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悪役令嬢の幸せ
しおりを挟むあの後外に待たせていたリルとジュードさんを呼びにいくと、何故か私とリカルド王子の自慢をしあっていたので慌てて2人で止めた。
てっきり無言かと思ったら言い合いとはいえ話していたので、案外相性いいんじゃんと思って「随分仲良くなったのね」と言うと、「どこがですか!!」と2人共に怒られてやっぱり仲良いじゃん……と思った。
そして次の日の今日、2人の事を報告するためにリリアさんと待ち合わせをしていた。
なんでもリリアさんは私と王子の事を応援していてくれたらしくて、色々と王子にアドバイスをしていたらしい。
2人で待ち合わせの場所に着くと、すぐにリリアさんも来た。
「フォレスター様!」
「ごめんなさい、遅くなってしまいました!」
「いえそんな!私達も今来たばかりですわ!!」
だなんて、付き合いたてのカップルみたいな会話をするくらいには緊張していた。
誤解が解けたとはいえ、どうしても少しだけ気まずくて。
「それで、今日はどうされましたか?」
早速リリアさんから聞かれてますます緊張する。
事前に2人で話し合って、報告は王子がしようと決めていた。私は緊張し過ぎて無理だろうと思っていたんだけど、案の定王子が言うのに凄く緊張している。
「フォレスター嬢」
「はい?」
ああもう、どうしよう!吐きそうなくらいに緊張する!!もういっそ、時間よ止まれ!!
「昨日、モーガス嬢に好きだと気持ちを伝えた」
「…………それで?」
「モーガス嬢も、好きと言ってくれたよ」
言った。言っちゃった。どうしよう、なんて言われるんだろう。
チラリとリリアさんを見ると、フルフルと震えていて身構えたら
「良かった~~~~!!!」
とめちゃくちゃ笑顔で、びっくりした。
「本当にどうなるかと思ったけど良かったですね、殿下」
「ああ、フォレスター嬢のお陰だよ」
「とんでもございませんと言いたい所ですが、本当に色々と助言させて頂きましたからね……」
「……分かってるよ、お返しは何がいいんだ。まあ大体検討はつくけど」
え?え?全然ついていけないのは私だけ?
え、こんなあっさりした感じでいいの?いや、そりゃ殿下はリリアさんとは何もないと言ってたけど。
1人でモヤモヤしていると急にリリアさんが満面の笑みでこっちを見た
「モーガス様!」
「っ!はっ、はい!?」
「という事で、今度2人きりでお話しましょうね!」
「へっ!?」
な、何事!?私が考え事をしていた間に何があったの!?
「フォレスター嬢、モーガス嬢が困っているだろ」
「あ、申し訳ありませんモーガス様!」
「い、いえ、お話……ですか?」
「はい!私モーガス様とゆっくりとお茶でも飲みながらお話したくて、駄目でしょうか…?」
「っ!」
……なんか、私勝手に1人でごちゃごちゃ考えて馬鹿みたいだ。リリアさんはこんなに私に歩み寄って来てくれてるのに。
よし、もう本当に大丈夫!憧れの大好きなリリアさんからこんなお誘い貰えるなんてこんな嬉しい事ないよ!!
「いえ、ぜひお願いします!私もリリアさんとたくさんお話したいですわ!!」
「っ!あれ?」
「?」
「今、私の名前……」
「……あっ!!もっ、申し訳ありません!間違えましたわ!失礼致しました!!」
しまった!心の中ではリリアさんリリアさんって名前で呼んでたからつい出ちゃった!!
「……嬉しいです」
「えっ?」
「もしモーガス様が宜しければ、そのまま名前で呼んで頂きたいです」
……え、いいの?名前で呼んでいいの?許可降りたの!?
「よ、宜しいのですか!!」
「勿論です!」
「っ、で、では……リ、リリアさん…」
「はい!」
ほわ!素敵なヒロインスマイルと共に可愛らしい返事が返ってきた!!そんな素敵な笑顔私には出来ません、見習わないと……。
というかこれは私の夢の「セリアちゃん」と呼んでもらうチャンスなんじゃ!?
「あの、リ、リリアさん!」
「はい!」
「私の事も、その、名前で呼んで欲しいなと……その、で、出来れば『セリアちゃん』とかっ!」
「っ、えっ!」
「やっ、やっぱり駄目でしょうか?」
大分勇気を振り絞ったから断られると辛い……。
「いえ!とても光栄で嬉しい事なのですが、その、私の様な身分の者がモーガス様をそのようにお呼びするのは流石に……」
「そ、そうですよね……」
「申し訳ありません……」
そうだよね流石に難しいよね。私を名前で呼んでるのを他の人が聞いたら、リリアさんが失礼だってなって迷惑かけちゃんもんね。
はあ、呼んで欲しかったな……。
……ん?他の人?
(そうだ!いい事思いついた!!)
「リリアさん!」
「はっ、はい!」
「では、2人きりの時はいかがでしょう!」
「えっ…?」
「2人だけの時なら誰も聞いてませんわ!それならどうでしょうか!」
「で、ですが……」
「お願いします!2人きりの時だけですから!!」
もう私はなりふり構わず呼んで欲しい一心で頭を下げた。
「わ!モ、モーガス様!おやめ下さい!!」
「名前で呼んで頂けるのならやめますわ!!」
我ながら卑怯だなと思いつつもこれだけは譲れない。
「~~っ、わ、分かりました!」
「えっ!」
「流石に先程のは難しいですが、2人きりの時だけならば……、セ、セリア様と呼ばせて頂きます」
やった!!私は思わずリリアさんの手を握った。
「ありがとうございます!とても嬉しいですわ!!」
「いえ、私もセ、セリア様からその様に言って頂けてとても嬉しいです」
ふふっ!これでますますリリアさんと距離縮まるといいな!
