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本当の始まり

悪役令嬢の行く末

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ホールケーキを食べ終えた後、私達は放心状態だった。勢い良く食べ過ぎたせいでケーキが戻って来そうになり、皆顔が青白い。
苦い紅茶を淹れて貰い、それをチビリチビリ飲んで耐えていた。

「ねぇ、私のお祝いだって言ったよね?お祝いってこんなに雑なもんなの?ウプッ。」

「「、、、。」」

2人は答えない。
私はため息を吐いた。

「パァーッとしたかったのよ!」

突如イザベルが大声を出した。しかし、口を押さえ後ろを向いた。気持ち悪いのに無理するからだ、、。

「ねぇ、イザベル、ヘンリーがマリアの事を誘った話しを聞いたよ。」
 
私は思い切って聞いてみた。
イザベルが固まる。

「夜会のことね?」

「うん。」

イザベルは向き直り真面目な顔になった。

「ティーナ、結界を張ってくれる?」

私は頷き結界を張った。何だか緊張する。

「何があったの?」

「、、私、初めてヘンリー様と喧嘩したのよ。」

イザベルは何でもないようにコロリと笑った。
何と言って良いか分からず、私は返事が出来なかった。代わりにシャルロットが口を開いた。

「ヘンリー様がマリアさんを誘ったから?」

イザベルは首を振った。

「いいえ、喧嘩したのはその前。ヘンリー様とマリアさんが仲が深まっている事を私は感じていたわ。そして、私はヘンリー様に愛されていない事にも気付いた。」

私は頷く。

「ねぇ、ティーナ、シャルロット、私ね、マリアさんがヘンリー様と結婚したいって言い出した時に本当に腹が立ったのよ。それは本当なの。あの時私は確かにヘンリー様を心から愛していたわ。」

でもねと言って彼女はうつむいた。

「私、今は少しホッとしてるの。」

「ホッとしてる?」

「そう。学園生活が始まって、寮で暮らし始めて、私休日が出来たの。家でいる時は、淑女教育、王妃教育、そして社交の場へ出かけて、時間があればヘンリー様に気に入られようと努力したわ。そんな毎日が当たり前だった。王妃になればもっと忙しい、そう思えばその時の暮らしも楽なもんなんだと思って楽しめたわ。でも今の暮らしを知って、私王妃になるのが怖くなったの。」

イザベルは微笑んだ。もう吹っ切れている、そんな顔だった。

「王妃になれば、日曜だから休み。そんなのあり得ないわ。体調が悪いなんて関係無い。それが死ぬまで続いていく。それが怖くなったの。しかも、ヘンリー様に愛されていないと気付いたのよ?私、何を心の支えにしながら生きて行くんだろうって思った。、、軽蔑する?」

私とシャルロットは首を振る。私達は彼女の重圧を初めてちゃんと理解した。

「そんな気持ちの私が、ヘンリー様と結ばれるより、マリアさんがヘンリー様と結ばれた方が良いんじゃないか、、そう思い始めたわ。そしたら、憎々しい気持ちが徐々に薄れていったの。それに、、ニコラス様が私を愛して下さった。彼が私に自信をくれたのだと思うの。私はヘンリー様に選ばれなかったけど、誰からも選ばれない女ではない、、そう思えたの。」

「、、イザベル。」

「ティーナ、そんな顔しないで。私何だか気が楽になったのよ。ニコラス様にも私の気持ちを伝えたの。私は王妃になる事を望んでいないと。でも、お父様には言えないのだけれどね。ラウエニア家は王家に援助してきた。私が王妃にならなくては私の家は報われないわ。」

「難しい問題ね。家同士の問題になれば、個人の意思は無視されるもの。」

シャルロットが呟く。

「ええ。でも、私が選ばれなければそれはしょうがない話しよ。お父様も諦めるわ。なるようにしかならないのよね。」

「ヘンリーとそれで何で喧嘩になったの?」

イザベルがその調子なら喧嘩にならないような気がするのだが。

「はぁ、、私はヘンリー様に気持ちを確認したの。ヘンリー様はマリアさんが好きなんじゃないかと。それなら私の事は気にしなくても良い、そう言ったわ。」

「「???」」

やはりそれで喧嘩になる気がしない。

「そう言った瞬間、ヘンリー様がとても冷たい目になって、私に言ったの。ニコラスに心を奪われたのかって、、。」

「「なっ!!」」

「私は違うって言ったわ。その時は王妃になる恐怖を抱えていただけで、ヘンリー様の事をまだ愛していたと思う。それに今でもニコラス様の事を好ましくは思っても、愛してるとは思えない。そんなに簡単に心変わりなど出来ないわ。でも、ヘンリー様は私を信じなかった。」

「そんな、、。」

私は悲しくなった。ヘンリーも私にとっては大切な友人だ。しかし、彼の事が分からなくなってきた。

「それでね、、自分はマリアさんに心を奪われて、彼女の事を追いかけ回しているくせに、どの口が私の事を責めているの!って叫んでやったのよ。フフッ。」

「えっ?そんな事言ったの。」

「はぁーあの時は本当にスッキリした。私が歯向かうなんて思ってもみなかったんでしょうね。彼はポカンとして何も言えなくなったわ。」

私はシャルロットと顔を見合わせた。
そしてイザベルを見る。

「「「プッ、アハハハハハッ。」」」

「イザベル最高!何だ本当に吹っ切れたんだね。」

「ええ。私、もっと自分の為に生きてみるわ。もし王妃になったとしてもよ。だから、2人ともずっと私の友達でいてね。あなた達を見てきたから、私も自由に人を愛してみたいって思えたのよ。」

私達は手を握り合った。
変わらぬ友情を確かめ合う為に。

その後、私は自分が転生者である事、魔王になるかもしれない事等は端折り、昨日の話しを2人にもした。
イザベルは渦中の人物なので、知っておいた方が良い情報だろう。

「イザベルは夜会どうするの?」

「、、そうね。ニコラス様の誘いを受けようかとは思っているわ。夜会には参加しなくてはいけないだろうし、エスコート無しでは行けないわ。」

「私は今回の夜会では何が起こるか分からないから行くなとお父様に言われてしまったの。2人ともごめんなさい。」

シャルロットが悲しそうにする。

「良いのよ。皆それぞれの立場があるのだから。ティーナはイサキオス様と来るのでしょう?」

「多分。ゴブリンの所へ行ったのを最後に会えていないんだ。」

「そうなの。でも、あなただけでも参加が決まっているなら心強いわ。」

私は頷いた。そして私は立ち上がりイザベルの元へ行く。彼女は座ったままで私の方へ向き、不思議そうにしていた。
彼女の前で片膝をついた。

「私、クリスティーナ・バレンティアはイザベル・ラウエニア嬢を命の限りを尽くしお守り致します。」

彼女の手を取り、手の甲に口付けを落とす。
彼女は真っ赤になっていた。

「イサキオスとは話せてないから分からないけど、私はイザベルを支持する。王妃になろうがなるまいが、イザベルを守ってみせるよ。」

「、、ありがとう。」

シャルロットが微笑ましい顔で見つめていた。
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