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第十八話 翻訳される沈黙
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正式名称は、
対勇者言動調整室。
ふざけているようで、
中身は笑えない。
管理局の一角。
新しく仕切られた部屋に、
俺は通された。
「勇者レイン殿の発言を、
社会的に安全な形へ翻訳する部署です」
担当官は、
淡々と説明する。
机の上には、
俺の発言記録。
全文。
逐語。
赤線と、
注釈だらけ。
「……これが、
俺の言葉か」
「原文です」
そう言いながら、
別の紙を差し出される。
そこに書かれていたのは、
まったく別の文章だった。
「こちらが、
公表版になります」
勇者の言葉は、
丸くなり、
角が取れ、
誰も傷つけない。
その代わり、
何も言っていない。
「俺は、
承認していない」
「承認は不要です」
きっぱりと言われる。
「沈黙は、
包括的同意とみなされます」
またか。
「……否定したら?」
「その場合、
別の翻訳が必要になります」
つまり、
逃げ道はない。
王女の顔が、
頭をよぎる。
彼女は、
この部署を止められなかった。
それだけ、
王国が追い込まれている。
その日の午後、
俺は城を出た。
行き先は、
事前に伝えていない。
だが、
誰も止めなかった。
止める理由が、
もうない。
郊外の、
小さな集落。
疫病で、
人手が足りていない。
管理局は、
優先度が低いとして、
手を出していなかった場所だ。
俺は、
剣を抜かない。
魔法も、
派手なものは使わない。
水を引き、
汚物を処理し、
遺体を埋葬する。
地味で、
時間のかかる作業。
村人たちは、
最初、距離を取っていた。
やがて、
言葉が飛ぶ。
「……勇者さま、
戦わないのか」
「ここでは、
それより先がある」
そう答える。
それ以上、
説明しない。
夜になる頃には、
井戸の水が澄み、
病人のうめき声が減った。
誰も、
拍手しない。
だが、
空気が変わる。
翌日も、
同じ作業。
その翌日も。
噂は、
当然、広がる。
だが、
言葉は少ない。
「勇者が、
何か変なことをしている」
「剣を振らないらしい」
評価が、
追いつかない。
三日目、
管理局の監査官が来た。
「これは、
独断行動です」
「そうだな」
「声明が、
用意できません」
困っている。
俺は、
少しだけ考えてから言う。
「なら、
出さなくていい」
監査官は、
言葉に詰まる。
それが、
一番困る。
夜、
魔王の声がした。
「賢い」
「……そうか」
「君は今、
翻訳できない行動をしている」
確かに。
水を引いた理由も、
遺体を埋めた意味も、
一文では表せない。
「だが」
魔王は続ける。
「その行動も、
いずれ名前をつけられる」
分かっている。
だから、
止まらない。
名前がつく前に、
次へ行く。
世界は救えない。
だが、
翻訳される前の現実に、
手を突っ込むことはできる。
それが、
今の俺にできる、
唯一の抵抗だった。
対勇者言動調整室。
ふざけているようで、
中身は笑えない。
管理局の一角。
新しく仕切られた部屋に、
俺は通された。
「勇者レイン殿の発言を、
社会的に安全な形へ翻訳する部署です」
担当官は、
淡々と説明する。
机の上には、
俺の発言記録。
全文。
逐語。
赤線と、
注釈だらけ。
「……これが、
俺の言葉か」
「原文です」
そう言いながら、
別の紙を差し出される。
そこに書かれていたのは、
まったく別の文章だった。
「こちらが、
公表版になります」
勇者の言葉は、
丸くなり、
角が取れ、
誰も傷つけない。
その代わり、
何も言っていない。
「俺は、
承認していない」
「承認は不要です」
きっぱりと言われる。
「沈黙は、
包括的同意とみなされます」
またか。
「……否定したら?」
「その場合、
別の翻訳が必要になります」
つまり、
逃げ道はない。
王女の顔が、
頭をよぎる。
彼女は、
この部署を止められなかった。
それだけ、
王国が追い込まれている。
その日の午後、
俺は城を出た。
行き先は、
事前に伝えていない。
だが、
誰も止めなかった。
止める理由が、
もうない。
郊外の、
小さな集落。
疫病で、
人手が足りていない。
管理局は、
優先度が低いとして、
手を出していなかった場所だ。
俺は、
剣を抜かない。
魔法も、
派手なものは使わない。
水を引き、
汚物を処理し、
遺体を埋葬する。
地味で、
時間のかかる作業。
村人たちは、
最初、距離を取っていた。
やがて、
言葉が飛ぶ。
「……勇者さま、
戦わないのか」
「ここでは、
それより先がある」
そう答える。
それ以上、
説明しない。
夜になる頃には、
井戸の水が澄み、
病人のうめき声が減った。
誰も、
拍手しない。
だが、
空気が変わる。
翌日も、
同じ作業。
その翌日も。
噂は、
当然、広がる。
だが、
言葉は少ない。
「勇者が、
何か変なことをしている」
「剣を振らないらしい」
評価が、
追いつかない。
三日目、
管理局の監査官が来た。
「これは、
独断行動です」
「そうだな」
「声明が、
用意できません」
困っている。
俺は、
少しだけ考えてから言う。
「なら、
出さなくていい」
監査官は、
言葉に詰まる。
それが、
一番困る。
夜、
魔王の声がした。
「賢い」
「……そうか」
「君は今、
翻訳できない行動をしている」
確かに。
水を引いた理由も、
遺体を埋めた意味も、
一文では表せない。
「だが」
魔王は続ける。
「その行動も、
いずれ名前をつけられる」
分かっている。
だから、
止まらない。
名前がつく前に、
次へ行く。
世界は救えない。
だが、
翻訳される前の現実に、
手を突っ込むことはできる。
それが、
今の俺にできる、
唯一の抵抗だった。
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完結確約 9話完結です。
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