはもう満タンだ。溢れ出してしまえばどうなるやら、、。

「愛してる。」

彼が囁く。
真っ赤になってパクパクしている私に、彼は構わずキスをしてきた。
そして私の前髪をそっと上げて額にキスを落とす。

「ティーナ、愛してる。」

「うっ、、。」

さっき聞きました!!聞こえましたよぉぉぉ!!!
もしや返事しなかったからですか?そうなんですか?拷問なのですか?
探るよう彼の目を見ると、ティーナは?と言わんばかりの目をしていた。

「、、、愛してます。」

ボソボソと愛を語る私に、彼は不満そうな顔をする。
やっぱり拷問なのね、、。

「愛してます!!!」

今度は大声で言った私を周りの人が凝視してくる。
イサキオスが声を上げて笑ったので、抗議しようとそちらへ向くと、彼は私を抱き寄せ熱いキスをしてきた。
私は息が出来ず、苦しくて喘ぐ。
彼の唇がそっと離れると、 

「ティーナ、愛してる。」

今度は至近距離で愛を囁かれた。
彼はまだ怒っていたのかもしれない。段々そう思い始めた私なのだが、そう言えばゲームの中で彼を攻略すると熱く愛を語るキャラに変わった事を思い出した。
彼のこの情熱的な愛の囁きは標準装備なのかと気付き私は戸惑う。
とても嬉しいのだが、私は周りの目が気になる。

デートの帰り、蕩けてしまった頭でフラフラと帰っていると、イサキオスが今日最大の愛の言葉を私に捧げた。

「ティーナ、卒業したら結婚しよう?」

何より驚いたのは、私が反射的に「はい。」と返事をした事だった。
彼にお姫様抱っこされ熱いキスを落とされた。
、、、こんな人だったっけ?
キスの間、上手に酸素が吸えない私は何度も意識を失い掛けるのであった。

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