エレファントの瞳

暖鬼暖

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エレファントの瞳

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「エレファントが輝くのを知ってる?」

出発の列車の窓からエマニュエルがいたずらに言った。

時が流れるのが早すぎた。

君が部屋へ帰ってきたのは秋で、退学の手続きを終えたのは冬だった。約1か月半。

約1か月半の猶予を僕らの時間として”時”が残してくれた。

彼とは寮の部屋で互いを温めあったり、彼の故郷の話を聞いたり、絵を一緒に描いたり。

のんびりとした夢の時間を共有した。もちろん僕は勉強もした。

エマニュエルに読み書きを教えたりもした。そして,僕が良く歌う歌も。

「象牙ってさ、産毛が太陽の光に当たってキラキラ光るんだ」



あまりにも突飛な質問に僕もいよいよふざけたくなって返した。

「僕が君を初めて見たときもキラキラ輝いていたよ、エマニュエルエレファントくん」



「君ってやつは…!」

大きく目と口を開く僕のエレファントは、今日も輝いている。





駅員が続々と人を集めては、まもなくの発車時刻の汽車へ人を誘導している。

周りの音が気にならないほどに、エマニュエルの声はとても透き通っていた。

「レオ、君は名前の通りの人物だね。君は、僕にとってのエレファントだった」



エマニュエルは皮の鞄から子袋を取り出して、僕の手のひらに置いた。

「エレファントの赤い目玉が手に入れば、お金持ちになれるって昔教えてもらったんだ」

子袋の中に赤く輝く球体がコロンと出てきた。



「これは君にあげるよ。ルゥオーギュスタン・ド・レオ。美しい僕を描いてくれた報酬だ」



太陽に透かしてまじまじと見ると、飴のように赤く美しく透き通るガラス細工にように丸い。



汽笛が鳴る。





「ーーー…レ、レオ」





エマニュエルが窓から乗り出して、僕にキスをした。

子どものように温かい体温の感触が唇にじんわりと広がる。



「僕の心が、もしまた大人になったら、また会ってくれる?」



「もちろんだよ…!」



列車が発車する。



僕らはぎりぎりまで手を離すことはなかった。

最後に熱い口づけをして、離れていく手を惜しんだ。

「さようなら、ルゥオーギュスタン・ド・レオ、さようなら」

何度も何度も遠くなっていくエマニュエルの声が聞こえた。



僕は彼のエレファントを握りしめ湧き出る感情を必死にこらえてただただ手を振った。


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