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本当の始まり
校外学習2日目 前
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まだ薄暗い中、校外学習2日目が始まった。
皆眠たい目をこすりながら、厨房へ集合したいる。
6時に集められのは、朝ご飯を各自で作る為と、今日の魔法訓練に備えお弁当を用意する為だ。
私達は昨日の残ったポトフを冷蔵庫から取り出し、具材を細かくして、卵でとじスープを作った。それにトーストとサラダ、それにソーセージを焼いた。
中々の朝ご飯が出来上がった。
お弁当はサンドウィッチを作った。
卵の殻を剥く時に、薄皮がビッチリと張り付き表面がボコボコになってしまった事を除けば、かなり完璧な出来栄えだ。
無駄なドキドキイベントはいらないので今日は慎重に包丁を使った。
シャルロットとカイトは相変わらずラブラブなので、何をするにもイベント満載なのだが、あえて見ないようにしている。2人の世界はピンク色過ぎて目に毒だ。
「あれ見なさいよ。」
イザベルが酔ったオッサンなの?と思うほどやさぐれた感じを醸し出しながら、顎でしゃくってくる。
そちらの方を見ると、マリアがヘンリーに手取り足取り料理を教えていた。
あちらはあちらでイベント発生中だ。
「イザベル大丈夫?」
イザベルはケッと言って唇を突き出した。
「大丈夫じゃないわよ。でもしょうがないでしょ?クラスメイトと仲良くしないでなんて言えるわけないし。」
彼女は落ち込むのをやめ、やさぐれる事にしたらしい。
「まぁ、とりあえず準備出来たし、外行こう。」
私はその場からイザベルを連れ出す事にした。外に出ると、チラホラと人が集まり始めていた。
魔法訓練タイムトライアルはFクラスから始まるのだが、待っている間、時間が勿体無いので講堂で魔法学の講義も行われる。
私達の出発は最後の方なので、先に講義を受ける為講堂へ向かった。
それにしても今回の校外学習で、ヘンリーとマリアの距離が近付いている気がしてならない。
ヘンリー、、王妃が料理を作れる事で特にプラスになる事などないよ。
目を覚ましてくれと願う。
講堂で講義が始まる頃、Fクラスが出発し始めたようだ。
普通に走れば1時間もかからずにで走り切れるコースだが、トラップや攻撃があればどれほどかかるやら?クラスごと、しかも各班ごとに出発するので、私達はいつ出発なのか検討もつかない。
1時間ごとに講義の先生が入れ替わり、授業はストップしないので、途中で休憩を取ったりは各自で任されている。
コースを走り切った後、元気が残っていれば終わった人達も講義に出なくてはいけない。
私はぼんやりと講義を聞いていた。
最近起こった事が頭の中を駆け巡って行く。
私はイザベルの為に何が出来るだろう。
彼女の歩んで行く道を改めて考えてみる。
ヘンリーと上手くいっても、陛下の兄ジェファーソン様の存在、そしてニコラスの存在により常に危険に身を晒すだろう。
そして、マリアの存在。
イサキオスは言っていた。
彼女はきっと人を殺した事があると。
イザベルが進んで行く道が茨の道だとは知っていたが、これではあまりにも。
私の横で座る彼女の顔を見る。
少し疲れた様な顔をしている。ここ最近痩せてしまい、頰がこけているような気がする。
小さな彼女の為に何が出来るのだろう。
そんな事を思っていたら、不意に涙が溢れた。
イザベルがそれに気付いて驚いた顔をした後私を見つめた。
何となく自分の為に泣いた事を察したのか、彼女は苦笑いした。
「あんたが男だったらね。それなら私は、、。」
その後の言葉は続かなかった。
私は考えよう。彼女の為に必死で考えよう。
しばらくして私達の番がやって来た。
イサキオスの班はもう出発したようだ。
ヘンリー達の班は私達の班の後に出発らしい。サーキス君が話しかけてきた。
