実は魔王だった俺が、一般人として勇者パーティに入ったら、いつの間にか熱狂的な推しになってしまい、正体がバレないか毎日ヒヤヒヤする件

夜澄 文

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【第9話】推しとの共犯関係と、魔王城の揺さぶり

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1. 新たな日常と公認されたヒヤヒヤ
魔王ヴァルザックことザックは、勇者パーティの拠点である一軒家で、以前と変わらず朝食の準備をしていた。しかし、その空気は以前とは全く異なる。
ライナスは、いつも通りザックの作る料理を頬張るが、時折、ちらりとザックの顔を伺う。シルフィは、警戒心を剥き出しにしながらも、もはやザックを「魔王軍の幹部」としてではなく、「魔王本人」として監視するようになっていた。ティアは、以前よりもザックに懐いているが、その優しさの奥には、どこか遠慮が感じられる。
(正体がバレたことで、ヒヤヒヤの質が変わった。以前は**『バレないか』だったが、今は『バレた上で、どう関係を築くか』**という、より高度なヒヤヒヤだ)
ザックは、魔王として数百年間経験したことのない、この**「公認されたヒヤヒヤ」**を楽しんでいた。それは、自身が作り出した秩序の世界には存在し得なかった、予測不能な感情のジェットコースターだった。
「ザック、いや、ヴァルザック」
シルフィが、ザックを「ヴァルザック」と呼んだ。その響きに、ライナスとティアは、まだ慣れない様子で肩を震わせる。
「はい、シルフィさん」
「あなたは、私たちの**『推し』**だと言ったわね。では、その『推し』として、具体的に何をするつもり? 魔王軍を統率して、私たちと戦うことはしない。だが、魔王城に帰還もせず、私たちを裏から支援し続ける。それでは、世界の秩序は不安定なままよ」
ザックは、静かに答えた。「その不安定さこそが、新たな秩序を生み出す。俺は、お前たちが『希望』の光として、この不安定な世界を導く姿を見届けたい」
ライナスは、箸を置いて、真剣な眼差しでザックを見つめた。「ザック。お前は魔王で、俺たちの敵だった。でも、俺たちを助けてくれたのは事実だ。だから……俺は、お前を信じる。お前が、本当にこの世界を面白くしたいと思っているのなら、俺たちはその**『物語』**に、乗ってやる!」
ティアも、控えめに頷いた。「ザックさんの料理は、やっぱり世界一です……」
(推しが……俺の言葉を信じて、俺の『物語』に乗ってくれた! 最高だ! この感動は、世界征服よりも遥かに価値がある!)
ザックの心は、歓喜で震えていた。魔王が、人間によって認められ、**「共犯関係」**を築く。これほど予測不能で、刺激的な展開は、彼の数百年の退屈な人生にはありえなかった。
2. 公認された推し活:魔王の教育論
正体がバレたことで、ザックの「推し活」は、よりオープンになった。ただし、その内容は、シルフィの監視下で、あくまで「勇者パーティの成長」という名目で行われる。
ザックは、ライナスたちに、魔王城の高度な知識を惜しみなく提供し始めた。
【ライナスへの教育】
ザックは、ライナスに**『魔力の複合運用術』を教えた。これは、光の魔力と、地、風、水などの基本元素魔法を同時に発動させる技術だ。これにより、ライナスは剣技と組み合わせ、攻撃と防御を同時に行う、『光の複合剣技』**を習得した。
「すごい! 俺の剣が、まるで魔法使いの杖みたいだ!」
「ライナスさん。貴方は、勇者としての可能性を、まだ十分に引き出せていません。貴方は、単なる『光の戦士』ではない。**『世界の理を読み解く者』**でもあるのです」
【シルフィへの教育】
ザックは、シルフィに**『多重次元魔力結界』**の理論を、惜しみなく伝授した。これは、ナーガが使った防御魔法の応用であり、相手の魔法を完全に無効化するだけでなく、その魔力を自身のものとして取り込む技術だ。
「この理論は……完全にゾルディア様のそれを超えているわ! ザック、あなたは本当に……魔王なのね」
「貴女の合理性をもってすれば、この理論を完璧に使いこなせるはずだ。俺は、推しの知的好奇心を満たすのも、推し活の一部だと考えている」
