実は魔王だった俺が、一般人として勇者パーティに入ったら、いつの間にか熱狂的な推しになってしまい、正体がバレないか毎日ヒヤヒヤする件

夜澄 文

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【第8話】推しの選択と、魔王の誓い

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1. 告白後の沈黙と推しの混乱
魔王ヴァルザックことザックの「推し活の告白」は、中央平原に重い沈黙をもたらした。
ライナス、シルフィ、ティアの三人は、目の前に立つ青年が、自分たちが討伐を目指してきた世界の敵、魔王その人であることを、未だに信じきれずにいた。ザックの瞳には、深紅の魔王の光と、彼らを案じる人間の青年の優しさが混在している。
最初に口を開いたのは、勇者ライナスだった。彼の声は震えていたが、その瞳はまっすぐザックを見つめていた。
「ザック……お前が……魔王」
「ああ、そうだ。私の名はヴァルザック。お前たちの世界を一度支配した魔王だ」
シルフィは、理論では辿り着いていた真実を、目の前で突きつけられ、思考がフリーズした。彼女の論理回路は、**「世界の秩序を破壊する存在が、世界の希望を献身的に守る」**という矛盾を処理しきれない。
「じゃあ……あの、超軽量の剣の補助具も、私の魔力循環理論も、ティアの治癒魔法の進化も……全て、魔王の技術だったのね?」
「その通りだ。全ては、お前たちを最高の舞台に立たせるための、俺の推し活だ」
ティアは、顔を覆いながらも、静かに尋ねた。
「あの、ザックさん……いや、ヴァルザック様。どうして、私に、料理を、教えてくれたんですか……? 私を……殺すためじゃ、ないんですよね?」
ザックは、ティアに向き直り、魔王の力を完全に抑え、ただ一人の人間として、心からの言葉を届けた。
「聖女様。料理を教えたのは、お前が、お前自身を大切にする術を学んで欲しかったからだ。お前は、自己を消耗しすぎる。推しには、長く、健やかに輝いていて欲しい。それが、俺の心からの願いだ。俺は、お前たちを殺すために潜入したわけではない。お前たちの物語に、感動するために潜入したのだ」
その告白は、あまりにも純粋で、あまりにも情熱的で、勇者たちを戸惑わせた。彼らは、目の前の魔王の言葉に、これまでの半年間の**「仲間としての真実」**を感じていた。
2. 推しへの依存と葛藤
三人の勇者は、この半年間、ザックの献身的なサポートによって成長した。彼らは、ザックの知識と力に、無意識のうちに深く依存していた。
「私たちは……魔王に助けられて、魔王の力で強くなったのか……?」ライナスが苦渋の表情を浮かべる。
シルフィは、合理的に問い詰めた。「あなたは、私たちを裏切る気はないかもしれない。しかし、あなたの軍は? ゾルディアは、あなたを魔王として城に連れ戻し、私たちを排除しようとするはずよ。私たちは、いつまであなたを信用すればいいの?」
その通りだ。ザックの存在自体が、勇者パーティにとって、時限爆弾なのだ。
ザックは、深呼吸し、魔王としての決意を口にした。
「シルフィ。俺の正体は、既にゾルディアにバレている。そして、彼女は今、俺の行動を**『大いなる遊戯』**として黙認し、俺に危害を加えることを禁じている」
「黙認……?」
「ああ。だが、それも長くは続かない。ゾルディアは、いずれ俺を『秩序の回復』のために連れ戻しに来る。だから、今こそ、俺は**『推しの選択』**を尊重しなくてはならない」
ザックは、ライナスに剣を向けた。
「ライナス。お前が俺を討伐することが、お前たちの『物語』の結末ならば、今、この場で、その剣を俺に向けろ。俺はお前たちの手で敗北するのなら、それもまた、最高のクライマックスだ。俺は、推しの手で終わることを、本望とする」
魔王は、推しに敗北を捧げるという、究極の献身を提示した。
3. ゾルディアの降臨と、究極の対立
その時、平原の空が、ねじ曲がった。空間の裂け目から、凄まじい魔力を纏った人物が現れた。
『闇の賢者』ゾルディアだ。彼女は、静かにザックたちを見下ろした。
「ヴァルザック陛下。陛下のご決断は、誠に心躍る『遊戯』でございます。しかし、その『遊戯』も、そろそろ時間でございます」
ゾルディアは、ライナスたちを一瞥し、冷酷な目でザックに語りかけた。