「クリスティーナ様、あなたなら何の心配もいらないと思いますが、くれぐれも気を付けて下さいね。」
彼は自然な仕草で私の手を握りウルウルと見つめてくる。彼はいつも通り元気そうだ。
「ほら、クリスティーナの班出発だ。」
カルロス先生に言われ、私達は出発した。
今日は皆動きやすいよう、ズボン姿である。
天気は良く、気温もちょうど良い、風もそよそよと心地良く、ピクニック日和といえる。
最初先頭を切ったのは、アルルーノだ。
走るたびに茶色い髪がフワフワと揺れている。彼は年々可愛らしさに磨きがかかっている気がする。
軽く走っているようだが、身体強化をしながら周囲を警戒している。
先生が張った結界内を走りながら、ポイントを目指す。
ポイントごとにスタンプが置かれており、スタンプを押したら次の人と交代となる。
アルが調子良く走っていると、前に立て札があった。
立て札には、
〔白線に立ち、的を魔法でねらえ。〕
と書いてあった。
白線は足元にあったのですぐ分かったのだが、、的が見つからない。目を凝らして見てみると遥か先に小さく見えた。
「えー、僕これ向いてないよ。攻撃魔法からっきし出来ないのに。」
アルは肩を落とす。
「でも、途中で交代する訳にいかないでしょ?」
私はそう言いながら考えた。
「あっ、石に魔力を込めてぶん投げれば?それだって魔法で狙った事になるでしょ?」
「えー、あんな遠くの的だよ?出来るかなぁ~?」
グズグズ言うアルにマグリットが切れる。
「おい、タイムトライアルだぞ!急いでやれ!」
「ブー、、もう。はいはい。」
アルは手近な石を取り、手の中で魔力を込める。
それを思いっきりぶん投げた。
私は透視で的を確認する。
石は思いっきりそれた。
「アル、それたよ。」
アルはもう一度試してみたが、ダメだった。
「こんなの無理だよ!」
アルは座り込んでやる気を無くす。
「何か良い方法無いかなぁ。」
私も必死で考える。
ズルかもしれないが1つ閃く。
「アルの投げた石を他の人の魔法で誘導するのは有りかな?」
「あぁ、まぁ良いんじゃない?投げたのはアルなんだし。」
イザベルが同意した。
「じゃぁ、マグリット、風でアルの石を的に当ててよ。」
私がお願いすると、彼はいかにも渋々といった顔をして承諾した。
結果は一発で命中。
しかし、あとでノーカウントにされるかもしれないなぁと思いながら、先頭をマグリットに交代してまた走り出したのだった。
それからは、マグリット、イザベル、そしてシャルロット、カイトと交代して順調に進んで行った。
最後は私の番だ。
皆が繋いでくれたので、頑張らねばと気合いを入れる。
しかし走り出したところで異変に気付く。
結界が途切れているのだ。
ここら辺を担当している先生に何かあったのか、緊張が走る。
ざわざわと何だか空気すら重苦しい気がしてきた。
「皆、結界が途切れてる。気を付けて。」
皆も緊張した面持ちだ。
最初の説明の時にゴブリンが出たという話しを聞いている。
「先生に何かあったのかしら?」
不安そうにしたシャルロットの背中をカイトがそっと撫でている。
マグリットが私に聞いた。
「班長どうするんだ?」
「そうだね。ここから魔物が入り込んでもいけないし、私が結界を補うから、誰か先生を連れて来てよ。」
この場に私、アル、マグリットが残り、イザベル、シャルロット、カイトが先生を探しに行った。
あと残っている班はヘンリーの班だけなので、追い付いてくればマリアとイザベルが鉢合わせる。
それを避けたかったので彼女を行かせた。
私は途切れた範囲を確認し、補うように結界を張った。
マグリットとアルは結界内から行方が分からなくなった先生を捜索する。
しばらくすると、ヘンリー達が追い付いて来た。
事情を説明する。
「先生が急にいなくなるのはおかしい。事件に巻き込まれたのかもしれないな。
」
ヘンリーが難しい顔をした。
私はマリアが密かに笑ったのを見た。
彼女は何か知っているのか、、?
