悪役令嬢は謝罪したい

ぽんかん

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悪役令嬢は調子に乗る

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   あの後、リルには「あの男に何かされてませんか!?」とよく分からない心配をされた。
   


  (リカルド王子が何をするっていうんだ……)



   しかもついには王子をあの男呼び、リルってある意味1番強いのかも…。



   


   そして何と、その日の夜に王子から手紙が届いた。早速2日後にお城で会わないかと書いてあった。


   リリアさんの事もあるし少し悩んだけど、結局は「はい」と返事をした。







   そして2日後の今現在、私は馬車の中でうんうん唸っています。



「王子は私と会ってどうするっていうの…」




   リカルド王子だって、私といるくらいならリリアさんと勉強していたいだろうし。
   でも、王子から手紙を貰ったんだから、王子が用事あるって事でしょ?
   この前ので、もう怒ってる感じじゃないし。



   1人でブツブツ言っていると、お城に着いたみたいで御者に怪しげな目を向けられた…。


  








   お城に入ると応接間に通され、すぐに王子が来た。
   来るの早すぎでしょ…。



  (お願いだから、心の準備をさせて下さい……)








「やあ、モーガス嬢。また会えて嬉しいよ」


   だなんて、爽やか笑顔で言う王子。
   はい、社交辞令ありがとうございます。だなんて思う私は、悪役令嬢に染まってきてしまっているのだろうか。



「ご機嫌よう、殿下。私もですわ。本日はお招き頂きありがとうございます」


   そう私が応えると、殿下はさらに笑みを深くする。



   社交辞令だって分かってるのに殿下の笑顔に喜んでいる自分に心底呆れる。
    





   殿下と私はテーブルを挟んで向かい合わせに座った。
   
   お茶の準備を終えたメイドさんは勿論すぐに出ていってしまったし、以前いた側近のジュードさんは今日はどうやらいないみたいなので、完璧に2人っきりだ。
 


  (護衛とかいなくていいの!?いや、別に何もしないけど!!)




   確か、以前私が付き纏ってた時は必ず誰かいたはずだけど…。
   落ち着きなくキョロキョロとしていると、見兼ねた王子が声を掛けてきた。


「何か気になる物でもあるのかな?」


「!いっ、いえ、その、護衛の方が見当たらないようなので…」



   流石にちょっとそわそわしすぎて不自然だったかな…。



「ああ、それなら私が誰も入れないように言ったんだよ」


「えっ!!?」


   しまった顔どころか声に出ちゃった。




「ははっ、嫌だったかな?」


「いっいえ!!そんな、滅相も御座いませんですわ!!!」



   慌てすぎてよく分からない言葉遣いになってしまった…。
   王子を見ると、肩を震わせて俯いていた。どうしよう、失礼な!って怒らせた…?



   謝ろうとすると、殿下がいきなり吹き出した。それはもう盛大に、大爆笑ってやつだ。



「で、殿下……?」


「あははっ、ご、ごめん、ふふっ、」


   笑いすぎて涙が目に浮かんでいる。
   ……なんで?何がそんなに面白かったの?変な言葉遣いだったから?そこまで笑う?


   

   もう、王子が分からない…






   …ていうか。いくらなんでも笑いすぎじゃない?まだ笑ってるんだけど。




  (流石にちょっとムカッとする)




   なんだか納得がいかなくて膨れていると、ようやく笑い声が止まった。



「なんだかとても楽しそうなご様子で、良かったですわね」


   ここぞとばかりに嫌味を言ってやった。これくらいは許されるでしょっ!過去のストーカーセリア時代のお陰で嫌な言葉はスラスラ出てくるし!


「ふふっ、ごめんごめん。そんな顔をしないでくれないかな?」


「まあ、私至って普通の顔をしていますわ。それより殿下こそ、その緩みきったお顔をどうにかなされたらいかがですか」


   こうなったら引かないんだから!あんなに笑われたんだから、仕返しで言い返してやる。



「そんなに緩んだ顔をしているかい?」


  
   にこにこしながら王子が聞いてくる。
    


「ええ、とても嫌な気持ちになるくらいに緩みきっていますわ!!!」



   まったく、私こんなに笑われる様な事してないのに!



「ごめんごめん、ふふっ、モーガス嬢が可愛らしいからつい」






「……!!!?」


   いっ、今なんて!!?ま、まさか、可愛いっていった!?あのリカルド王子が私に!!?



  (なっ、なんなの!王子ってこんなキザな事言う人だったったけ!?)




   私がリカルド王子の言葉に顔を赤くしてわたわたしていると、王子が衝撃の一言を放った。







「本当に…、小動物みたいで可愛らしいね」








   ……はい!!?




