悪役令嬢は謝罪したい

ぽんかん

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悪役令嬢と親バカ

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   考え事をしている間に、屋敷に着いた。御者にドアを開けてもらい馬車を降りると、何かが迫ってくるのが見えた。


  (なっ、何!!?)




   それは、何か奇声を発しながら迫ってくる。



  (ま、魔物!?いやいや、この世界は魔法は存在するけど、魔物は存在しないはず…)



「~~~っ、~~!!」


   だんだん何を言ってるか、分かるようになってくる。というか、あれって…


「~~セ~~!!!」


   あの、奇声のような叫び声を上げながら近付いてくるのって…


「セリア~~~~~!!!!」


   私のお父様でした。



「お、お父様!お仕事はどうなされたのですか!?」


「そんなもの、セリアが目を覚ましたと聞いて放り出してきたよ!!当たり前だろう!!!」


「お父様……」


   仕事はちゃんとして下さい……。



   そう、この目の前にいるのが私セリア・モーガスの父ロアル・モーガスだ。少し長めのプラチナブロンドに真紅の瞳、30代前半とは思えない美貌とは裏腹に、とんでもない親バカの残念イケメン。
   まあ、娘の私の前以外では、しっかりと公爵家当主として振舞っているみたいだけど…。



「お父様…、心配して下さるのはとても嬉しいのですが、お仕事はしっかりなさって下さい。周りの方々も困ってしまうでしょう?」



   まったく、いくら何でもやり過ぎよ……。





「……セリア、どうしたんだい?いつもなら喜んで、むしろ仕事に行かないでと可愛くおねだりするのに」



  
   ………そうでした。



   私は、何かに付けてはお父様に仕事を休んでもらうよう我儘を言いまくっていたんだった。お父様もお父様で、娘に甘々だから、いいよの一言で仕事を休んで一緒にいてくれていた。



  (お父様、それはおねだりではなくただの我儘と言うのですよ……)


   大体、そんな簡単に休めるものじゃないでしょう、仕事って。どうなってるの貴族世界…。



   
   つい乙女ゲームに引っ張られて、メインキャラばかりに気が言ってたけど、他にも謝らなきゃいけない人は沢山いるんだった。お父様の他にも使用人の人達にも迷惑掛けまくってるし…。


   本当に、勘弁してよセリアさん……。



「お父様、今まで私の我儘で一緒にいてくれてありがとう。無理にお仕事を休ませてしまって、本当にごめんなさい…。これからは言わないから、安心してお仕事に集中して下さい」








   この時のお父様の、この世の終わりみたいな顔は一生忘れないだろう……








「……なっ、…なっ……、なにっ、」   


「お、お父様!?お顔が大変な事になっていますわ!!?」


「セ、セセセセリア!!!」


「は、はい!?」



   な、なになに!?どうしたの!?凄い顔で迫ってくるんだけど!!






「お父様の事が嫌いになったのかい!!!???」




   

   ……は!?どういう事!!?なんでそーなった!謝っただけでしょ!?


「お父様落ち着いてください!私がお父様を嫌いになるだなんて、とんでもない!そのような事ある訳がないでしょう?」



   どうやったらその結論にたどり着くんだ。



「だ、だってだって!!もう一緒にいなくていいって!!」


   
   ……そんな事は一言も言っていない。



「…お父様、一緒にいなくていいなんて言っていませんわ。お仕事を無理に休んだりしないでくださいと言ったのです」


「おねだりしてくれないって!!」



「……お父様、今までの私のあれはおねだりじゃなくて、我儘と言うんです」



「仕事に行けって!!!」



「………それは当たり前の事です」




   何か思ってた反応と違う…。
   お父様は、私が思ってたよりも大分親バカを拗らせていたみたいだ。



「セリア、本当にどうしたんだい?いつもと様子が違うけど…」



   そりゃそうだよね…今まで我儘放題だった娘が、倒れて目が覚めたら急に謝ってくるんだから。




「お父様、私1週間寝込んで目が覚めましたの。今までの我儘で傍若無人な態度を改めなければいけないと、迷惑を掛けた方々に謝らなければいけないと…」


「セリア……」



「私、すっかり改心致しましたわ。まずは、周りの方々に謝罪して、しっかりとお勉強もして、立派な公爵令嬢になります!」


   そして、行く行くは断罪も回避してみせます!!




「………」


   あ、あれ?返事が帰ってこない。
   流石にこんな急に変わったら怪しまれたかな…。




「セリア~~~っっ!!」


「なっ!!お父様!?どうして泣いていらっしゃるのですか!!?」



   急に泣きながら抱きしめられた。


「セリア、本当に急にどうしたんだい…。成長してくれて嬉しいけど、悲しいような複雑な気持ちだよお父様は……、そんなに無理に大人になろうとしなくてもいいんだよ?」


「…無理なんてしていませんわ。私だってもう15、本当ならもっとしっかりとしていなければいけないのに、お父様に甘えてばかりですもの」


「私としては、もっともっと甘えてくれていいんだよ……」


「ふふっ、もう充分甘え過ぎなくらいに甘えていますわ」



   泣きながら私を抱きしめてくるお父様が、なんだかちょっと可愛いなと思ってしまう。
   まあ、何だかんだ言いながらも、このウザすぎるくらいに私を大切にして、甘やかしてくれて、愛情を注いでくれるお父様が結局は私も大好きなんだなと実感する。