しばらくして、異変が起きる。
先生方が張っている結界が3箇所一気に途切れたのだ。
皆それに気付き慌てる。
ヘンリーが言った。
「クリス何とかなるか?」
これだけ広大な結界となると、何人かで分け合って張った方が良いのだが、他人と結界を張り合うのは相当技術を要する。
今それが出来るのは私だけだろう。
私は目を閉じ、神経を研ぎ澄ませ、途切れた結界の場所を探り、張り直していく。
私はゆっくり目を開いた。
「張れた。」
皆がホッとした顔をする。
「ヘンリー達の班でタイムトライアルは終わりでしょ?戻って寮の結界に入った方がきっと安全だよ。皆戻って。」
私はそう提案した。
「クリスティーナ様を1人になどしません。私は残ります。」
サーキス君が私の背後に立つ。
マグリットも呆れたように言う。
「お前みたいなうっかり者残して行けるか。ヘンリー、ニコラス、マリア嬢とその取り巻き、君達は帰れ。国の重要人物達に何かあっては困る。」
アルも帰りたそうにしているが無視された。
ヘンリーは何か言おうとしたが、自分の立場は一番良く分かっている。
深く頷いた後、先生を連れて来ると言って皆を連れて行った。
「さて、どうしようか?」
私は皆に聞いてみた。
先生達に何かあったとすれば、先生達を襲った何かが近くにいるはずだ。
「クリス、結界張ったまま移動出来ないの?」
アルが聞く。
「出来るよ。でも、先生の安否が分からないのに放ってもいけないでしょ?」
「クリスティーナ様しかし、あなたに何かあっては困ります。」
サーキス君が私の肩を持った。
鳥肌が立つ。
彼は今日も死人の様な出で立ちだ。
「クリス透視で先生探してよ。」
アルが言う。
「結界張る魔力を温存しときたいんだけど。ねぇ、サーキス君は何の魔法が使えるの?」
私は期待を込めて聞いた。
それにしても肩に置いた手を離して欲しい。
「クリスティーナ様、私は雷の魔法を使います。それ以外は特に得意なものは無いのです。申し訳ありません。」
サーキス君はうなだれて、私の肩に顔を擦り付ける。
や、やめてくれ、、、
「まぁ、気にしないで。先生がそろそろ来るでしょ。」
しかし、イザベル達が呼びに行ってからもうだいぶ経つ。
何かあったのだろうかと心配になる。
その時異常事態が発生した。
私が張っている結界以外の結界全てが消えたのだ。
「なっ、なっ、何で!!!」
私は慌てる。
その時後ろの方でゴソゴソと物音がした。
嫌な予感は膨れ上がり、頭が痛い。
「ゴ、ゴブリンの群れだ。」
150㎝ぐらいの身体は小さい彼らだが、とてもどう猛な魔物で、集団で生活している。
時空の切れ目からやって来て、ここで繁殖したのだろう。
ワラワラと出てきた彼らの手には、斧や棍棒が握られている。
絵本に出てくる恐ろしい魔女の様なの顔をした彼らは、数百どころの騒ぎではないぐらい後から後から現れている。
「クリス、透視でゴブリンの場所を把握して奴らを囲い込め。」
マグリットが焦って言った。
私は慌てないよう心がけ、神経を集中し、透視で彼らの居場所を探る。
群れで広がる彼らを囲い込むのは骨が折れそうだった。
しかも、先生が紛れている可能性もある。普通の結界ではなく、人間が通れる結界を張る為に繊細な結界を必要とする。
「捕縛系結界発動」
彼らを一応閉じ込めた。
結界の気配に気付き、彼らが暴れ出したのが見える。
「私はここから動けない。この結界は特殊だから。皆は先生を探しに行って。これは異常だ。」
皆それは分かっている。
しかしここに私1人置いていくわけにはいけないと言った。
「結界張ってくれてるし、ここから魔法でゴブリンを退治しよう。クリスの結界が解けたら、こいつら暴れ出すでしょ?」
アルはそう言ったが、アルは攻撃が苦手だ。
「お前は攻撃が苦手だろうが。隠密で先生を探しに行け。それかイサキオスを連れて来い。あいつがいれば1人でも倒せれるだろ。」
マグリットに言われ、アルは素直に頷き消えた。
私の結界をゴブリン達が攻撃し始めた。攻撃されると、魔力を消費する。
「マグリット、結界狙われてるんだけど。何とかして。」
私が言うと、サーキス君が私が!!と叫び、雷の魔法を使い始めた。
彼の手の中で稲光りが起こり、とても幻想的だった。
ゴブリン達は雷を避ける為に散り散りになった。
「結界狭めて追い込めないのか?」
マグリットが言う。
「狭めても良いけど、先生がどこにいるか分からないから、攻撃魔法は見える範囲だけしかダメだよ?」
事態を把握するまでは、攻撃も気を付けなければいけない。
応援はいつ来るのか?
