千景くんは魔法使い!?

笠原零

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千景くんのとなり

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「今日はLHRの時間を使って席替えをします!」

 翌日の学校は、先生のそんな一言からはじまった。席替えはどこのクラスも学期が変わるごとにやっているけど、うちはまだ行われていなかった。

「席替えだって! やばい、ドキドキしてきた!」
「俺、絶対に窓際がいい!」

 クラスメイトが浮き足立ってる中、私はちらりと千景くんのことを見た。猫の名前が決まったことを報告しようと思ったけど、学校で声をかけていいのかわからなくて結局まだ話せていない。

「ねえ、千景くんの隣になったらどうする?」
「えー毎日黒板じゃなくて隣ばっかり見る!」

 クラスの大半の女子が、千景くんに好意を持っている。みんな彼の隣を狙っているみたいで、両手を合わせて祈ってる人もいた。

 ……千景くん、モテモテだな。でも、その気持ちが私にもわかる。千景くんの隣になれたら嬉しいけど、席替えはくじ引きだし、せめて一番前の席だけにはならないように願おう。

 そうして、次々とくじは引かれていき、千景くんの番になった。黒板に書かれた座席表。彼が名前を書き込んだのは、30番の席だった。わあ、窓際の一番後ろなんて、千景くん、運がいい!

 30番ってことは、25番を引けば隣になれるということ。女子たちの目の色が、わかりやすく変わっていた。

 そして、私の順番がやってきた。

 千景くんの隣、なんて贅沢は言わないから、せめて後ろのほうでお願いします、神様!

「……え」
 
 教卓に置かれた箱に手を入れて引いた番号は、16番だった。そこは、よりにもよって先生と近い真ん中の列の一番前。

 ……うう、なんで私って、こんなにツイてないんだろう。 

 ガクッと落ち込んだまま、黒板の座席表に名前を書き込む。そのあと引いたくじを先生に返すと、なぜか「ん?」と首を傾げられた。

「遠山、座席表とくじに書かれた番号が違うぞ」 
「え、そんなはずは……」

 改めてくじの番号を確認すると、紙に書かれていたのは16番ではなく、25番だった。

 え、ど、どういうこと?

 頭にたくさんのハテナマークが浮かんでいたけど、先生に促されるまま、25番の席に自分の名前を書き込んだ。

「うわー、千景くんの隣、遠山さんに取られた!」 
「ずるーい! いいな~」 

 あちこちで、ガッカリした声が飛び交っている。千景くんの隣になれて嬉しいけど、私が引いたのは間違いなく16番だったはず。……これって、もしかして?

 すべてのくじが引き終わると、一斉に机の移動がはじまった。私も窓際の一番後ろに移動すると、すでに千景くんが隣に座っていた。すぐに腰を下ろした私は、カバンからノートを取り出した。

 〝魔法を使った?〟

 書いた文字を千景くんのほうに傾けたら、少しだけ口角が上がった。

「さあ、どうかな」

 うまくはぐらかされちゃったけど、私には使ったんだってわかった。今日から千景くんが、隣の席。ドキドキしすぎて、授業に集中できないかもしれない……。

「遠山さん」

 RHRが終わった休み時間。声をかけてくれたのは桃園さんだった。昨日あんな態度を取ってしまったにも拘わらず、彼女は全然気にしてないみたいだった。

「遠山さんってくじ運いいんだね! 私なんて廊下側の前から二番目だよ。すっごく微妙じゃない?」
「え、あ、そう、かな」
「私も後ろがいいから代わってほしいなー」

 これは、桃園さんも千景くんの隣がよかったという意味だろうか。なんて答えたらいいのかわからずに戸惑っていたら、桃園さんが言葉を付け足した。

「宮間は前もいい席だったんだから、まじで私と代わって。それで、私が遠山さんの隣になる!」

 へ? 私じゃなくて、千景くんと?

「やだよ。前だと授業中に寝られなくなるし」
「なんで寝てるのに成績いいわけ? 不公平じゃない?」
「さあ。地頭の違い?」
「うわー。遠山さん、今の聞いた?」

 ふたりのやり取りに、私はきょとんとした。桃園さんと千景くんが話しているところを初めて聞いたけど、なんだかすごく仲良しに見える。女子に素っ気ない千景くんも、桃園さんには心を許しているように感じた。

「俺たち、同じ小学校だったんだ」

 疑問が顔に出ていたのか、千景くんが優しく教えてくれた。

「そうそう。宮間とは同小出身なの。だから、変な心配はしないでね」
「し、心配ってそんな……」 
「あ、今日の部活のことだけど、三年生は受験勉強でほとんどいないらしいから、たくさんコート使って練習しようよ」 
「え、でも、私……」
「迷惑かもしれないけど、私が遠山さんと一緒にやりたいんだ。ダメかな?」

 そう聞かれて、私は全力で首を横に振った。

「よかった。じゃあ、放課後よろしくね」

 桃園さんが自分の席に戻ると、すぐさま友達が駆け寄っていた。桃園さんには、たくさんの友達がいる。それなのに、私なんかでいいんだろうか。部活だって、桃園さんと一緒にやりたい子がたくさんいるはずなのに……。

「俺が言うのも変だけど、桃園はいいやつだよ。小学校の時からあんな感じだし、裏表もないから付き合いやすいと思う」

 千景くんが言うのなら、本当にそうなんだろう。桃園さんみたいな子と友達になれたら、きっと学校が楽しくなる。だけど、私のことを気にかけてくれるのは、桃園さんが優しいからで、そこに甘えてはいけない。

 友達になりたいなんて言ったら……桃園さんを困らせてしまう。
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