私モブだけどヒロインの代わりに逆ハーして世界を救ったら、最推しと恋愛しても良いよね!

時雨 秋燈

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第一の攻略対象は公爵家の次男です。

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「う……うふ、うふふふふふ……」
 あらいけない、ついつい笑いが漏れてしまったわ。
  
  
 昨夜、外面だけでも完璧なご令嬢になって見せる、と誓って早数時間。
 既にその誓いを破ってしまった。
 だって、余りにも事が上手く運びかけていて、我慢できなかったんですもの。
 周りに誰もいない今なら少しぐらい猫がずり落ちていても大丈夫でしょう。
  
 こんなに私が浮かれている理由。
 それは今日のお昼の話。
  
「ローランド、僕は今日図書館で少し調べ物をしたいんだ。ついでにそのまま勉強もしようと思う」
「いいね。じゃあ俺もご一緒させてもらおうかな」
  
 これ! これが私が盗み聞きした今日のユリオット様とローランド様の会話!
 つまり、今日はお二人で図書館に現れる……まさに図書館イベントフラグなのよ。
 まさか、イベントの事を考えた翌日にイベントが起こるなんて、神様の思し召しかしら?
 兎に角、今日はしっかりと図書館でお勉強に勤しむつもりで準備は万端。
  
  
「いざ参らん!図書館へ!」
  
 あ、いけない。
 また声に出ちゃった。
 完璧令嬢への道のりって中々茨の道なのね。
  
  
  
  
  
 *******
  
  
  
  
「はっ、余りに集中し過ぎて周りを観察するの忘れてた!」
  
 勉強の用意もそこそこに読み始めたその本は、この国の歴史に纏わるお話が詳細に記された物。
 好きなゲームの世界の事だから読むのが普通に楽しくて、ついつい没頭してしまってた。
 まぁ、これも勉強と言えば勉強だし間違ったことはしていないのだけれど、時計を確認してみれば既にこの場所を陣取ってから3時間は時間が経過している。
 外も薄っすらと暗がりが広がり始め、そろそろお二人との遭遇が有ってもおかしくない時間だった。
  
「けど、驚いたわ。この王国の建国に深く関わっている賢女様、つまり初代王妃様も前世の記憶を持っていただなんて……」
「王妃様‘も’?……」
「ひゃうっ⁉︎」
  
 私の呟いた独り言に突然質問が飛んできてびっくりする。
 ひゃうっ、なんて多分完璧令嬢は出さない様な声を出してしまった事に深く反省。
 昨日からもう何回誓いを破ってしまってるのかしら。
 って、いけない誰かに話しかけられたんだったわ。
  
 声がした方を振り向いてみれば、そこにはキラキラエフェクトを周囲に散りばめちゃったのかな、と疑いたくなる程眩い青年が立っていた。
 青空を思わせる爽やかなスカイブルー一色の真っ直ぐな髪の毛、深い海の底から掬い出した様なダークブルーの瞳、寒色で纏まった色合いから整ったお顔は氷の彫刻を連想させる。
 そして切れ長の瞳を隠すメガネは細い金縁で、それがまた知的な感じを醸し出していて。
 見た感じはとても繊細そうな印象を受けるけれど、実際は辛い境遇でも挫けず踏ん張り続けている頑張り屋さん。
  
 いやー、こんな素敵な人が現実に居れば惚れちゃうね。
 あ、目の前に居たわ。
  
 そう、何を隠そう彼が第一の刺客……
 ん? 違う、違う。
  
 第一の攻略対象ユリオット様!
 そして私的彼の最も素敵なポイントが。
  
「おい、ユリオット?どうしたんだ?」
  
 ひゃぁぁぁぁあああ!
 しゅてき……カッコいい……ああ、語彙力が死ぬ。
 最早尊い、としか言いようが無い。
 そう、ユリオット様の後ろからひょっこり姿を表したローランド様、このお二人何を隠そう従兄弟同士の大親友!
 神か!
 これだけで追加ポイント100万点あげてもいいわ。
 て、何様だ私。うん、モブ様だ。
  
 お二人の瞳の色がダークブルーでお揃いなのも御姉妹であるお母様方からの遺伝。
 髪の毛は少し違うけど、ブルー系統なのは一緒。
 いやぁ、好感度爆上げだなーユリオット様。
 それでも、ローランド様には負けるけどね。
  
 とまぁ、興奮した心を少し落ち着けて説明するとユリオット様のご実家であるライオネル公爵家。
 そこに嫁いだのがユリオット様のお母様でもあるローズ様。
 彼女はユリオット様のそっくりの美貌の持ち主で、けれども性格はユリオット様とは反対の美貌そのままの氷の様な冷たい性格らしい。
 けど、唯一その氷を溶かすのが自慢の息子である長男ミハエル様。
 出来損ないだと見限ってるユリオット様には他の人間同様、氷の様な冷たい態度で接している。
  
