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彩乃
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「おはよう紗凪!」
ある日の昼下がり私がランチルームに向かっていると、後ろから彩乃の元気な声が聞こえてきた。
「おはようじゃないし!朝の講義出てないでしょ?」
「えへへ、チョット寝坊してね。」
彩乃は舌を出しながら笑った。
「ねぇ、何食べるの?」
「私いらないや。昨日飲み過ぎて気持ち悪くて。」
「飲み過ぎたって、私たちまだ18歳だよね?」
「ん?ほら、炭酸、炭酸飲み過ぎたんだって!」
私はジト目で彩乃を見たが、彩乃は私を満面の笑みで見つめてきた。
とりあえずご飯は取らずにランチルームの端の席に私と彩乃は腰を下ろした。
「そういう事にしといてあげるよ。で?昨日は何してたの?」
「何してたってコンパに決まってるじゃない?」
「決まっては無いでしょ?そのご機嫌な感じは誰か良い人でもいたの?」
「全然、外れも外れ大外れよ。」
その割に楽しそうな彩乃の姿に私は違和感を感じた。私の表情でそれが分かったのか、彩乃は持っていた鞄から何やらゴソゴソと取り出し始めた。
「これこれ。」
彩乃が取り出したのは、ぐちゃぐちゃになった小さな紙きれだった。
「何これ?」
私は指先でその紙を伸ばしながら中身を見ようと目を細めた。
「携帯番号?」
そこには男子が書いたのだろうか、汚い数字が並んでいた。数字の間に横棒がある事からただの数字ではなく携帯番号だと予想が付いた。
「そうなのそうなの。何の番号だと思う?」
「えっ?だから気になる男の子のじゃないの?」
私はそう言うと彩乃は嬉しそうな顔でブブーと言った。
「じゃぁ、何なの?」
私が少し不機嫌な顔でそう言うと、彩乃はこう言った。
「これが呪いの番号だよ。」
私は一瞬意味が分からなくて首を捻ったが、段々理解が追いついて来ると私の背中を冷たい汗が伝うのが分かった。
「冗談でしょ?」
「多分、冗談。昨日男子達が面白がってここに電話したんだけど、現在使われていませんって流れたの。」
「何だじゃぁ何でそんな物持ってるの?」
「どうせなら自分でも試したいじゃん?」
私はため息を吐いた。彩乃の気持ちがさっぱり理解出来なかったからだ。しかし昨日の時点で何でもない番号なのは分かっているので、あえて止める事もしなかった。
彩乃は嬉しそうな顔で数字を押し電話をかけ始めた。ニヤニヤしながら最後の数字を押し携帯を耳に当てた。
しかし嬉しげだった彩乃の顔が曇っていく。
「どうかしたの?」
私がそう聞くと、彩乃が小さな声でプルルルルって言ってるとそう言った。
しばらくすると彩乃は青白い顔で携帯を放り投げた。
「何やってるの!?」
慌てて携帯を拾い彩乃の元へ戻ると、彩乃は小刻みに震えていた。
彼女の背中をそっと撫でながら私は何があったのかを聞く。
「む、、迎えに行くって、、迎えに行くねって言ったの!!」
彩乃はもう泣き出していた。どう見ても嘘を言っているように見えなくて、私も青白い顔で彩乃を抱きしめ彼女の頭を撫でた。
しばらくして泣き止みようやく話しが出来るようになり、2人で携帯の発信を確認した。
「どうして…?」
彩乃が戸惑った声で呟く。先程かけたはずの電話番号はすっかり消えてしまっていた。一番最後にかけた電話の日付は昨日の日付だったのだ。
「何で?」
私は慌てて先程の小さな紙切れを見ようと机を見たが、その紙もまた忽然と消えていたのだった。
風に飛ばされたのかもしれないと、私達2人は懸命にその紙を探したが、見つかる事は無かった。
「紗凪…私怖い。」
彩乃が珍しく落ち込んだ顔で私を見つめてくる。彩乃は県外からやって来ており、現在一人暮らしだ。明日からちょうど土日祝日と3連休となるので、とても不安だろう。
「それなら明日から私の実家においでよ。私がバイトの時も、私のお母さんが家にいるし!変な男に目を付けられて困ってるとか適当に言って、側にいてあげてって言っておくしさ!」
「紗凪ありがとう!!」
彩乃は目をウルウルさせて私に抱き付いて来た。彼女の頭をよしよしと撫でながらも私自身も不安な気持ちに苛まれていた。
「安心したらお腹空いたし。」
すっかり元気になった彩乃はそう言うと、定食を買いに並んだ私の後ろへとやって来た。
「紗凪はA定?B定?」
「えーっと、豚の生姜焼きか、カレイの煮付けかぁ…B定食かな。魚の気分。」
「私はA定、肉の気分~。」
「えっ?さっきまで気持ち悪いって言ってなかった?」