私の魔力量は保つのか、、。
その頃、戻ったイザベル達は途方に暮れていた。
黒ずくめの男達に皆が襲われ、結界が張られた講堂の中に押し込められたのだ。
先生方も生徒を人質に取られ身動きが取れない状況だ。
イザベルとシャルロットとカイトは、物陰に潜んでいた。
人質がいる以上下手に動く事は出来ない。まずは人質達を解放せねば。
しばらくすると、ヘンリー達が合流した。
いち早く気付いたイザベルが、皆を静かにさせ物陰へと連れて来る。
「これは一体。」
ヘンリーが青ざめて聞いた。
イザベルは首を振る。
「分かりません。黒ずくめの男達が講堂内に先生と生徒を押し込め何かしています。周りに見張りもいるので身動きが取れません。」
ヘンリーは頷く。
「見張りから減らしていくか。」
ニコラスが言った。
彼は父親と一緒に傭兵団に所属していた。かなりの戦力だろう。
ヘンリーが首を振る。
「講堂内の様子が分からない以上派手には動けない。クリスを連れに戻ろう。隠密の魔法が必要だ。」
「それなら無理だよ。」
何もない所から声がする。
皆が身構えた。
しかし、現れたのはアルだった。
「あっちはゴブリンの群れと戦ってる。向こうに援軍が欲しいぐらいなのに。」
皆顔面蒼白になった。
次から次へと何という事だろう。
「隠密なら僕に任せて。3人ぐらいは隠して行動出来るよ。」
この場には場違いなほど明るい笑顔でアルが笑った。
皆眠たい目をこすりながら、厨房へ集合したいる。
6時に集められのは、朝ご飯を各自で作る為と、今日の魔法訓練に備えお弁当を用意する為だ。
私達は昨日の残ったポトフを冷蔵庫から取り出し、具材を細かくして、卵でとじスープを作った。それにトーストとサラダ、それにソーセージを焼いた。
中々の朝ご飯が出来上がった。
お弁当はサンドウィッチを作った。
卵の殻を剥く時に、薄皮がビッチリと張り付き表面がボコボコになってしまった事を除けば、かなり完璧な出来栄えだ。
無駄なドキドキイベントはいらないので今日は慎重に包丁を使った。
シャルロットとカイトは相変わらずラブラブなので、何をするにもイベント満載なのだが、あえて見ないようにしている。2人の世界はピンク色過ぎて目に毒だ。
「あれ見なさいよ。」
イザベルが酔ったオッサンなの?と思うほどやさぐれた感じを醸し出しながら、顎でしゃくってくる。
そちらの方を見ると、マリアがヘンリーに手取り足取り料理を教えていた。
あちらはあちらでイベント発生中だ。
「イザベル大丈夫?」
イザベルはケッと言って唇を突き出した。
「大丈夫じゃないわよ。でもしょうがないでしょ?クラスメイトと仲良くしないでなんて言えるわけないし。」
彼女は落ち込むのをやめ、やさぐれる事にしたらしい。
「まぁ、とりあえず準備出来たし、外行こう。」
私はその場からイザベルを連れ出す事にした。外に出ると、チラホラと人が集まり始めていた。
魔法訓練タイムトライアルはFクラスから始まるのだが、待っている間、時間が勿体無いので講堂で魔法学の講義も行われる。
私達の出発は最後の方なので、先に講義を受ける為講堂へ向かった。
それにしても今回の校外学習で、ヘンリーとマリアの距離が近付いている気がしてならない。
ヘンリー、、王妃が料理を作れる事で特にプラスになる事などないよ。
目を覚ましてくれと願う。
講堂で講義が始まる頃、Fクラスが出発し始めたようだ。
普通に走れば1時間もかからずにで走り切れるコースだが、トラップや攻撃があればどれほどかかるやら?クラスごと、しかも各班ごとに出発するので、私達はいつ出発なのか検討もつかない。
1時間ごとに講義の先生が入れ替わり、授業はストップしないので、途中で休憩を取ったりは各自で任されている。