 一方、ローランド様のご実家であるオーフェン侯爵家に嫁いだのがローズ様の妹でありローランド様のお母様でもあるリリー様。
 とてもお優しい方らしく、見た目はローズ様と似ている造りだけど性格が滲み出ているのか柔らかな優しい印象を与える美貌の持ち主らしい(以上、公式ファンブックより)
 ちなみにローランド様、瞳以外はお父様似らしいので、ユリオット様とはあんまり似ていない。
 まぁ、従兄弟同士ってそんなに似てるものじゃ無いしね。
  
 はっきり言ってローランド様はユリオット様と違って芸術品を思わせる様な美貌はない。
 けれど、そこがまた良いのだ。
 だって私、毎日高級フレンチフルコース食べるよりも、毎日美味しい定食を食べたい派だから。
 勿論乙女ゲームのキャラだから普通よりは全然イケメンだけどね。
  
  
 兎に角、心の準備が出来ていたとは言え、やっぱり近距離でローランド様を拝んでしまった私は、ユリオット様の言葉に返事をすることも出来ず、池の鯉の様に口をパクパクさせながら固まってしまった。
  
「ええと、ファランドール侯爵令嬢……で、良かったかな?」
  
 ローランド様を見つめて固まってしまった私に怯むことなく、ユリオット様は紳士的に話しかけて下さる。
 ちなみに我がファランドール家はユリオット様のおっしゃる通り侯爵の爵位を頂いております。
 こんな時にこんな情報が初出しで申し訳ありません。
 まぁ、数ある侯爵家の中でも影響力という名の地位は中の中と言った所で、やはり平凡の域を出ないのが私を私足らしめるポイントです。
 でも、ローランド様も侯爵家のご出身だしね!
 丁度、一緒で釣り合いも取れるのでとても良いことだわ。
 ライオネル公爵家と繋がりがあることでオーフェン侯爵家の方がずっと影響力は高いけど。
  
「え、ええ。ファランドール侯爵の娘、ミシェルと申しますわ。どうぞお見知り置きを。ライオネル様、オーフェン様」
「悪いが家名を呼ばれるのは好まなくてね、出来ればユリオットと呼んで頂きたい」
「あ、出来ればオレもそうして貰いたいな。ローランドで良いよ」
「そうですか、それでは改めてユリオット様、ローランド様。よろしくお願い致します。私の事も是非ミシェルとお呼び下さいませ」
  
 静々と膝を折って挨拶を交わす。
 しかし、心の中では大興奮で。
 今まで勝手にローランド様だなんて呼んでいたけれど、面と向かってお呼びするのは初めてだったのでそれだけで失神するのではないか、と言うくらいにドキドキしていた。
 自分で言っておいて何だが、これでローランド様からミシェルと呼ばれでもしたらーー
  
「ありがとうミシェル、こちらこそ宜しく」
「おい、ローランド!馴れ馴れしすぎるぞ。すまないミシェル嬢、此奴は少し軽率な奴だが悪い奴では無いんだ。気を悪くしないでやってくれ」
「いえ、私がそう呼んで下さいと申したのですから。むしろ仲良くなれた気がして嬉しいですわ」
「ほらな、ユリオットは少し固すぎるんだよ」
  
 ーーーーは、昇天するかと思った。
 ローランド様に名前を呼ばれるのはヤバすぎる。
 クリティカルヒットか。
 効果は抜群だ、ってやつか。
 半ば魂が抜けた状態でも令嬢の猫を被り続けられた自分のファインプレイっぷりを心から褒めてあげたい。
 きっとローランド様を前にして失態を犯せないと言う怨念染みた執念が私を突き動かしたのね。
  
「はぁ、ローランドは少し黙っててくれ。それよりも、ミシェル嬢。先程初代王妃様‘も’前世の記憶を持ってた、とか何とか言っていなかったか?」
「へ?え……いえ、あの。……小説!そう、先日前世の記憶を持った少女が主人公の小説を読みましたの。それで、初代王妃様もその主人公と同じだったのでビックリしたと言いますか……もしかしたらその主人公は初代王妃様をモデルにしているのかもしれませんわね。おほほほほ……」
  
 わ、我ながら咄嗟にしては良い誤魔化しが出来たんじゃないかしら。
 まさかあの独り言をユリオット様に聞かれていただなんて。
 やっぱり気を抜くんじゃなかったわ……これからはもっと気をつけないと。
  
「ああ、何だそう言う事か」
「私の不用意な一言が驚かせてしまったみたいですわね。申し訳ありません」
「いや、勝手に聞いてしまったのは僕の方だ。急に話しかけてしまってすまなかった。初代王妃様は我がライオネル家出身だからね。王妃様の話題には少々敏感になってしまう癖があるんだ」
  
