家族の迷路

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家族の迷路

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 津波で夫を亡くしてから八ヶ月が経ち、あたしたち家族は変になってしまった。

 一人娘の芽衣(めい)との二人で、やっと完成した仮設住宅に暮らしていた。

 また寒い冬が来ようとしていた。



 仮設に入って、すぐだったか、夫の兄の息子、大輔君が身元引受人不在で近所の小学校に身を寄せているらしいことがわかった。

 芽衣より二つ年下の大輔君が保護されている…

 あたしは、とにかく彼に会おうと、その小学校に向かった。



「おばちゃん…」

「大輔君」

 あたしは、ひしと抱きしめた。

 中三のはずだが、男の子にしては体が小さかった。

「まだ、お父さん、お母さん、見つからんの?」

「うん」

 泣きそうになりながら、大輔君は、首を縦に振った。

 くったくのない黒目がちの瞳が、チワワを想起させる。

「芽衣のおっちゃんも、死んでしもたんよ。そんで、芽衣と二人っきりで沢島の仮設住宅に、いま暮らしてんの。大輔君もうちにいらっしゃい」

「いいの?」

「いいも、何も、親戚なんやから、遠慮はいらんのよ」

 そうやって、彼を引き連れてきたのだった。



 ほかの親戚筋とも連絡は取れずじまいだった。

 だから、大輔君も一人でこんなところに保護されていたわけである。

 芽衣とは、いとこ同士で幼い頃から学校が休みになるとよく一緒に遊んでいたものだ。

 世話好きな芽衣が、何くれと無く、大輔君を弟のように面倒を見てくれている。

 このまま仲の良い姉弟として暮らしていってくれたら心強い。



 あたしは、実家の後始末やら、ご近所の避難所のボランティアの仕事で悲しさを忘れようとしていた。

 だから仮設の家も空けがちだったのは否めない。

 だからって…



 芽衣と大輔が、あんなことをしていたなんて。

 あたしは、芽衣と大輔が裸で睦み合っているのを見てしまった。

 お互いの寂しさを埋めるべく、そういう仲に発展していったと考えれば当たり前なのかもしれない。

 もともと、姉弟ではないのだから。

 いとこ同士、結婚も許されるわけだから。



 いや、そういう問題ではない。

 あの子たちだけで寂しさを埋めあって、あたしは一人ぼっち?

