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悪役令嬢は困惑する
しおりを挟む「う、嘘でしょ………」
私は手紙を握りしめて、項垂れるしかなかった。
あの後、部屋に駆け込んだ私はなんとか気持ちを落ち着かせた。
お父様にはきちんと仕事に戻ってもらい(当の本人は今日はもう休むと駄々を捏ねていたけど…)、普段私の身の回りの世話をしてくれている侍女の方々や、執事の人達に、シェフや庭師の方などとにかく迷惑を掛けた人達に謝りまくった。
皆一様に目を見開いて驚いた後、まだ具合が悪いのかと心配してきたが、なんとか分かってもらい謝罪を受け入れて貰えた。まだ信じられないといった人もいたけど、2.3日と過ごしていくうちに皆信じてくれるようになっていった。
そこまでは、本当に良かったのだけど……。
「なんでこうなるの……」
あれから3日が経っていた。
この世界にも少しずつ慣れてきて、使用人の皆とも距離が縮まってきた矢先にこれだ……。
「セリア様…?」
声を掛けてきたのは、この手紙を届けてくれた私専属の侍女のリル。
私が5歳の時から専属侍女として色々身の回りの事をしてくれている。仕事は出来るんだけど、どこか抜けているところがあって、歳は24なのに時々年下なんじゃないかと思ってしまう時がある。
私がお母様を亡くした時もずっと傍にいてくれて、我儘放題の時も見捨てずにいてくれた大切な存在だ。
私が謝った時も、「そんな、謝らないで下さい!私はセリア様が大好きで、とっても大切な御方だと思っているんです!お傍でお仕えできるだけで、幸せです!!」と天使のような笑顔で言ってくれた。
(実は第2のヒロインとかだったりするんじゃ…)
「セリア様、どうされましたか…?」
「っ!ご、ごめんなさい、何でもないわ」
そうだった、今はそれ所じゃない。
問題は、この手紙。見た時は卒倒するかと思った。まさか、まさか…
「それにしても、殿下がいらっしゃるなんて珍しいですね」
ーーーそう。そうなの!!リカルド王子が来るの!!ここに!!!
今朝急に手紙が来て慌てて準備して今に至るんだけど。
本当に急になんなの!やっぱりこの間の急に帰った事を怒ってるの!?確かにあれはちょっと失礼だったかもしれないけど…。
改めて謝りに行かなきゃとは思ってたんだけど、気まずくてつい後回しにしてしまった。
(さっさと行かないからバチが当たったのかな…)
正直、落ち着いたとはいえ気持ちはまだ整理がついていないし、あまり会いたくはない……。
「大体、今までろくに会いにも来ないで、セリア様が倒れてしまった時もお見舞いにも来なかったくせに、今更何の用なんですかね!!」
……何だか最近、リルがお父様に似てきている気がするのだけど。
「まあまあ、殿下はお忙しいのだから、仕方が無いわ。それに、今まで私は散々殿下に付きまとっていたんだもの、来たくなくなるのも当たり前だわ」
私がリカルド王子に付きまとっていた事は恥ずかしながら有名な話で、貴族は勿論、使用人にも知られている。
「ですが!それもセリア様の愛ゆえです!!」
「ちょっ!!あ、愛って…」
恥ずかしすぎるからやめて欲しい…。
「セリア様に好いて頂けるだけでも羨ましいのに、それを無下にするような態度!!許せません!!!」
……リルは少し、いや大分私を過大評価し過ぎだと思う。
悪いのは私で、リカルド王子は被害者なのに…。
「リ、リル、落ち着いて?もうすぐ殿下がいらっしゃるわ、お部屋の準備をしてもらえるかしら」
「……かしこまりました。セリア様の為に!私頑張ります!!」
「え、ええ、お願いね…」
リルは少し足音を荒げて出ていった。
あの子、王子が来てもあんなあからさまな振る舞いしないよね?心配になってきた……。
「とりあえず、私ももう一度身なりを整えよう」
そう言って、鏡の前に立つ。
お母様譲りの胸元まであるさらさらの黒髪に、お父様譲りの少しつり上がった真紅の瞳。
私はどちらも気に入っているのだけど、どうにも悪役令嬢感が強い。
でも、綺麗系の顔だから少し冷たく見えるけど、やっぱりセリアって凄い美少女だ。
しかし、1つだけ残念な事に、正直胸が全然ない。少し膨らんでいるくらいで、無いに等しい。
悪役令嬢ってスタイル抜群なんじゃないの!?
それに比べて、ヒロインのリリアさん。
あの可愛らしい容姿は勿論、スタイルも抜群だった。出る所は出てて引っ込む所は引っ込んでる。
身長も私より少し高く、王子と並ぶと丁度いい。
性格も優しいし、芯があるし、セリアの子供みたいな言動にも大人の対応だった。
たった1歳の差が凄く大きく感じる。
そりゃ王子も好きになるよね……
「勝てっこないなぁ…」
思わずため息が出る。
いや、別に勝負してないけど、2人の仲はちゃんと応援するけど…。
落ち込んでいたら、部屋のドアがノックされた。
「セリア様、殿下がいらっしゃいました」
リルだ。もう?早すぎるよ…
「今行くわ」
王子に会う前に、すっかり気分が下がってしまった。
こんなんでこの先やって行けるのかな…。
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