 そう、ライオネル公爵家は初代王妃様を排出した由緒ある家系。
 だからこそ、その力も群を抜いている。
 特に初代王妃様が残した手記を含む全著書が保管されているライオネル家の書庫は王国としてもかなり重要で……
 これからのゲームにも深く関わってくるのだ。
  
 それに関してはおいおい説明するとして、問題はこの後だ。
 何だか会話が終わってしまいそうな雰囲気を醸し出し始めてしまったけれど、何とかこれから一緒に勉強する展開に持って行かなくちゃいけない。
 私の不用意な独り言で元来のイベントとは違うスタートを切ってしまったものだから、どうすれば良いか分からなくなってしまった。
  
「そういえばミシェルはこの前のテストで1番だったんじゃないか?」
  
 まさかの助け舟を出して下さったのは愛しのローランド様。
 サポート対象外の私ですら救って下さるなんて、神の化身なのかしら。
 はぁ、好き……
 おっとと、どうしてもローランド様を目の前にすると頭がトリップしてしまう。
  
「ええ、恥ずかしながらその様な成績を頂くことが出来まして、まぐれみたいな物だとは思いますが。女がこんな成績を取るなんて生意気だと皆様も思われたでしょうし」
「性別なんて関係ないだろう。すごいものはすごいよ。それに、1位なんてまぐれで取れる物じゃないだろ。今日だってもう外も暗くなり始めているというのに残って勉強に励んでるじゃないか」
「いえ、これは半ば趣味みたいなものでして……」
「趣味?……勉強が?」
  
 ローランド様のスーパーサポートのお陰で何とか繋がれた会話。
 褒められた事が嬉しくてつい調子に乗ってしまった。
 勉強が趣味と漏らした私の言葉にピクリと表情を変えたのはユリオット様。
 そりゃあそうよね、ユリオット様にとっては存在意義を証明するために血反吐を吐くような思いで挑んでいる勉強なのに、その成績を抜いたのが趣味なんてお気楽気分で取り組んでいる私だったなんて。
 どうしよう、これじゃ苦手意識どころか嫌われてしまうかも……
  
「そ、そうですよね、ちょっと可笑しいですわよね、勉強が趣味だなんて。あの、私も自分で変わっているなとは思うのですが……ええと、あの。申し訳ありません」
「いや、責めているわけじゃないんだが。……僕の中では生まれない様な発想だったから、つい。そうか趣味、ね」
「なんだ、ユリオットがそんなに興味を持つなんて珍しいな。そうだ、良かったら少しミシェルの勉強に交ぜて貰えば良いじゃないか」
「はぁ!? ローランド何を勝手な事言っているんだ。ミシェル嬢に迷惑じゃないか!」
「いえ! そんなことありませんわ。私も一人じゃ寂しいと思っていましたの! こちらこそお願いしたいくらいですわ、是非ともご一緒させて下さい!」
  
 ここぞとばかりに身を乗り出して誘ってしまった私の姿に些か驚いているお二人。
 いけない、本当に私ったら失態ばかりで困ったわね。
  
「ほら、ミシェルもこうして誘ってくれてるんだし、良いじゃないか」
「う…そう、だな。確かに偶にはこういうのも悪くない、か」
  
 ふぅ……一時はどうなる事かと冷や汗をかいたけれど、どうにかこうにか一緒にお勉強、の流れまで漕ぎつけられたわ。
 本当にローランド様々ね。
 後は、少し名残惜しいけれど、ユリオット様の複雑な心境を察しているローランド様が気を使って用事があるふりをして帰り、私たちを二人きりにして下さる筈。
 けれど、これで良かったのよね。
 だって、私ローランド様が目の前にいると極端に頭の働きが鈍ってしまうし、焦って変なことを口走ってしまうし、気が付けば目でローランド様を追ってしまっているんだもの。
 無事にユリオット様との仲を深めるためにも、ローランド様とはお別れしなくちゃ……
  
「じゃあ、俺はこの席に座らせてもらおうかな。ほら、ユリオットは隣、早く来いよ!」
  
 えええええぇぇぇぇぇ、何当然の様に私の荷物の目の前の席を陣取ってるんですかローランド様!
 いや、嬉しいですよ? 嬉しいですけれども‼︎
 違うでしょ、ここは貴方帰る場面でしょ?
 あれですか、私がサポート対象外だからですか?
 さっきまであんなにサポートして下さったのに、ここまで来てサポート切れなんですか…!?
  嗚呼、無情…
  
  

  
 どうしましょう、ローランド様を目の前にしてユリオット様の好感度を上げられる気がしないのですが……
  
  
  
  
  
  
  
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