異世界でホワイトライオンもどきに転生しました。

陣ノ内猫子

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プロローグ・その1

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 ジャラリと鎖の擦れる音が辺りに響く。彼女を繋ぐ枷の音だ。両手両足の自由を奪われ天井から吊るされた挙句、喉まで潰されている。
 彼女が一つ身動きすると、またジャラリと音がした。
 暗く淀んだ空気のこの地下牢に、彼女が拘束されているのにはもちろん理由がある。彼女も自業自得だと思っていた。いつかはこうなるだろう、とも。それが早かったか遅かったか、だけの話だ。

「凄腕と言われていた暗殺者も、形無しだなぁ、おい」

 ケタケタと笑い声を上げながら男が牢の中へ入ってきた。足音を立てることなく、気配を消して。
 しかし、彼女には分かった。
 わずかに残った足音。微かに感じる気配。暗い中でも夜目の利く彼女には、どのように、どんな足取りで男が近づいてきているのか、まで。手に取るように。
 なぜなら男の言った通り、彼女が凄腕の暗殺者だからだ。

「言いザマだぜ、なぁ、お前ら」

 男がちらりと後ろに目をやる。控えていた部下と思われる男二人が、やや緊張気味に「は、はい!」と頷く。

「フンッ。お前の仕事は完璧だったぜ。完璧すぎるくらいになぁ」

 そう、彼女の仕事は完璧だった。完璧すぎた。
 「死体を残すことなく対象を殺す」、それが彼女のスタイル。
 証拠の一切を消し、死体ごと葬り去る。言うのは簡単だが、実際にやるのは難しい。現に、彼女以外にそんなことをできる暗殺者はどの国にもいない。だからこそ、海外からも彼女への依頼は殺到していた。

「なぜ死体を残さない? そんなんじゃ殺したのかどうか怪しまれるだけだろう? ああ、そうだった! お前は逃がし屋だったなぁ、アッハッハッハッ!」

 腹を抱え、男は再び笑い声を上げる。
「暗殺者のくせに、対象を逃がし、別の人間として生かす逃がし屋。よくよく調べりゃ、お前の母親も同じことやってたな」
 男の言う通り。
 暗殺者兼逃がし屋は、母親から引き継いだものだ。

『殺さなくていいのなら誰も殺したくはない。でも、世の中には殺さなきゃ治らない人種もいる。そいつらを殺すのが私達暗殺者だ』

 母がよく言っていた台詞だ。
 そうして、殺す必要がないと判断した人間には暗殺者である自分が雇われたことを伝え、雇い主の目が届かない場所へと逃がした。もちろん、別人となれるよう手配をして、だ。
 それなのに――……。
「クククッ、お前もザマァねぇな。何でお前が逃がし屋だってバレたのか、教えてやろうか?」
「そ、それはまずいのでは……っ」

 男の後ろに控えていた部下が口を挟む。

「いいんだよ。……それはなぁ――お前に新しく就いた副官だよ! あいつは組織がお前の動向を探らせる為に忍ばせた諜報員だったってわけだ!」

 男がペラペラと喋り始めた。奇しくもそれは、彼女が今知りたかったことだった。視線だけで続きを促した。
 そのことに気をよくした男はさらに続ける。

「お前は他人に興味がない。だから副官を入れ替えても怪しまれないと判断された。実際何とも思ってなかっただろう? それが落とし穴だったってわけだよ。お前は他人に興味を持たなすぎた。少しでも怪しいと思えれば、お前の勝ちだったのによぉ。いるのが当たり前になってただろう? なぁ?」

 ――そういうことか。
 副官が入れ替わったのが約一年前。その頃から怪しまれていたということだ。
 己の迂闊さに反吐が出る。

「まぁ、貴重な一族が減るのはもったいねぇが、お前に当たりが生まれるまで産ませればいいってのが組織の判断だ。それまで保ってくれよ。なぁ、おい」

 これは予想できていた。十中八九、そうなるだろうと。
 しかし彼女は決めていた。最期まで組織のいいようになどなってやらないと。
 これはけじめだ。自分が今までやってきたことへの。
 だから――落とし前は自分でつける。

「俺もツイてるなぁ。お前、顔と体はいいからなぁ~」

 舐め回すように男の視線が彼女の身体を這う。ねっとりと絡みつくようなその視線に、キッと睨みつければニタリと笑う。

「いいなぁ。反抗的な女は好きだぜ。俺好みに躾けたくなる……なぁ、おい」

 吐息が触れそうなほど男の顔が近づいてきた瞬間――

「ガァ……ッ……ガ……このアマぁ……ガァァァァーーーーッ!!」

 その喉笛に喰らいつき、喰い千切った。
 ぶちぃと肉の千切れる音とともに、プシャァッと生温かい血が顔に飛び散る。
 男はびくびくと痙攣すると白目を剥き、叫んだ口のまま絶命した。

「……こ、このッ、貴様!」
「よくも! よくもよくもよくもっ……! 殺してやるッ!」

 この男が慕われた上司でよかった。そうでなければ、こんな簡単に上手くはいかなかっただろう。
 ああ、長いようで短い人生だった。が、悪くはない。親に恵まれ愛され、仕事もそれなりにやりがいはあった。
 最期は……まぁ、こんなことになってしまったが、一矢報いることはできた。
 部下の片方が袖口に忍ばせていたナイフを彼女に向かって振り上げた。

 ――ああ、悪くない人生だった……。
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