「陛下。彼らが陛下を裏切ることは、**『秩序の偏り』**を加速させます。彼らを排除し、陛下は魔王城にお戻りください。そして、この世界の退屈を、陛下ご自身の手で修復なさいませ」
ゾルディアは、ザックが推し活に熱中している間に、既に勇者たちを排除するための理論を完成させていた。
ライナスは、剣を構え、ゾルディアに向き直る。
「魔王軍の幹部か! お前たちに、ザックを連れて行かせはしない!」
「勇者ライナス。貴様らの光など、私から見れば、単なる**『解析可能なノイズ』**に過ぎません。排除は容易」
ゾルディアは、ライナスたちに向かって、強力な闇の結界魔法を展開した。
4. 勇者の選択と、ザックの推し活の証明
その時、ライナスは剣を下ろし、ゾルディアではなく、ザックを見つめた。
「ザック。俺たちの討伐対象が、お前だということは分かった。だが、お前は半年間、俺たちを裏切らなかった。俺たちの光を、信じてくれた」
ライナスは、強く、はっきりと宣言した。
「俺は、お前を信じる。お前の言う**『推し』**とやらが、俺たちの希望を守るための真実だと信じる! だから、俺は今、お前を討伐しない。俺は、お前と共に、この世界を守りたい!」
それは、勇者としての常識を逸脱した、「推し」の覚悟だった。
シルフィは、理性と感情の間で揺れ動いたが、ライナスの覚悟と、ザックの献身の真実を思い出し、決断した。
「ゾルディア! 私たちの戦うべき相手は、あなたよ! 私たちの物語を邪魔する、最大の**『不合理』**は、あなただ!」
ティアも、治癒魔法を構え、ライナスの隣に立つ。
「ザックさんが、私たちの仲間でいてくれるなら、私は、この命の限り、戦います!」
ザックの「推し活」は、この瞬間、勇者たちに認められた。
5. 究極の献身と、新たな秩序の創造
「バカな! 勇者が魔王を信じるなど、世界の秩序を破壊する行為!」ゾルディアは激昂した。
ザックは、ライナスたちの選択を見て、目頭が熱くなるのを感じた。
(ああ……最高だ。俺の推しは、世界の常識すら、打ち破ってくれた! この物語は、俺の想像を遥かに超えている!)
ザックは、ライナスたちを守るため、ゾルディアに向き直った。
「ゾルディア。お前は、**『秩序の維持』**が、俺の目的だと信じている。だが、俺の目的は、既に変わった。俺の目的は、この輝く『物語』を完結させることだ!」
ザックは、再び魔王の力を解放した。それは、ゾルディアの結界を瞬時に打ち破り、彼女の理論の全てを無効化する、絶対的な力だった。
「ゾルディア。お前は、推し活の邪魔だ」
ザックの力は、ゾルディアを圧倒した。ゾルディアは、ザックの心の底にある、**『推しへの情熱』**という、魔王時代には存在しなかった、予測不能な力に打ちのめされた。
「そ、そんな馬鹿な……陛下は、本気で……この人間たちを……」
ゾルディアは、ザックの狂おしいほどの愛情を理解し、その力の前に、撤退せざるを得なかった。
6. エピローグ:推し活は続く
ゾルディアが撤退し、平原に再び静寂が戻った。
ライナス、シルフィ、ティアは、魔王が自分たちの仲間であることを受け入れた。
ライナスは、ザックの肩に手を置いた。「ザック。いや、ヴァルザック。お前が魔王だということは、俺たちの『討伐』は、まだ終わってないってことだ。だが……」
シルフィは、苦笑いしながら言った。「あなたの技術は、魔王軍を倒すために必要よ。そして、私があなたの**『過剰な献身』**を監視してあげるわ」
ティアは、優しく微笑んだ。「ザックさんが、私たちの仲間でいてくれるなら、私たちは、みんなで、この物語を続けましょう」
魔王は、魔王軍の幹部ではなく、魔王本人として、勇者パーティの裏の守護者となった。彼の「推し活」は、これで終わりではない。ゾルディアが再び現れるまで、そしてライナスたちが真に世界を救うまで、彼のヒヤヒヤする日常は続く。
ザックは、静かにメモ帳を開き、『推し活計画』の横に、力強く書き加えた。
『勇者パーティ:正式に推し活公認。ただし、命の危機は継続中』
そして、心の中で誓った。
(この物語は、誰にも終わらせさせない。俺の最高の『推し』であるライナス・パーティの物語は、永遠に続くのだ!)
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