千景くんは魔法使い!?

笠原零

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千景くんのこころ

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 翌日、学校では初日の中間テストが行われた。テストは九科目を三日間に分けて実施されるため、その間は部活もなくて、早く帰ることができる。

「ゆづ、おつかれー。あと二日頑張ろうね!」

 桃ちゃんは彼氏とデートの約束をしているそうで、可愛いリップを塗って早々に帰っていった。私はとくに予定がないのでゆっくり帰り支度をしていると、千景くんに声をかけられた。

「結月、今日このあと時間ある?」
「え、う、うん。あるよ、すっごく暇!」
「ははっ。じゃあ、これからうちに来ない?」 
「……へ?」

 予想外の誘いに、間抜けな声が出てしまった。

「母さんがこの前のお礼も兼ねて夕ごはんをご馳走したいって言ってるんだ。ほら、俺のことコンビニから一緒に運んでくれたから」 
「嬉しいけど、お礼なんて気にしなくていいのに」
「うん、でもしたいんだって。だから俺の家でテスト勉強して、夕ごはん食べて帰らない?っていう誘いなんだけど」

 千景くんは、照れたように頬を掻いていた。こんな顔を見せられたら、私の返事はひとつしかない。

「ぜ、ぜひ、よろしくお願いします!」

 まさかのサプライズに、テスト疲れが一気に吹き飛んでしまった。

 *

 そして、私は千景くんの家に着いた。彼のお母さんはパート中で夕方に帰ってくるそうだ。

「結月の家にも連絡いれた?」 
「うん。さっきした。お母さんが、千景くんのお母さんによろしくって伝えてって」
「俺も母さんから伝言。結月ちゃんは、和、洋、中でどれが一番好きですか?だって」
「えっ、なんでも好き!」
「なんでもは逆に困るからダメ」
「それなら中華かな。とくに辛いものがけっこう好きなの」 
「あ、俺も好き」

 千景くんは辛いものが好きって言っただけなのに、ふいに出てきた〝好き〟にきゅんっとしていた。

「母さんにメッセージの返信しといた。じゃあ、さっそく勉強しようか」

 勉強場所は、もちろん千景くんの部屋だ。この前入ったから大丈夫だと思っていたのに、私は二回目でもドキドキしていた。

 テスト勉強は、国語と数学をやることにした。部屋の真ん中に置かれたテーブルを挟んで、私たちは向かい合わせになる。静かな空間で勉強するのは当たり前のことなのに、私は呼吸さえうまくできない。 

「結月、どうしたの?」
「わ、私の……」 
「うん」
「私の心臓の音、うるさくないですか?」
「え?」 

 千景くんが、きょとんとした。私ってば、変なことを……!

「じゃあ、俺の心臓の音は結月に聞こえてる?」
「う、ううん。なにも聞こえないよ」
「じゃあ、問題ないよ。俺だって相当うるさいからさ」
「……っ」

 どうしよう。そんなことを言われたら……ますます心臓のコントロールが効かなくなってしまう。

 明日のテストが悲惨な結果にならないように、私は頑張って勉強に集中した。一通りの範囲が終わる頃、千景くんのお母さんが呼びに来てくれた。時計を気にしてなかったから気づかなかったけど、いつの間にか夕方になっていた。

「結月ちゃん、今日は来てくれてありがとうね」
「いえ、こちらこそありがとうございます。先にお邪魔してたのに挨拶しなくてごめんなさい」
「ふふ、いいのよ。さあ、座って」

 ダイニングテーブルには、私の希望どおり中華料理が並んでいた。餃子やエビチリ、麻婆豆腐に、たまごスープまで。

「千景はお箸用意して。あ、お父さんのぶんはまだいいわ。仕事で遅くなるみたいだから」
「わかった」 
「結月ちゃんは、ご飯どのくらいよそう?」
「あ、自分でします!」
「いいのよ、結月ちゃんはお客さんなんだから」

 箸の用意をして、私の隣に座った千景くんは「母さん、ものすごく張り切ったみたい。普段より二品は多い」と、こっそり教えてくれた。

「……私、お手伝いしなくてよかったのかな?」 
「大丈夫だよ。母さんは料理を作るの好きだし、今だってほら。いっぱい作れて鼻歌うたってる」 

 たしかに、千景くんのお母さんは、とてもご機嫌だった。作ってくれた料理はどれもすごく美味しくて、ご飯を二杯もおかわりした。さらにデザートの杏仁豆腐は、ほっぺが落ちるほど絶品で、あとで家でも作れるようにレシピを教えてもらった。

「結月がたくさん食べてくれて、母さんも嬉しかったみたいだよ」 

 その帰り道。家の近くまで送ってくれるという千景くんと、外灯の下を歩いていた。

「私も嬉しかった。それと勉強もたくさん教えてくれてありがとう。おかげで明日のテストもなんとかできそうだよ」
「結月の役に立てたなら、よかった」
「あ、千景くんさえよかったら、今度はうちに来て」
「え?」
「ちっちも、千景くんに会いたいと思うし」
「ちっち、だけ?」

 すると、千景くんが足を止めた。

「俺、自分の部屋に女の子を入れたの結月が初めてなんだ。この前とは違って、今日はちゃんと自分で呼んだ。それがどういう意味かわかる?」
「……え?」 
「俺は結月のこと――」 

 千景くんがなにかを言いかけた瞬間、自転車のベルを鳴らされた。 相手はスピードを出していて、危うくぶつかりそうになったけど、千景くんが私の手を引いてくれたおかげで、なんとか大丈夫だった。

「平気?」 
「あ、う、うん。ありがとう……」

 自分のおでこが、千景くんの胸に当たっている。なんで千景くんって、こんなにいい匂いがするんだろう。思わず甘い匂いにクラクラしちゃって、肩にかけていたスクールバッグを落としてしまった。

「待って。拾ってあげる」

 まるで王子様みたいに、千景くんがしゃがみこむ。

 千景くんはさっき、なにを言いかけたんだろう。自惚れちゃいけないってわかっていても、私と同じ気持ちなんじゃないかって、少し期待してしまう。

「これって……」

 千景くんが、なにかを見つけた。それはカバンを落とした拍子に、外ポケットから出てしまったらしい真田くんの生徒手帳だった。

「あ、それね、真田くんのなの」
「なんで結月が真田の生徒手帳を持ってるの?」 
「この前、河川敷で会って少しだけ話したんだ」 
「ふたりで?」
「話したのはふたりだったけど、真田くんの弟くんも近くにいたよ。あ、その友達も」
「なにを話したの?」
「えっと……」

 私はその質問に、口ごもった。真田くんが千景くんのことを恨んでいるんじゃなくて、待っていることを教えてたい。でも、それは私の口から言うべきじゃないし、真田くんとの約束でもある。

「い、色々なこと」
「色々って?」
「せ、世間話とか、かな」
「なんで結月が真田と世間話するんだよ。この前、怖い目に遭ったの忘れた?」 
「あ、でも、真田くんは思ってたよりいい人っていうか、私が見た目で判断してた部分があって……」
「真田の中身がわかるくらい仲良くなったってこと?」
「そういうわけじゃ……」 

 あれ、なんか千景くん怒ってる?

 そのあと家まで送ってくれたけど、さっきまでの甘い会話はなく、千景くんはずっと無言だった。
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