「そうだっけ?」
「もう、彩乃って本当適当だよね。」
「へへっ。」
そんなくだらない話しをしながら並び、私達はお盆を持って席に戻った。
美味しく昼食を食べていると、ふと誰かに見られているような気がして顔を上げた。
ランチルームの窓から見える木の陰で、見知らぬ中年男性がこちらを射殺すような目で見つめて来ていた。
あまりの形相に私は息を呑み箸を落としてしまう。
「紗凪どうしたの?」
「あの人こっち見てる?」
私は彩乃だけに見えるように小さく窓の方を指差した。
しかし彩乃が振り返った時にはそこには誰も居なかったのだ。
「えっ?誰もいないけど…。」
「さっき確かに…。」
せっかく明るくなった空気がまた冷たく暗くなったのが分かる。
「ねぇ、彩乃……呪いの事調べよう!」
「どうしたの急に…?」
「このまま何かあったらと思いながら待つのは怖いし、関係無い事まで全部全部怖く感じちゃうし…。」
「そうだね。うん!調べよ!」
私達は食べかけの定食を返却口へ置き、ランチルームを出た。
「でも紗凪、どこ行くの?」
「そもそもその携帯番号誰が持って来たの?」
「えーっとね、昨日初めて会った一真君って子が拾ったって言ってた。」
「昨日電話かけたって言ってたのも一真君?」
「確かそう。何か皆で盛り上がって来て、かけろーかけろーって囃し立てちゃって。」
「その一真君とは連絡取れるの?」
「んー、コンパの幹事だった朋未なら分かると思うけど。でも、一真君は噂の事あんま知らなかったっぽいし、聞いても分かんないと思うよ?」
「そうなんだ。」
私はがっくりと肩を落としたが、しかしそこで疑問が湧いて来た。
「知らなかったのに何でその番号が呪いの番号って話しになったの?」
「それがね、あの例の陸橋の上でこの番号拾ったんだって。」
「そんな曰く付きのものだって知ってたら、彩乃が電話掛けるの必死で止めたのに…。」
「ごめん。」
「言ってもしょうがない!よし!とりあえず図書館に行こう。」
「図書館?」
「あの陸橋で起こった自殺の事調べよう。確か図書館って新聞を何年分も保管してるんじゃなかったっけ?」
「そっか。よし、行こう。」
私達は午後の講義を受けずに大学を出て図書館を目指した。その時またあの視線を感じた気がしたのだが、彩乃を怖がらせるだけだと分かっていたので私はそれを黙っていた。
ある日の昼下がり私がランチルームに向かっていると、後ろから彩乃の元気な声が聞こえてきた。
「おはようじゃないし!朝の講義出てないでしょ?」
「えへへ、チョット寝坊してね。」
彩乃は舌を出しながら笑った。
「ねぇ、何食べるの?」
「私いらないや。昨日飲み過ぎて気持ち悪くて。」
「飲み過ぎたって、私たちまだ18歳だよね?」
「ん?ほら、炭酸、炭酸飲み過ぎたんだって!」
私はジト目で彩乃を見たが、彩乃は私を満面の笑みで見つめてきた。
とりあえずご飯は取らずにランチルームの端の席に私と彩乃は腰を下ろした。
「そういう事にしといてあげるよ。で?昨日は何してたの?」
「何してたってコンパに決まってるじゃない?」
「決まっては無いでしょ?そのご機嫌な感じは誰か良い人でもいたの?」
「全然、外れも外れ大外れよ。」
その割に楽しそうな彩乃の姿に私は違和感を感じた。私の表情でそれが分かったのか、彩乃は持っていた鞄から何やらゴソゴソと取り出し始めた。
「これこれ。」
彩乃が取り出したのは、ぐちゃぐちゃになった小さな紙きれだった。
「何これ?」
私は指先でその紙を伸ばしながら中身を見ようと目を細めた。
「携帯番号?」
そこには男子が書いたのだろうか、汚い数字が並んでいた。数字の間に横棒がある事からただの数字ではなく携帯番号だと予想が付いた。
「そうなのそうなの。何の番号だと思う?」
「えっ?だから気になる男の子のじゃないの?」
私はそう言うと彩乃は嬉しそうな顔でブブーと言った。
「じゃぁ、何なの?」
私が少し不機嫌な顔でそう言うと、彩乃はこう言った。
「これが呪いの番号だよ。」
私は一瞬意味が分からなくて首を捻ったが、段々理解が追いついて来ると私の背中を冷たい汗が伝うのが分かった。
「冗談でしょ?」
「多分、冗談。昨日男子達が面白がってここに電話したんだけど、現在使われていませんって流れたの。」
「何だじゃぁ何でそんな物持ってるの?」
「どうせなら自分でも試したいじゃん?」
私はため息を吐いた。彩乃の気持ちがさっぱり理解出来なかったからだ。しかし昨日の時点で何でもない番号なのは分かっているので、あえて止める事もしなかった。