 あたしには、だれも慰めてくれる人はいないのに。



 あたしは、あろうことか娘達に嫉妬していた。

「あんたたち!」

 つい、怒りがこみ上げて、あたしは、二人が絡み合っている現場に踏み込んだ。

 凍りつき、引きつった顔であたしを見る、二人。

 芽衣は、何かを言おうとして言葉にならないようだった。

 芽衣が上になって、大輔とつながっていた。

 その見てはいけない結合部分が、嫌でも目に入る。

「裏切り者!」

 あたしは、罵声を浴びせた。

 涙が止めどなく頬を流れる。

 あたしは、いたたまれなくなって家を飛び出した。

 どこをどうさまよったかわからなかった。



 静かな海が目の前に広がっている。

「あんた」

 夫の悟(さとる)の顔が夕空に浮かんだ。

「あたし、どうしていいかわからんわ」

 ひとりでに言葉が漏れた。

 岸辺のあちこちに、災害の爪痕が引っかかっている。

 漁船が陸に乗り上げて、錆びついた胴体を晒している。



「姐さん」

 あたしの後ろから声をかけられた。

「え?」

 あたしが振り向くと、タオルで鉢巻をした、五十絡みの精悍な男がくわえタバコで近づいてくる。

「あんたも、家族を亡くしたんかい?」

「ええ、夫を」

「そうかい、おれもだよ。嫁と息子、帰ってこねえ」

「そうなの…」

「だけどよぅ、もう、あきらめたんだ。悲しむのはよぅ」

 海を見つめながら、彼はそう言った。

「どうだい?一杯、飲んでいかねぇか?」

 普通なら、あたしは逃げて帰っていっただろう。

 でも、あたしは、帰るところが思い当たらなかった。

「うん」

 あたしは、男についていってしまった。

 何も考えずに。

 自分だって、すがる人がほしい…



「おれんちは、流されなかったんだ」

「奥さんはどこで?」

「嫁は、水産加工場ごと流され、息子は漁から帰って船を降りたときに巻き込まれたらしい」

 あたしは、ちゃぶ台の前に座り、電気が来てないのか、船から持ってきたらしいランタンが灯された。

 石油ストーブがついていて人心地つける。

 缶詰やら、釣った魚だろうか、器用に刺し身につくって出してくれた。

 手垢のいっぱいついたガラスコップに日本酒がなみなみと注がれて、あたしの前に置かれる。

「ま、やってくれや」

「いただきます」

 落ち着いて見回すと、片隅に、奥さんと息子さんの遺影が置かれ、饅頭が供えられていた。



 そこそこ頂いて、お酒も回ってきた頃、長島武志と名乗った男は、おもむろに遺影を裏返し、あたしの横に座った。

「なあ、おまえさんも、寂しいんだろ?」

 図星だったが、行きずりのこんな男に身を任せるような、ふしだらな真似はできなかった。

「ちょ、ちょっと」

 あたしは、彼の腕から逃れようとした。

「なぁに、ちょっとだけ、おれの相手をしてくんねぇか?」

「いやよ」

「こんなになってんだ。頼むよ」

 股間が大きく盛り上がっている。

 酒臭い息を吐きながら、日に焼けた男の顔が近づく。

 嫌いな顔ではなかった。

 どこか、夫の悟に似ていた。

 彼も寂しいのだ。

 娘達だって、楽しんでいたではないか。

 四十にはまだ間があるあたしは、目の前のたくましい男にすぐに反応してしまった。

 悟とも、週一で芽衣の目を盗んで夫婦の営みを欠かさなかったくらいだったから。

 武志は作業ズボンのジッパーを下ろし、パンツをかき分けて、黒々としたペニスをさらけ出した。

 大きい…

 悟のモノより、絶対大きかった。

 こんなものを見せられたら、あたしも変になってしまう。

 魚類のような臭いが立ち昇る男根だったが、あたしは手に取りしごいていた。

「ああ、あったけぇ。姐さんの手」

「熱いわ。それに硬い」

「だんなのを思い出すだろ?え?」

「ええ、でもこんなに立派じゃなかったわ」

「そうかい?おれのはでけぇか?」

「うん」

「入れさせてくれるか?姐さん」

「だめよ。こんなの入らない」

「大丈夫だって。嫁も、姐さんくらいの小柄な女だったけんど、ハメられたぜ」

 そう言いながら、ズボンを脱いでしまい、下半身を素っ裸にしてしまった。

「脱げよ、姐さん」

 有無を言わせない感じだった。

 あたしは、酔っていたことも手伝い、大胆になっていた。

 セーターを脱ぎ、ブラウスを脱いで、下着姿を晒した。

 夫以外の男の前で、ついぞこんなことをしたことがなかったあたしなのに。

 さっき知り合ったばかりの男の前で裸になる。

 もともと淫乱な血が流れているのだろうか?

 娘達の痴態が頭にあったのは確かだった。

 あの子たちももう大人なのだ。

 男も女も、獣(けもの)なのだから、火が点いてしまえば、もうどうしようもないのだった。



 あたしは再び、彼を手にしていた。

 腕ぐらいある太さは、筋(すじ)が束になっているという感じで、熱く滾たぎっている。

 亀頭というのだろうか、あの部分がしっかり笠を張りだしている。

 毛の密度も濃く、手に刺さるようだった。

 腹の筋肉は、この歳では若者に負けないくらい、赤銅色に割れている。

 いきいきと、脈動するペニスが行き場を失い、苦しそうだ。



「姐さん、もし準備できてんなら、上になってくれねぇか?」

 濡れていたらということらしい。

 騎乗位は夫も好きな体位だった。

「いいけど…」

 あたしは、腰を上げ、彼をまたごうとした。

 そのときに手指で濡れ具合を確かめた。

 ぬと…

 勃起を目の前で見た手前、自身も高まっている。

 濡れやすい体だった。

 膝立ちで、腰を彼に合わせる。

 ぐりっと、熱い亀頭部分があたしの肉を分ける。

 入るだろうか?