コースを走り切った後、元気が残っていれば終わった人達も講義に出なくてはいけない。
私はぼんやりと講義を聞いていた。
最近起こった事が頭の中を駆け巡って行く。
私はイザベルの為に何が出来るだろう。
彼女の歩んで行く道を改めて考えてみる。
ヘンリーと上手くいっても、陛下の兄ジェファーソン様の存在、そしてニコラスの存在により常に危険に身を晒すだろう。
そして、マリアの存在。
イサキオスは言っていた。
彼女はきっと人を殺した事があると。
イザベルが進んで行く道が茨の道だとは知っていたが、これではあまりにも。
私の横で座る彼女の顔を見る。
少し疲れた様な顔をしている。ここ最近痩せてしまい、頰がこけているような気がする。
小さな彼女の為に何が出来るのだろう。
そんな事を思っていたら、不意に涙が溢れた。
イザベルがそれに気付いて驚いた顔をした後私を見つめた。
何となく自分の為に泣いた事を察したのか、彼女は苦笑いした。
「あんたが男だったらね。それなら私は、、。」
その後の言葉は続かなかった。
私は考えよう。彼女の為に必死で考えよう。
しばらくして私達の番がやって来た。
イサキオスの班はもう出発したようだ。
ヘンリー達の班は私達の班の後に出発らしい。サーキス君が話しかけてきた。
「クリスティーナ様、あなたなら何の心配もいらないと思いますが、くれぐれも気を付けて下さいね。」
彼は自然な仕草で私の手を握りウルウルと見つめてくる。彼はいつも通り元気そうだ。
「ほら、クリスティーナの班出発だ。」
カルロス先生に言われ、私達は出発した。
今日は皆動きやすいよう、ズボン姿である。
天気は良く、気温もちょうど良い、風もそよそよと心地良く、ピクニック日和といえる。
最初先頭を切ったのは、アルルーノだ。
走るたびに茶色い髪がフワフワと揺れている。彼は年々可愛らしさに磨きがかかっている気がする。
軽く走っているようだが、身体強化をしながら周囲を警戒している。
先生が張った結界内を走りながら、ポイントを目指す。
ポイントごとにスタンプが置かれており、スタンプを押したら次の人と交代となる。
アルが調子良く走っていると、前に立て札があった。
立て札には、
〔白線に立ち、的を魔法でねらえ。〕
と書いてあった。
白線は足元にあったのですぐ分かったのだが、、的が見つからない。目を凝らして見てみると遥か先に小さく見えた。
「えー、僕これ向いてないよ。攻撃魔法からっきし出来ないのに。」
アルは肩を落とす。
「でも、途中で交代する訳にいかないでしょ?」
私はそう言いながら考えた。
「あっ、石に魔力を込めてぶん投げれば?それだって魔法で狙った事になるでしょ?」
「えー、あんな遠くの的だよ?出来るかなぁ~?」
グズグズ言うアルにマグリットが切れる。
「おい、タイムトライアルだぞ!急いでやれ!」
「ブー、、もう。はいはい。」
アルは手近な石を取り、手の中で魔力を込める。
それを思いっきりぶん投げた。
私は透視で的を確認する。
石は思いっきりそれた。
「アル、それたよ。」
アルはもう一度試してみたが、ダメだった。
「こんなの無理だよ!」
アルは座り込んでやる気を無くす。
「何か良い方法無いかなぁ。」
私も必死で考える。
ズルかもしれないが1つ閃く。
「アルの投げた石を他の人の魔法で誘導するのは有りかな?」
「あぁ、まぁ良いんじゃない?投げたのはアルなんだし。」
イザベルが同意した。
「じゃぁ、マグリット、風でアルの石を的に当ててよ。」
私がお願いすると、彼はいかにも渋々といった顔をして承諾した。
結果は一発で命中。
しかし、あとでノーカウントにされるかもしれないなぁと思いながら、先頭をマグリットに交代してまた走り出したのだった。
それからは、マグリット、イザベル、そしてシャルロット、カイトと交代して順調に進んで行った。