【ティアへの教育】
ザックは、ティアに**『生命力の根源的回復術』**を教えた。これは、外傷だけでなく、精神的な疲労や、魔力枯渇による衰弱までも回復させる、究極の治癒魔法だ。
「ザックさん……私の魔法が、まるで、みんなの命の源を呼び起こしているみたい……」
「聖女様。貴女は、**『世界の希望の光』**を守る存在です。その希望の光を、貴女自身の命を懸けて守る必要はありません。貴女自身も、希望の一部なのですから」
ザックの指導により、勇者パーティは、わずか数週間で、以前とは比較にならないほどの力を手に入れた。彼らは、ザックを「魔王」としてではなく、「最強の師」として、心から信頼し始めた。
3. 魔王城からの揺さぶり:『偽りの魔王』
勇者パーティが力をつける一方で、魔王城からの揺さぶりは、水面下で続いていた。
ゾルディアは、ザックが魔王城に戻らないことを不審に思い、新たな手を打った。それは、**『偽りの魔王』**を仕立て上げ、人間界の混乱を誘うことだ。
ある日、ギルドに緊急の報せが届いた。
「魔王ヴァルザックが、西方の都市を襲撃! 大規模な破壊が発生!」
ライナスたちは驚愕した。
「ザック! お前が、西の都市を襲ったのか!?」ライナスが、ザックに問い詰める。
ザックは首を横に振った。
「俺ではない。これは、ゾルディアの仕業だ。俺が人間界にいる間に、魔王の秩序を偽装して**『偽りの魔王』を出現させたのだ。俺の不在によって生じた『世界の退屈』**を、無理やり埋めようとしている」
シルフィは冷静に分析した。「つまり、ゾルディアは、あなたを魔王城に連れ戻すために、人間界に混乱を生み出し、私たちに**『本物の魔王』**であるあなたを討伐させるように仕向けているのね」
(その通りだ。ゾルディアめ。俺の『推し活』を終わらせようと、遠隔で揺さぶりをかけてきやがったか!)
ザックは、新たなヒヤヒヤを覚えた。魔王城は、決して彼を自由にはさせない。
4. 推しの決意と、魔王の誓い
ライナスは、迷っていた。目の前の魔王は、自分たちを助けてくれた恩人だ。しかし、彼が魔王である以上、その不在が世界に混乱をもたらしているのは事実だ。
「ザック……俺たちは……どうすればいいんだ? お前が魔王城に帰れば、世界は安定するのか?」
ザックは、ライナスに深紅の瞳を向けた。
「俺が魔王城に戻れば、世界は再び**『退屈な秩序』**に戻る。お前たちの『物語』は、そこで終わるだろう。だが、お前たちが『偽りの魔王』を討伐すれば、ゾルディアはさらに強力な『偽りの魔王』を送り出すだろう。それでは、いたちごっこだ」
「じゃあ……どうすれば、いいんだ!?」
ザックは、静かに答えた。
「ライナス。お前が**『真の勇者』として、お前自身の力で、ゾルディアの『偽りの魔王』の仕組みを看破し、『新たな秩序』を世界に示すのだ。それができれば、ゾルディアは、もはやお前たちの『希望』**を無視できなくなるだろう」
ライナスは、ザックの言葉に、**『真の勇者』**としての使命を感じた。
「ザック……分かった。俺は、お前の推し活に応える! 俺は、この世界に、俺たちが作った**『新しい物語』**を見せてやる!」
ライナスは、強く拳を握りしめた。その瞳には、魔王の言葉によって開花した、**『自己の可能性』**への確信が宿っていた。
5. 魔王と勇者の共闘
ゾルディアの仕掛けた『偽りの魔王』を討伐するため、ライナスたちは西方都市へ向かうことになった。
その夜、ザックは、静かにメモ帳を開いた。
『推し活計画:ゾルディアの揺さぶりに対し、推しが『真の勇者』として覚醒するための、最終ブースト』
そして、その下に、新たな誓いを書き加える。
『俺は、推しが世界の常識を打ち破り、自分たちの物語を創造する姿を、誰よりも近くで見届け、支え続ける。それが、魔王としての、そして推しとしての、俺の最後の使命だ』
ザックの瞳は、深紅に輝いていた。魔王と勇者の**「共犯関係」**は、今、世界の命運をかけた、新たな戦いへと突入する。
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