 少し深呼吸をして、背筋を伸ばし、下に力を加えていく。

 めり…

 そんな感じであたしは拡がった。

 そして、裂かれるような痛みを感じ、止まった。

「痛い…」

「だめか?」

「ちょっと、待って」

 やはり、大きいのだ。

「おれが上になってやろう」

 あたしはひっくり返され、股を開かされた。



 男はかがんで、あたしに狙いを定めている。

「よっしゃ、いくで」

 当たる感じがして、さっきのように拡がった。

「あふっ」

「痛いけ?」

「ううん」

「ほうら、ほら、きついけど、入ってくぜ」

「やぁん」

 腸(はらわた)が突き上げられるような、今まで感じたことのない充実感だった。

「全部、入っちまった。きついな、姐さんの」

「すごい…おなか一杯って感じだわ」

「旦那の、小せえかったんだろ」

「そんなデカイ人、ふつうはいないわよ」

「そうかい?漁師はみんなこれくらいの持ってらぁ」

 そう言って、抜き差ししだしたからたまらない。

「ひゃあ、やめてぇ」

 内臓が引き出されるような錯覚を覚え、怖かった。

 しかし、すると、どうだろう?

 だんだん、快感に変わっていくではないか。

「ああん、あん、あん」

 あたしのあられもない声が毀れかけの小屋のような家に響いた。

「姐さん、濡れ方がすげぇな。びしょびしょだぜぇ」

 あたしは、「あなた、ごめんなさい」と心で詫た。

 しかし、体の反応は正直で、この行きずりの男の虜になりそうだった。

「もっと、もっとぉ」

 そんな言葉を口走っていた。

 長い、交接のあと、男が「いくぜ」

 と、一言、言って、素早く抜かれ、お腹や胸乳にまで夥しい白い液を撒き散らした。

「あはぁ、出たぁ。間に合ったぁ」

 そんなことを言いながら肩で息をしている。

 あたしは呆けたように、仰向けになって、ランタンの灯を見つめていた。

 懐かしい、男の香りが部屋に満ちていた。

 あたしは寂しくなくなった。

 そして、彼の首に腕を回し、キスを求めた。

 長島はやさしく、あたしに酒臭い口づけをくれた。



 また会う約束をして、家路についた。



 外は真っ暗になってしまっていた。



 仮設に戻ると、明かりがついていた。

 芽衣が、夕食の支度をして待っていてくれた。

 芽衣と大輔があらたまって、あたしの前で、手をついて謝った。

「お母さん、ごめんなさい」

「おばさん、ごめんなさい」

 あたしは、にっこりと笑って、二人の頭を撫で、

「あんたたちがよければ、愛し合ってもいいんだよ。家族になるってそういうことだからね」

「え?許してくれるの?かあさん」

 そう言ったのは芽衣だった。

「大輔君ならいい。おじさんも許してくれるわ」

「うれしいっ!」

 芽衣があたしに抱きついてきた。

 大輔君が、急に大人びて見えた。

「結婚は、まだ早いわよ。もう少し待ってからね。大輔君は高校にちゃんと入って、しっかり勉強して、芽衣を頼んだわよ」

「はいっ」

「それから…ちゃんと避妊してね」

 そう、付け加えることも忘れなかった。



 あたしは、長島によって、吹っ切れたのかもしれない。

 長島と籍を入れるのは時間の問題だった。
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