最後は私の番だ。
皆が繋いでくれたので、頑張らねばと気合いを入れる。
しかし走り出したところで異変に気付く。
結界が途切れているのだ。
ここら辺を担当している先生に何かあったのか、緊張が走る。
ざわざわと何だか空気すら重苦しい気がしてきた。
「皆、結界が途切れてる。気を付けて。」
皆も緊張した面持ちだ。
最初の説明の時にゴブリンが出たという話しを聞いている。
「先生に何かあったのかしら?」
不安そうにしたシャルロットの背中をカイトがそっと撫でている。
マグリットが私に聞いた。
「班長どうするんだ?」
「そうだね。ここから魔物が入り込んでもいけないし、私が結界を補うから、誰か先生を連れて来てよ。」
この場に私、アル、マグリットが残り、イザベル、シャルロット、カイトが先生を探しに行った。
あと残っている班はヘンリーの班だけなので、追い付いてくればマリアとイザベルが鉢合わせる。
それを避けたかったので彼女を行かせた。
私は途切れた範囲を確認し、補うように結界を張った。
マグリットとアルは結界内から行方が分からなくなった先生を捜索する。
しばらくすると、ヘンリー達が追い付いて来た。
事情を説明する。
「先生が急にいなくなるのはおかしい。事件に巻き込まれたのかもしれないな。
」
ヘンリーが難しい顔をした。
私はマリアが密かに笑ったのを見た。
彼女は何か知っているのか、、?
しばらくして、異変が起きる。
先生方が張っている結界が3箇所一気に途切れたのだ。
皆それに気付き慌てる。
ヘンリーが言った。
「クリス何とかなるか?」
これだけ広大な結界となると、何人かで分け合って張った方が良いのだが、他人と結界を張り合うのは相当技術を要する。
今それが出来るのは私だけだろう。
私は目を閉じ、神経を研ぎ澄ませ、途切れた結界の場所を探り、張り直していく。
私はゆっくり目を開いた。
「張れた。」
皆がホッとした顔をする。
「ヘンリー達の班でタイムトライアルは終わりでしょ?戻って寮の結界に入った方がきっと安全だよ。皆戻って。」
私はそう提案した。
「クリスティーナ様を1人になどしません。私は残ります。」
サーキス君が私の背後に立つ。
マグリットも呆れたように言う。
「お前みたいなうっかり者残して行けるか。ヘンリー、ニコラス、マリア嬢とその取り巻き、君達は帰れ。国の重要人物達に何かあっては困る。」
アルも帰りたそうにしているが無視された。
ヘンリーは何か言おうとしたが、自分の立場は一番良く分かっている。
深く頷いた後、先生を連れて来ると言って皆を連れて行った。
「さて、どうしようか?」
私は皆に聞いてみた。
先生達に何かあったとすれば、先生達を襲った何かが近くにいるはずだ。
「クリス、結界張ったまま移動出来ないの?」
アルが聞く。
「出来るよ。でも、先生の安否が分からないのに放ってもいけないでしょ?」
「クリスティーナ様しかし、あなたに何かあっては困ります。」
サーキス君が私の肩を持った。
鳥肌が立つ。
彼は今日も死人の様な出で立ちだ。
「クリス透視で先生探してよ。」
アルが言う。
「結界張る魔力を温存しときたいんだけど。ねぇ、サーキス君は何の魔法が使えるの?」
私は期待を込めて聞いた。
それにしても肩に置いた手を離して欲しい。
「クリスティーナ様、私は雷の魔法を使います。それ以外は特に得意なものは無いのです。申し訳ありません。」
サーキス君はうなだれて、私の肩に顔を擦り付ける。
や、やめてくれ、、、
「まぁ、気にしないで。先生がそろそろ来るでしょ。」
しかし、イザベル達が呼びに行ってからもうだいぶ経つ。
何かあったのだろうかと心配になる。
その時異常事態が発生した。
私が張っている結界以外の結界全てが消えたのだ。