そうなれば今は無理でも将来的には「セリアちゃん」って呼ばれる日も遠くはないかも……!
そんな事を考えていると、ふと隣から寒気を感じて。
「っ!……セリア様、私そろそろ失礼致しますね」
「え!もうですか?」
「はい。お話する約束もでき、この様にお名前を呼ばせて頂けるようにもなりとても幸せな時間でした!」
「……そうですね!少し寂しいですが、リリアさんもこの後のご予定があるでしょうし」
「あっいえ、まあ、その、それもありますがなんと言うか……、突き刺さる視線がいた」
「フォレスター嬢」
急にリカルド王子の声が降ってきた。
(あっ、そういえば王子もいたんだった…忘れてた)
ついついリリアさんとの話に夢中になって王子忘れるって婚約者としてありえないんじゃ……。
しかも今日は2人の報告に来てたのに。
「予定は大丈夫かな?」
な、なんか笑顔なのに王子の顔が怖いんだけど……。
「……セリア様、では私は失礼致しますね」
「あっ、はい!」
リリアさんは何故か王子を見た後に深いため息をついてから、私に笑顔で挨拶をして歩いていった。
(何だったんだろう……?)
私が不思議に思ってるとリカルド王子に呼ばれた。振り返るとやっぱり何だか王子は顔が怖いというか、なんか……不機嫌?
「殿下……?」
「……本当にフォレスター嬢と仲が良くなったね」
「え?」
「まさか先を越されるとは思わなかったよ」
「さ、先とは?」
ちょっと王子が何を言いたいのか分からない……。
「今日の報告が終わったら言おうと思ってたんだけど、これからはお互いに名前で呼び合いたいなって」
「……えっ」
「フォレスター嬢が良いなら、婚約者の俺は勿論いいよね?」
「もっ、勿論ですわ!!」
まさか王子から言って貰えるなんて想像もしてなかった。なんかちょっと顔が怖い気もするけど、嬉しい。
「良かった。じゃあ早速今から呼んでいこうね、セリア」
「っ!!?」
ちょ、ちょっと待って!!無理!急には無理!心臓持たないよ!!展開早くない!?
「でっ、でで殿下!!」
「殿下……?」
「っ!!」
「殿下?」
こ、怖いから!笑顔でこっち見ないで!!圧が凄いよ……。
「っ……、リ、リカ……リカ、ルド様…」
「様はいらないよ」
そっ、そんな!無理に決まってる!!今のも凄く勇気を振り絞ったのに、それを軽々と!貴方は鬼ですか!?鬼なんですか!!?
「い、いくら何でもそれは無理ですわ!!」
「何で?婚約者だから特に問題は無いよね」
「っ!そ、それは、その」
私の心臓が持たないんですってば!!
「フォレスター嬢の事は名前ですぐ呼んだのに、俺は駄目なの?」
「そっ、それは!だって殿……っリ、リカルド様ですもの。大好きな方だからこそ緊張してしまいますわ…」
うあーー!!こんな事言うなんて、もう、穴があったら入りたい!いやもう自分で穴掘って入りたいよ!!
王子ーーリ、リカルド様の反応が気になってチラリと見ると、何故か口を手で抑えながら下を向いて震えていた。
「セリア」
下を向いたまま急に呼ばれた。名前で呼ばれるのに全然慣れなくてそわそわしてしまう。
「俺も大好きだよ」
っ!!?
「なっ、何ですか急に!?」
顔を上げたかと思ったら少し顔を赤くしたリカルド様が真顔で言ってきて、もう私の顔も真っ赤に染まっているだろう。
(今そんな雰囲気じゃなかったでしょ!?)
「わっ、私は別にそういうつもりで言ったのではなくて!」
「うん。俺が言いたくなったから」
「なっ~~!!」
「でも、今のはセリアが悪いよ……」
だってだって、別に本当にそんなつもりはなくて!ただ名前で呼ぶのは難しいって伝えたかっただけで……!!
「……本当にどうにかなってしまいそうだよ」
「え?」
「セリアは可愛いなって話だよ」
「っ!か、からかわないで下さい、そうやってまた子供扱いして!」
1つしか変わらないのに何なのこの大人の余裕は!精神年齢は私の方が上なんだからね!
「別に子供扱いしてないのにな」
「またそうやって楽しそうに!信じられませんわ!」
ニヤけた口元が隠しきれてませんからね!
「……セリア」
「なっ、なんですか急に……」
急にリカルド様が真剣な顔になったのに驚いて声が裏返ってしまった。しかしそんな事は気にせずに頬に手を添えてきて、私は益々慌てた。
「っ!?」
「本当に可愛いなって思ってるんだよ」
「へっ!!?」
「からかってなんかない」
「!!?」
そのままリカルド様が近づいてきて、息が交わる位近くなったと思ったら息すらも飲み込まれて。何が起きたのかわからなかった。
「子供扱いなんてしてないよ」
離れた後にそう言われてようやく私はキスをされたんだと気付いた。
「……っ!!!なっ、~っ!」
あまりの衝撃に私はその後の「分かった?」という言葉にひたすらに首を振ることしか出来なかった。
そんな私を見てリカルド様はくすっと笑った。私も何だかつられてしまい笑ってしまった。
傍から見ると見つめ合って微笑んで何をしているんだと思われるかもしれない。でも私は嬉しくてしょうがなくて、心の底から「ああ、幸せだな」と思った。
ちなみにこの後、私がさっきのキスはファーストキスだったということに気が付いて気絶するのはまた別の話ーー
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