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千景くんのまほう
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忙しかった年末が終わって、新しい年を迎えた。お年玉で買ったお仕立てのマフラーをつけて駅まで急ぐと、すでに千景くんが待っていてくれた。
改札口から出てくる女子たちが、チラチラと千景くんのことを見ている。そうだよね、見るよね。だって、カッコいいもん。
私は柱の裏に身を隠して、手鏡を確認した。前髪よし。ニキビもなし。洋服は、桃ちゃんに選んでもらったから間違いないはず。最終チェックを終えて千景くんに声をかけると、スマホに向いていた視線がこっちに向いた。
「結月」
優しい笑顔に、胸がきゅんっとなる。今日は千景くんから映画に行こうと誘ってくれた。
「なんか今日の結月、いつもと違うね」
千景くんが、私の顔を覗き込む。実は桃ちゃんにアドバイスをもらって、今日は少しだけメイクをした。といっても、ほんのりリップを付けてるだけなのに、すぐに気づいちゃうなんてすごい。
「へ、変だよね?」
「ううん、可愛いよ」
「ち、千景くんも変わらずにカッコいいです」
「はは、ありがと。そろそろ電車が来るから急ごうか」
千景くんは、なんの躊躇いもなく私の手を握ってくれた。
電車に乗って映画館に向かい、そこから二時間ほど小説が原作になっている青春恋愛映画を観た。今までは自分に恋愛経験がないからか、ラブストーリーに感情移入できないタイプだった。
だけど、今回はひたむきに好きな人を支えるヒロインに共感しまくりで、エンドロールのあとにすぐ立てないほど、ぐずぐずに泣いてしまった。
「うう、こんなに泣いちゃって本当にごめんね」
「謝る必要なんてないよ。俺も感動した」
「ヒーローが優勝したら彼女になってって言ったところなんて、私、倒れちゃいそうだった」
「バスケの試合のシーンもけっこう胸が熱くなった」
「わかる! 部活って本当に青春だよね!」
お互いに映画の感想がとまらない。私も冬休みの平日はほとんど部活で、大会に出られるように頑張って練習している。
最初はバド部に入らなきゃよかったって何回も思ったけど、今は桃ちゃんを通じて部活の友達もできたし、今度みんなでタコパをしようという約束もしている。
「考えてみれば部活って、今だけのものなんだよな……」
千景くんが、ぽつりと呟いた。自分の過去と向き合うと言っていた千景くんだけど、まだ真田くんとは話していないようだ。きっとタイミングを探しているんだと思う。
「よし、昼ごはん食べにいこう。結月が好きそうな店を見つけておいたんだ!」
気持ちを切り替えるようにして、再び千景くんが私の手を引いた。
彼が案内してくれたのは、リスの小部屋というカフェ。木造造りの店内は本当にリスたちの家みたいになっていて、テーブルは切り株、椅子は丸太だった。さらに各テーブルには、名前つきのリスの置物まで飾られていた。
「なにここ、すっごく可愛い……!!」
「気に入った?」
「うん! あ、私たちのテーブルにいるリスはユカちゃんだって」
「じゃあ、俺と結月だ」
「……?」
「結月の〝ゆ〟と、千景の〝か〟」
「わあ、本当だね!」
カフェにはどんぐりの形をしたメニュー表があった。お互いに季節の夏野菜カレーを食べたあと、デザートにマロンパンケーキとパフェを注文した。
「んん~! ふわふわで美味しい!」
「パフェもうまいよ。食べる?」
「えっ、いいの? じゃあ、私のパンケーキもあげるね!」
好きな人とデザートをシェアできるなんて、幸せすぎる……。そしてカフェを出たあとは電車で地元に戻って、少しだけさんぽをすることにした。
「素敵なお店を見つけてくれて本当にありがとう。パン屋さんもそうだけど、千景くんって可愛いものが好きだよね」
「可愛いものっていうより、動物は好きだよ。小さい時はよく動物図鑑を見て過ごすことが多かったから」
「……小さい頃は体が弱かったって、前に千景くんのお母さんから聞いたよ」
「うん。今は問題ないけど、昔は呼吸器系が弱かったんだ。体質で仕方ないことだったけど、あのまま家の中にいるだけの生活をしてたら、俺はずっとひとりだったかもしれない」
千景くんは孤独を知っている。もしかしたら、そういう寂しさを経験していたからこそ、私のことも気にかけてくれたのかなって、今となっては思ったりもする。
「大丈夫。千景くんはひとりにならない。私がいるもん……!」
