スキルクリエイトは灰色の空の下で

空風鈴

文字の大きさ
6 / 7

【6】《ウォークライ・フラッグス》

しおりを挟む
アイリーンの周囲に突き立った4本の光の槍は、長さ約3メートル。地面とは反対側の先端から四角形の帯が伸びていき、横幅は約2メートル、縦幅もその半分くらいまで広がった。
やがて、帯だったものは光の粒子の本流を受けてはためく旗となり、地面に突き立つ槍は旗を支える竿の役目を果たす。

ノイエがアイリーンのために創造したスキルは《ウォークライ・フラッグス》。
フラッグは、1本ずつが異なるバフ効果を有しており、アイリーンが対象としてターゲットした物・場所・人を中心に、特定範囲に存在する味方(とアイリーンが認識する人間)に様々な恩恵を与える。
アイリーンが顕現させた4本のフラッグの効果は、もちろんノイエも把握している。

ファースト・フラッグ《カリスト》。
味方の知覚を鋭敏にし、敵の気配や動作の起こりを捉えやすくなる。
人間は、何かをしようとするとき、その直前に必ずと言っていいほど予備動作というものが存在する。
通常であれば、その予備動作を捉えることは極めて困難であるが、《カリスト》によって感覚が研ぎ澄まされることにより、相対する敵の筋肉の強張り、視線の動き、重心の移動などを感じ取れるようになる。
その結果、相手の動きに合わせた行動が取りやすく、カウンターを合わせたり、いわゆる後の先を取ったりすることが可能となる。

セカンド・フラッグ《ガニメデ》。
味方の痛覚を鈍らせる。デメリットはあるものの、得られる恩恵の方が圧倒的に大きい。
すなわち、一般的に戦闘中にダメージを負うと、どんなに優れた戦士でも痛みによる集中力の低下や負傷による動作の制限などが生まれ、戦闘力が大きく損なわれる。
しかし、《ガニメデ》による痛覚鈍化は、ダメージを受けることによる戦闘力の低下を最小限に抑えることができ、継戦力も大きく向上する。

サード・フラッグ《エウロパ》。
味方同士の連携の強化に大きなアドバンテージを得る。
《カリスト》が知覚の鋭敏化による敵の行動予測を可能にするものであるのに対し、《エウロパ》は自己の認識力の向上により、味方の動きや意図を汲み取りながら戦うことができる。
味方同士の連携はより強固なものとなり、互いの長所を高め、弱点を補うことで、生存率が大幅に向上する。

そして、フォース・フラッグ《イオ》。
精神は肉体を凌駕する、などという言葉があるとおり、同じフィジカルであってもその時々のメンタルの状態によって、発揮できる力は大きく異なる。
《イオ》は、味方を鼓舞することにより『自分たちはやれる』という自信を与え、己の能力を限界まで引き出せる状態を作り出す。

アイリーンは、部隊の要となるメンバーを次々とターゲットし、これら4つのフラッグを展開していく。
ターゲットされたメンバーの足元に古代のものと思しき文字と円が幾重にも重なり、やがてバフの効果範囲まで外周円が広がりきる。
部隊のメンバーも、今までに何度も経験したバフの効果に興奮を隠せない様子だった。

《ウォークライ・フラッグス》が正常に発動したことを確認すると、アイリーンはホッと安堵の息を漏らした。
表情もスキルを顕現させるために集中していたときより、幾分和らいでいる。

ノイエも、部隊に大小4つの円が展開されたことを確認すると、改めてルムドフの門に意識を集中する。
門は既に完全に開け放たれていたが、そこから敵の騎兵が突撃してくるでもなく、あるいはメッセンジャーとして誰かが出てくるでもなかった。

と、そのときだった。
門の辺りが一瞬モヤのようなものに包まれたかと思うと、そこから幾条かの影のようなものが飛び出したように見えた。
その黒い影は、後ろに長い尾を引き、くねくねと奇妙に進路を変更しながら、街を半包囲している3つの傭兵団目指して移動する。
しかし、全く尋常ではなかった。それが人間なのかどうかも判別できなかったが、移動する速度が常軌を逸していた。騎兵など比較にならないほど早い、早すぎる。
影たちは、傭兵団の中に飛び込むと、たちまちその場にいた兵たちから絶叫や怒号が上がり、部隊は一気に混乱した。

【ノイエ。もはや一刻の猶予もありません。直ちにあれから逃げなさい!】

オフィーリアが悲鳴じみた声を上げる。
ノイエは、ようやくオフィーリアの警告が正しかったことを知る。
あれは違う。
正体すらわからないが、あんなものとまともにやりあってはいけない。

ただ、ノイエは仲間を…いや、アイリーンを残して逃げることなど出来なかった。
そして、アイリーンも仲間を残して自分だけが助かろうなどとは考えてもいなかった。

しかし、それでもノイエは言わずにはいられない。
「団長!ここは僕に任せて、貴方だけでも…」
ノイエがそこまで口にしたとき。
そして、ノイエの声にアイリーンが振り向いたとき。

アイリーンが天に掲げていた右手が宙を舞った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

入れ替わり夫婦

廣瀬純七
ファンタジー
モニターで送られてきた性別交換クリームで入れ替わった新婚夫婦の話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...