「お父様はもっと、私に厳しくして下さい。でないと、私ダメダメな人間になってしまいますわ」


「セリアに厳しくするなんて無理だよ~~」


「ふふっ、そう言うだろうと思いましたわ…」


   まったく、とことん娘に甘くて弱いんだから…。





「…でもね、セリア」


   お父様が体を話して急に真剣な顔になった。


「私は、決して無理をして一緒にいた訳ではないんだよ?確かに、まあ…仕事を急に休むのは良くなかったかもしれないが…。でも、私がセリアと一緒にいたいと思ったから、いたんだよ?セリアに言われて仕方なくとかではないよ?」

 
「お父様……」



   急に真剣な顔になったと思ったら…、本当に心配性だなぁ。ちゃんと、分かってるのに。


「分かっていますわ。お父様が、私の事をとても大切に思って下さっている事は。お父様のお陰で、私は寂しい思いをせずにいられますもの」


「セリア…」


「……もちろん、私だって同じくらい、お父様の事を大切に思っていますのよ?」



   恥ずかしいけど、これくらいは言っておかないとまたお父様は悩みだしそうだし…。




「ーーっっ、セリア~~~!!!!」


「きゃあ!!?」


   また泣きながら急に抱きしめられた。
   お父様、スキンシップが多くないですか…。


「セリア、セリアセリア~~!!」


「お、お父様!苦しいですわ!!」


「お父様もセリアが大好き過ぎて苦しいよ~!!」



   何を言ってるんだ、この親バカは!!本当に苦しいから早く離して下さい!!


「お父様!私一応病み上がりですのよ!!」


   何を今更感はあるけど、まあ事実だしね…。
   

   

   すると、急にお父様は離れたかと思うとガッと肩を掴んできた。


「そうだ!そうだよ!セリアは病み上がりなんだよ!屋敷を抜け出して、一体今まで何処に行っていたんだい!?」


   ……しまった、墓穴を掘った。


   お父様は過保護だから、病み上がりの私が外に出ただなんて知ったら煩いと思って、誰にも見つからないようにこっそり抜け出して、御者に口止めまでしたのに…。こんなに早く見つかるだなんて想定外だ。


「まったく、君達もちゃんとセリアを見ていないと駄目だろう」


   そう言って、お父様は後ろに控えていた使用人達を咎める。
   これは流石に申し訳なさすぎる、私が勝手に抜け出したのに。



「お父様、どうか皆さんを責めないで下さい。私が勝手にした事です。御者の方にも私が無理をいって馬車を出してもらったんです」



   そう言うと、周りにいた使用人達や御者は口をあんぐりと開けて驚いていた。
   セリアが、自分の非を認めて使用人を庇うだなんて…と、さぞかし驚いているんだろう。



  (この反応にも慣れてきたわ……)


   これから何かする度にこの反応が返ってくるんだなと思うと、少し気が重くなる。


「セリア…、本当に成長したね…。お父様感激だよ」



   と涙を浮かばせながら言うお父様にちょっとだけ、イラッとしてしまう。
   

   分かってる。15歳にもなって素直に謝れないセリアが100%悪いのは分かっているけど、お父様ももう少しダメな事はダメとセリアに注意して欲しかった。そうしたらこんなに苦労しなかったのに、と思ってしまう。


「それで、セリア。一体何処に行っていたんだい?」


「え?あっ、お城ですわ。少し殿下にお会いしていました」


   まあ、実際はリカルド王子とリリアさんに頭下げて来たんだけれど、そこまで詳しく教えなくても大丈夫でしょ。




「………ああ、殿下かい。あの、セリアが倒れても物だけ送って、見舞いには来もしない殿下の所ね…」


   お父様は急に真顔になって、恨み言のように呟き出した。
   娘大好きなお父様としては許せないんだろうけど、いくら公爵家当主でも、一国の王子にその発言は不敬罪と問われてもおかしくないよ……。


「ま、まあまあ、お父様。殿下もお忙しい方ですから仕方がないですわ。」


   本当は嫌われているんだけど…。







「……セリアは本当に殿下が好きなんだね…」


「!!?っは、はい!!?」


   き、急に何を言ってるんだこの親バカは!!!?



「あんな、見舞いに来もしない、セリアの魅力に気付きもしない奴を、庇うだなんて…」


「お、お父様、奴は流石に失礼ですわ…」


「しかも、目が覚めた途端殿下に会いに行くだなんて…」


「そ、それは…」


   事情があるのに!
   でも、公爵令嬢が土下座する勢いで謝罪してきました、なんて流石に言えない…。


「そこまで殿下が好きだったんだね…」


「ち、違っ!!」


   違わないけど!そうだけど!!自覚した途端に言わないでほしい!!!
   今までのセリアは、リカルド王子大好きだったんだから別に変じゃないのに、どうにも認めづらい…。



「と、とにかく、殿下の事は気にしないで下さい!!!」



   そう言って、私は令嬢らしからぬ走り方で自分の部屋に逃げた。



   

   何だか私、走ってばかりじゃない……?






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