気持ちを込めすぎて、つい声を張ってしまった。
「ありがとう。今日はもうひとつだけ結月と一緒に行きたいところがあるんだけど、付き合ってくれる?」
改札口から出てくる女子たちが、チラチラと千景くんのことを見ている。そうだよね、見るよね。だって、カッコいいもん。
私は柱の裏に身を隠して、手鏡を確認した。前髪よし。ニキビもなし。洋服は、桃ちゃんに選んでもらったから間違いないはず。最終チェックを終えて千景くんに声をかけると、スマホに向いていた視線がこっちに向いた。
「結月」
優しい笑顔に、胸がきゅんっとなる。今日は千景くんから映画に行こうと誘ってくれた。
「なんか今日の結月、いつもと違うね」
千景くんが、私の顔を覗き込む。実は桃ちゃんにアドバイスをもらって、今日は少しだけメイクをした。といっても、ほんのりリップを付けてるだけなのに、すぐに気づいちゃうなんてすごい。
「へ、変だよね?」
「ううん、可愛いよ」
「ち、千景くんも変わらずにカッコいいです」
「はは、ありがと。そろそろ電車が来るから急ごうか」
千景くんは、なんの躊躇いもなく私の手を握ってくれた。
電車に乗って映画館に向かい、そこから二時間ほど小説が原作になっている青春恋愛映画を観た。今までは自分に恋愛経験がないからか、ラブストーリーに感情移入できないタイプだった。
だけど、今回はひたむきに好きな人を支えるヒロインに共感しまくりで、エンドロールのあとにすぐ立てないほど、ぐずぐずに泣いてしまった。
「うう、こんなに泣いちゃって本当にごめんね」
「謝る必要なんてないよ。俺も感動した」
「ヒーローが優勝したら彼女になってって言ったところなんて、私、倒れちゃいそうだった」
「バスケの試合のシーンもけっこう胸が熱くなった」
「わかる! 部活って本当に青春だよね!」
お互いに映画の感想がとまらない。私も冬休みの平日はほとんど部活で、大会に出られるように頑張って練習している。
最初はバド部に入らなきゃよかったって何回も思ったけど、今は桃ちゃんを通じて部活の友達もできたし、今度みんなでタコパをしようという約束もしている。
「考えてみれば部活って、今だけのものなんだよな……」
千景くんが、ぽつりと呟いた。自分の過去と向き合うと言っていた千景くんだけど、まだ真田くんとは話していないようだ。きっとタイミングを探しているんだと思う。
「よし、昼ごはん食べにいこう。結月が好きそうな店を見つけておいたんだ!」
気持ちを切り替えるようにして、再び千景くんが私の手を引いた。
彼が案内してくれたのは、リスの小部屋というカフェ。木造造りの店内は本当にリスたちの家みたいになっていて、テーブルは切り株、椅子は丸太だった。さらに各テーブルには、名前つきのリスの置物まで飾られていた。
「なにここ、すっごく可愛い……!!」
「気に入った?」
「うん! あ、私たちのテーブルにいるリスはユカちゃんだって」
「じゃあ、俺と結月だ」
「……?」
「結月の〝ゆ〟と、千景の〝か〟」
「わあ、本当だね!」
カフェにはどんぐりの形をしたメニュー表があった。お互いに季節の夏野菜カレーを食べたあと、デザートにマロンパンケーキとパフェを注文した。
「んん~! ふわふわで美味しい!」
「パフェもうまいよ。食べる?」
「えっ、いいの? じゃあ、私のパンケーキもあげるね!」
好きな人とデザートをシェアできるなんて、幸せすぎる……。そしてカフェを出たあとは電車で地元に戻って、少しだけさんぽをすることにした。
「素敵なお店を見つけてくれて本当にありがとう。パン屋さんもそうだけど、千景くんって可愛いものが好きだよね」
「可愛いものっていうより、動物は好きだよ。小さい時はよく動物図鑑を見て過ごすことが多かったから」
「……小さい頃は体が弱かったって、前に千景くんのお母さんから聞いたよ」
「うん。今は問題ないけど、昔は呼吸器系が弱かったんだ。体質で仕方ないことだったけど、あのまま家の中にいるだけの生活をしてたら、俺はずっとひとりだったかもしれない」
千景くんは孤独を知っている。もしかしたら、そういう寂しさを経験していたからこそ、私のことも気にかけてくれたのかなって、今となっては思ったりもする。
「大丈夫。千景くんはひとりにならない。私がいるもん……!」
気持ちを込めすぎて、つい声を張ってしまった。
「ありがとう。今日はもうひとつだけ結月と一緒に行きたいところがあるんだけど、付き合ってくれる?」
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