『魔王(自分)が居ない世界って、案外悪くない。~転生先は、私を討った勇者夫婦の次男として~』

夜澄 文

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第十八話:王国の報復。家族の会議と、ライオスの新たな使命。

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1.王国の報復と、最高機密の決断
アーデント家周辺で観測された異常な闇の波動は、王立学術院の最高機密会議室に、消すことのできない不吉な記録として残された。
先のルークの調査を主導した査察官の上層部の人物は、その記録を前に、憤怒と恐怖に顔を歪ませた。
「これは、魔王アスタロトが最盛期に放った波動に匹敵する。英雄カイの息子が、このような力を宿している事実は、もはや**『神童』などという言葉で済まされない。これは世界への最大の脅威**である!」
彼らは、英雄カイの権威を考慮しつつも、もはや秘密裏の排除は不可能だと判断。戦略を「公然と、かつ厳重な監視下に置くこと」へと切り替えた。
数日後、王宮の書記官を通じ、カイの元に数通の公式文書が届いた。それは、「英雄の息子を保護する」という名目ながら、ルークの自宅への定期的な査察、学術院への隔離、そしてカイへの「査察への絶対的な協力」という名の、公然たる圧力だった。王国は、もはやルークの存在を看過しない、という強い意志の表れだった。
ルークは、学術院のネットワークの僅かなトラフィックの異常や、自宅周辺の監視カメラの角度の微妙な変化から、この報復行動の開始を瞬時に予知した。彼の顔に焦りはない。完全に統合された闇の知性は、むしろこの状況を**「必然的な舞台の開幕」**と捉えていた。
2.アーデント家の「守護者会議」
その日の夕食後、アーデント家は初めて、秘密を共有した**「家族の守護者会議」**を開いた。会場は、外部からの魔力探査を完全に遮断できる、ルークの闇の結界で守られた地下の書庫だった。
ルークは、最年少ながら、その中心に座り、統合された闇の知性をもって、冷静に状況を説明した。
「父さん、母さん、兄さん。王国は、僕の力を世界への脅威と断定しました。彼らは、僕を隔離し、最終的には封印するでしょう。しかし、僕たちの目標は、僕が『ルーク・アーデント』として、この家で平和に生き続けることです」
カイは、力強い眼差しでルークを見つめた。「何でも言ってくれ。父さんは、二度と君を裏切らない。君の命も、この家の平和も、私が守る」
エリスは、ルークの闇の波動が以前よりも温かく、安定していることを確認し、決意を固めた。「私も、この家に光の波動を張り続けるわ。私の光は、あなたたちの闇と愛を守るためのものよ」
ルークは、テーブルの上に広げられた王都の地図と、査察官の行動予測図を指し示し、家族一人一人に役割を割り振った。
• カイ(表の盾):英雄の権威と武力で、王国の法的手続きを遅延・阻止する「政治的防壁」となる。
• エリス(光の緩衝材):自宅の光の波動を継続的に維持し、ルークの闇の力を「無害なもの」として偽装する。
• ルーク(頭脳/闇の制御):自宅の防衛と、情報戦、そして家族全体の計画立案を担う。
3.平凡な兄、ライオスの孤独と覚醒
役割が割り振られていく中で、ライオスは再び孤独を感じた。
「待ってくれ、ルーク。父さんは政治的な防壁、母さんは光の緩衝材、お前は頭脳と闇の力。じゃあ、俺は? 俺には、英雄の力も、聖女の光も、お前のような天才的な頭脳も、特別な力もないじゃないか」
ライオスは、その言葉に、これまでの無力感と悔しさを全て込めた。自分だけが、この強大な秘密と危機の中で、何の役にも立たない「平凡な兄」であるという事実が、彼の心を締め付けた。
ルークは、静かに地図から顔を上げ、ライオスの目を見た。
「兄さん。違う。君の**『平凡さ』**こそが、僕たちの最大の武器なんだ」
ルークは、統合された闇の知性をもって、ライオスの持つ**「人間としての無垢な愛」**の価値を説明した。
「査察官たちが最も警戒するのは、僕という『英雄の息子』という異常な存在から発せられる、不自然な言動や、完璧すぎる行動だ。僕の演技は完璧だが、そこに『人間の感情』は伴わない。だからこそ、彼らは僕を疑う」
「しかし、兄さんは違う」
ルークは、ライオスの手を握った。
「兄さんの無邪気さ、平凡さ、そして僕に対する無条件の家族愛は、全て真実だ。その真実こそが、僕が闇の力を持つという『異常性』を覆い隠す、最も強力な光の偽装となる」
4.兄が選ぶ、光の煙幕という使命
ルークは、ライオスに**「完璧な煙幕」**としての役割を割り振った。
「査察官が自宅に来た際、兄さんは、僕に剣術の指導を乞う。わざと、僕の『神童の仮面』を、『兄想いの普通の弟』という、最も平凡で無害なイメージで上書きするんだ。兄さんが僕を普通に扱う限り、僕から発せられる異常な光景は、すべて『平和な日常』という常識の枠内に収められる」
「兄さんの役割は、僕の闇の知性と対をなす、『光の無垢さ』を体現することだ。それは、僕の闇を隠す、最も強大な光の盾だ。力ではない、兄さんの純粋な心が、僕たちの最大の防壁となる」
ライオスは、ルークの言葉を聞き、自身の平凡さが、家族を守るための特別な力となり得ることを悟った。彼の無力感は、深い使命感へと昇華した。
「わかった、ルーク。俺は、お前の兄さんだ。お前が世界を相手に戦うなら、俺は、お前が『ルーク』であり続けるための、最も厚い壁になってやる」
5.外部の動きと、固まる絆
守護者会議が終わり、家族はそれぞれの役割を胸に、日常へと戻った。
ルークが予知した通り、査察官が派遣した最初の偵察部隊が、アーデント家の周辺に到着した。彼らは、家から発せられる微細な光の波動(エリスの緩衝材)と、庭で剣の素振りに熱中する普通の少年(ライオス)、そしてそれを見守る**英雄(カイ)という、「あまりにも完璧で平和な日常」**の光景に直面した。
偵察部隊は、記録された闇の波動と、目の前の平和な光景とのギャップに、一時的な混乱を覚える。彼らの報告書には、「異常な魔力の痕跡はあるが、家族は極めて平和で常識的である」という矛盾した情報が記載された。
ルークは、窓から外部の偵察部隊の動きを観察しながら、闇の知性で計画の初動成功を確信する。
ルークの内省:「僕の闇は、もう孤独ではない。僕の闇は、父さんの権威と、母さんの光に支えられ、そして何よりも、兄さんの平凡な愛という、最も強力な偽装に守られている。王国の報復は、ここから全てが欺瞞と絆の舞台となる」
家族の絆が、外部からの危機によって完全に固まった。
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