「なっ、なっ、何で!!!」
私は慌てる。
その時後ろの方でゴソゴソと物音がした。
嫌な予感は膨れ上がり、頭が痛い。
「ゴ、ゴブリンの群れだ。」
150㎝ぐらいの身体は小さい彼らだが、とてもどう猛な魔物で、集団で生活している。
時空の切れ目からやって来て、ここで繁殖したのだろう。
ワラワラと出てきた彼らの手には、斧や棍棒が握られている。
絵本に出てくる恐ろしい魔女の様なの顔をした彼らは、数百どころの騒ぎではないぐらい後から後から現れている。
「クリス、透視でゴブリンの場所を把握して奴らを囲い込め。」
マグリットが焦って言った。
私は慌てないよう心がけ、神経を集中し、透視で彼らの居場所を探る。
群れで広がる彼らを囲い込むのは骨が折れそうだった。
しかも、先生が紛れている可能性もある。普通の結界ではなく、人間が通れる結界を張る為に繊細な結界を必要とする。
「捕縛系結界発動」
彼らを一応閉じ込めた。
結界の気配に気付き、彼らが暴れ出したのが見える。
「私はここから動けない。この結界は特殊だから。皆は先生を探しに行って。これは異常だ。」
皆それは分かっている。
しかしここに私1人置いていくわけにはいけないと言った。
「結界張ってくれてるし、ここから魔法でゴブリンを退治しよう。クリスの結界が解けたら、こいつら暴れ出すでしょ?」
アルはそう言ったが、アルは攻撃が苦手だ。
「お前は攻撃が苦手だろうが。隠密で先生を探しに行け。それかイサキオスを連れて来い。あいつがいれば1人でも倒せれるだろ。」
マグリットに言われ、アルは素直に頷き消えた。
私の結界をゴブリン達が攻撃し始めた。攻撃されると、魔力を消費する。
「マグリット、結界狙われてるんだけど。何とかして。」
私が言うと、サーキス君が私が!!と叫び、雷の魔法を使い始めた。
彼の手の中で稲光りが起こり、とても幻想的だった。
ゴブリン達は雷を避ける為に散り散りになった。
「結界狭めて追い込めないのか?」
マグリットが言う。
「狭めても良いけど、先生がどこにいるか分からないから、攻撃魔法は見える範囲だけしかダメだよ?」
事態を把握するまでは、攻撃も気を付けなければいけない。
応援はいつ来るのか?
私の魔力量は保つのか、、。
その頃、戻ったイザベル達は途方に暮れていた。
黒ずくめの男達に皆が襲われ、結界が張られた講堂の中に押し込められたのだ。
先生方も生徒を人質に取られ身動きが取れない状況だ。
イザベルとシャルロットとカイトは、物陰に潜んでいた。
人質がいる以上下手に動く事は出来ない。まずは人質達を解放せねば。
しばらくすると、ヘンリー達が合流した。
いち早く気付いたイザベルが、皆を静かにさせ物陰へと連れて来る。
「これは一体。」
ヘンリーが青ざめて聞いた。
イザベルは首を振る。
「分かりません。黒ずくめの男達が講堂内に先生と生徒を押し込め何かしています。周りに見張りもいるので身動きが取れません。」
ヘンリーは頷く。
「見張りから減らしていくか。」
ニコラスが言った。
彼は父親と一緒に傭兵団に所属していた。かなりの戦力だろう。
ヘンリーが首を振る。
「講堂内の様子が分からない以上派手には動けない。クリスを連れに戻ろう。隠密の魔法が必要だ。」
「それなら無理だよ。」
何もない所から声がする。
皆が身構えた。
しかし、現れたのはアルだった。
「あっちはゴブリンの群れと戦ってる。向こうに援軍が欲しいぐらいなのに。」
皆顔面蒼白になった。
次から次へと何という事だろう。
「隠密なら僕に任せて。3人ぐらいは隠して行動出来るよ。」
この場には場違いなほど明るい笑顔でアルが笑った。
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