帝国の曙

Admiral-56

文字の大きさ
6 / 12

第五話 一二○八計画

しおりを挟む
 クーデターより約二週間が経とうとしていた。そして、それは運命の日が間近であるということでもあった。



 伊藤はハル・ノートへの返事を出した際に、それに対する返答の期限を12月8日午前零時と定めた。



 また返答が無かった場合、日本帝国は期限である12月8日午前零時をもってアメリカ合州国に宣戦布告するという旨も伝えた。







──横須賀鎮守府──



「……大分冷え込むな」



「この季節でありますから…海沿いは特に冷え込みます」



 東京湾に位置する、帝国海軍の一大拠点である横須賀軍港。


 ここでの準備状況を確認するため、高野は訪れていた。



 ここ数日、横須賀軍港は特に忙しない。



 集結する無数の艦艇。



 動き回る工員達。


 
 正しくそれは、“戦”の準備であった。



「作業の進み具合はどうだ?」



 12月の寒風に身を震わせながら、高野は案内役の橋本優香はしもとゆうか中将に聞いた。



 橋本中将はここ横須賀軍港に集結した艦艇の半分──第四艦隊を指揮する役目を担う艦隊司令官である。



「はい、物資の搬入も殆ど終わり兵装の点検、改修も完了致しました。全工程の九割は完了しております」



「そうか…順調に進んでいるようで何よりだ」



「あの…総長」



「なんだ?」



「先程総長がお持ちになった司令書を拝見致しましたが、その…大丈夫なのでしょうか?これだけの戦力を南西方面に展開させてしまって」



 現在横須賀に集結する戦力は、共和国海軍だった頃の主力艦艇ばかりであり、その数は戦艦6空母7を基幹に巡洋艦、護衛艦、駆逐艦、その他小艦艇合計40隻であった。



「確かに台湾、シンガポールの速やかな占領は重要です。しかし、これでは米太平洋艦隊を撃滅する決戦部隊の戦力が足りないのでは…?」



 不安気な橋本の問いに、高野は笑みを浮かべながら答えた。



「そういえば、君はまだ知らないんだったな」



「と、言うと…?」



「他言無用だ。米太平洋艦隊撃滅を担う艦隊は、その大半が秘密裏に建造された新造艦によって構成される」



「新造艦…でありますか…!?」



 橋本が驚くのにも無理はない。



 共和国時代の海軍は軍備を疎かにする一方であり、主力艦艇も20年以上前に建造されたものを無理矢理な近代化改修したものや、他国から購入した中古艦ばかりであった。



「いつの間にそんなものを…して、その艦隊は今何処に…?」



「択捉島の単冠湾ひとかっぷわんだ」



「択捉島…?あそこに大きな港は無かったと思うのですが」



「何年も前から密かに工事は進んでいたんだ。まぁ当時の上層部は知らなかったがね。工事が完了した今では一大軍港だ」



 得意気な高野の表情に、橋本は感嘆の息を漏らした。



「…帝国海軍は、一体どれだけの秘密を隠しているのです?」



 橋本のその問いに、高野は人差し指を口元に当ててわざと子供っぽく微笑んだ。



「それはヒミツ、だ」













──択捉島単冠湾──



 その夜、この港を出港する艦隊があった。



 しかし艦隊は灯りを一切点けておらずその全貌を把握することは不可能。



 まるで宵闇に溶けるかのように艦隊は沖へ消えて行く。



 実に静かな夜であったが、それは戦いの火蓋が切られた瞬間でもあった。











 そして、運命の12月8日。



 ついに米国政府からの返答は無く、日本帝国大使館は宣戦布告書をホワイトハウスに突き付けた。



 この事はリアルタイムで世界中に大々的に報じられることとなった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

“いつまでも一緒”の鎖、貴方にお返しいたします

ファンタジー
男爵令嬢エリナ・ブランシュは、幼馴染であるマルグリット・シャンテリィの引き立て役だった。 マルグリットに婚約が決まり開放されると思ったのも束の間、彼女は婚約者であるティオ・ソルベに、家へ迎え入れてくれないかというお願いをする。 それをティオに承諾されたエリナは、冷酷な手段をとることを決意し……。 ※複数のサイトに投稿しております。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

竜華族の愛に囚われて

澤谷弥(さわたに わたる)
キャラ文芸
近代化が進む中、竜華族が竜結界を築き魑魅魍魎から守る世界。 五芒星の中心に朝廷を据え、木竜、火竜、土竜、金竜、水竜という五柱が結界を維持し続けている。 これらの竜を世話する役割を担う一族が竜華族である。 赤沼泉美は、異能を持たない竜華族であるため、赤沼伯爵家で虐げられ、女中以下の生活を送っていた。 新月の夜、異能の暴走で苦しむ姉、百合を助けるため、母、雅代の命令で月光草を求めて竜尾山に入ったが、魔魅に襲われ絶体絶命。しかし、火宮公爵子息の臣哉に救われた。 そんな泉美が気になる臣哉は、彼女の出自について調べ始めるのだが――。 ※某サイトの短編コン用に書いたやつ。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...