彩乃は嬉しそうな顔で数字を押し電話をかけ始めた。ニヤニヤしながら最後の数字を押し携帯を耳に当てた。
しかし嬉しげだった彩乃の顔が曇っていく。
「どうかしたの?」
私がそう聞くと、彩乃が小さな声でプルルルルって言ってるとそう言った。
しばらくすると彩乃は青白い顔で携帯を放り投げた。
「何やってるの!?」
慌てて携帯を拾い彩乃の元へ戻ると、彩乃は小刻みに震えていた。
彼女の背中をそっと撫でながら私は何があったのかを聞く。
「む、、迎えに行くって、、迎えに行くねって言ったの!!」
彩乃はもう泣き出していた。どう見ても嘘を言っているように見えなくて、私も青白い顔で彩乃を抱きしめ彼女の頭を撫でた。
しばらくして泣き止みようやく話しが出来るようになり、2人で携帯の発信を確認した。
「どうして…?」
彩乃が戸惑った声で呟く。先程かけたはずの電話番号はすっかり消えてしまっていた。一番最後にかけた電話の日付は昨日の日付だったのだ。
「何で?」
私は慌てて先程の小さな紙切れを見ようと机を見たが、その紙もまた忽然と消えていたのだった。
風に飛ばされたのかもしれないと、私達2人は懸命にその紙を探したが、見つかる事は無かった。
「紗凪…私怖い。」
彩乃が珍しく落ち込んだ顔で私を見つめてくる。彩乃は県外からやって来ており、現在一人暮らしだ。明日からちょうど土日祝日と3連休となるので、とても不安だろう。
「それなら明日から私の実家においでよ。私がバイトの時も、私のお母さんが家にいるし!変な男に目を付けられて困ってるとか適当に言って、側にいてあげてって言っておくしさ!」
「紗凪ありがとう!!」
彩乃は目をウルウルさせて私に抱き付いて来た。彼女の頭をよしよしと撫でながらも私自身も不安な気持ちに苛まれていた。
「安心したらお腹空いたし。」
すっかり元気になった彩乃はそう言うと、定食を買いに並んだ私の後ろへとやって来た。
「紗凪はA定?B定?」
「えーっと、豚の生姜焼きか、カレイの煮付けかぁ…B定食かな。魚の気分。」
「私はA定、肉の気分~。」
「えっ?さっきまで気持ち悪いって言ってなかった?」
「そうだっけ?」
「もう、彩乃って本当適当だよね。」
「へへっ。」
そんなくだらない話しをしながら並び、私達はお盆を持って席に戻った。
美味しく昼食を食べていると、ふと誰かに見られているような気がして顔を上げた。
ランチルームの窓から見える木の陰で、見知らぬ中年男性がこちらを射殺すような目で見つめて来ていた。
あまりの形相に私は息を呑み箸を落としてしまう。
「紗凪どうしたの?」
「あの人こっち見てる?」
私は彩乃だけに見えるように小さく窓の方を指差した。
しかし彩乃が振り返った時にはそこには誰も居なかったのだ。
「えっ?誰もいないけど…。」
「さっき確かに…。」
せっかく明るくなった空気がまた冷たく暗くなったのが分かる。
「ねぇ、彩乃……呪いの事調べよう!」
「どうしたの急に…?」
「このまま何かあったらと思いながら待つのは怖いし、関係無い事まで全部全部怖く感じちゃうし…。」
「そうだね。うん!調べよ!」
私達は食べかけの定食を返却口へ置き、ランチルームを出た。
「でも紗凪、どこ行くの?」
「そもそもその携帯番号誰が持って来たの?」
「えーっとね、昨日初めて会った一真君って子が拾ったって言ってた。」
「昨日電話かけたって言ってたのも一真君?」
「確かそう。何か皆で盛り上がって来て、かけろーかけろーって囃し立てちゃって。」
「その一真君とは連絡取れるの?」
「んー、コンパの幹事だった朋未なら分かると思うけど。でも、一真君は噂の事あんま知らなかったっぽいし、聞いても分かんないと思うよ?」
「そうなんだ。」
私はがっくりと肩を落としたが、しかしそこで疑問が湧いて来た。
「知らなかったのに何でその番号が呪いの番号って話しになったの?」
「それがね、あの例の陸橋の上でこの番号拾ったんだって。」
「そんな曰く付きのものだって知ってたら、彩乃が電話掛けるの必死で止めたのに…。」
「ごめん。」
「言ってもしょうがない!よし!とりあえず図書館に行こう。」
「図書館?」
「あの陸橋で起こった自殺の事調べよう。確か図書館って新聞を何年分も保管してるんじゃなかったっけ?」
「そっか。よし、行こう。」
私達は午後の講義を受けずに大学を出て図書館を目指した。その時またあの視線を感じた気がしたのだが、彩乃を怖がらせるだけだと分かっていたので私はそれを黙っていた。
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