「ああ、すまない、別に悪い意味ではないんだよ?本当に可愛いなと思ってね」



   リカルド王子は私があまりの衝撃に固まっている間も、よく分からない弁解をしている。



   なに、それ…。小動物って。小さいって言いたいの!?子供みたいって事!?
   確かに、リリアさんに比べたら身長は小さいけど、それでも平均位はあるし!胸は全然ないけど…。
   でも、でも、小動物って!いくらなんでも酷い!王子は私の事、女として見てないってことじゃん!!



   いや!確かにそれでいいんだけど!リリアさんと王子を応援するんだけど!でも、なんだか悔しい!!



「で、殿下は、私の事を子供扱いし過ぎですわ!!」


「え、いや、そんなつもりは…」


「でしたら、無意識にしているという事ですわね。もっと酷いですわ!」



   私が意地になって顔を逸らすと、王子は焦ったのか、私の隣へと来て慌てながら言い訳をしている。



「モーガス嬢?別に、子供とかではなくてね?ただ、雰囲気が小動物っぽくて可愛いなって…」


「また小動物っていいましたわ!!」



   この人本当に無意識なの!?わざと言ってるんじゃないでしょうね…。



   私がまた顔を逸らすと、王子はさらに慌てた様子で言い訳をしている。
   

   正直、小動物発言にはイラッとしたけど、今は珍しく完璧な王子が崩れているリカルド王子が可愛らしくて、ちょっと楽しんでしまっている。






   その時、私の頭に何かが乗っかった。
   思わず殿下の方を向くと、





「モーガス嬢、本当にただ可愛らしいなと思っただけなんだ。まさか、そんなに怒らせてしまうとは思わなくて…、どうか機嫌を直してくれないかな?」


   そう言いながら、私の頭をポンポンと撫でてくる。













  (な、な……、なんなの!?この人!!)





   私をどうしたいの!!?
  





   殿下って、こんなキャラだったっけ!?少なくとも、セリアの記憶ではこんな殿下は覚えがない。


   私が思わず赤くなった顔を下げたまま固まっていると、殿下が顔を覗き込んできた。



「モーガス嬢…?」   


「っ!で、殿下!!」



   近い!近いって!!この人距離感どうなってるの!?
   もう私、いっぱいいっぱいなんだけど!!




「お言葉ですが!そのように安易に女性に触れたりお顔を近づけたりするのはいかがかと思います!!」



   まさかだけど、普段から皆にこんな風に接してるの!?



「なんだ、それなら私達は婚約者なのだから問題は無いだろう?」


「!そ、それはそうですがっ」




   なんなのこの王子の大人の余裕みたいなの!
   私ばっかりドキドキさせられて、王子は平然としてるし…。
   私と1つしか変わらないくせに、やっぱり子供扱いされてる!!






「と、とにかく、殿下!私はもう15で、立派な大人の女性です。子供扱いは止めてください!!」



   
   大体、前世を思い出してからは、精神的には殿下よりも年上なんだから!



「ははっ、分かったよ。特に子供扱いしてるつもりはないが、気をつけるよ」



   …まあ、まだまだ納得はいかないけど、とりあえずは許してあげよう。








   (あれ?そういえば、結局殿下の用事はなんだったんだろう……?)






「殿下、そういえばどのような御用でしたか?」


「ん?」


「?何か御用があったから私に手紙を下さったのですよね?」




   誰も部屋に入れないって事は、大事な用事なのかな?





   ……あれ?これって、もしかして…婚約破棄じゃない?
   




    そうだよ…絶対そうだ!それ以外に王子が私に会う理由ないよ!
    なんでもっと早く気づかないかな、私!!
    誰もいない部屋に2人っきり、こんなの婚約破棄する絶好のチャンスじゃん!




「モーガス嬢」



   来た!ちょっと、なんかこれデジャブだよ!もうちょっと心の準備をーーー



「何か勘違いしていないかな?」


「………へっ?」


「私はただ、あなたと話したかっただけだよ」




   ……んっ?



「今までの態度から急にこんなの、調子がいいと思われてしまうかもしれないけどね。本当に、ただ話したかっただけなんだ」


   


   え、本当にそれだけなの…?





「嫌だったかな…?」


「い、いえ!そんな、」



   


   良くない、これは本当に良くない。
  
    
   


「とても…嬉しいです」



  
   
   心臓がうるさすぎる。顔が勝手に熱くなる。これ、どうやって止めればいいの。   
   




   

「良かった、私も嬉しいよ」

   

   あああ!そんな神々しい笑顔でこっち見ないで!!!




   もう、本当にリカルド王子沼から抜け出せなくなりそうだ…。










   


   その後は、お茶を飲みながら2人で話した。
   お互いの好きな物や趣味等、婚約者なのに今更?みたいな会話をした。



   まあ、私は勿論ストーカー時代に公爵令嬢としての権力を全て使って情報を仕入れていたので、大体知っていたのだけど…。
   知ってますだなんて、王子からしたら気持ち悪いだろうから知らない振りをした。





   それでも、私が知らない事もあって、新しい王子を知ることができて、家に帰ってから暫くは浮かれまくっていた。









       
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