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和昭(かずあき)
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今日は「化学の日」だという。
アボガドロ数の「6.02✕10の23乗」にちなんで「10月23日」なのだそうだ。
あたしは新聞の全面広告を見ながら、ケータイを取った。
「もしもし、なおこです」
「おう」
社長の櫓やぐらさんがすぐに出た。
「今いいですか?」
「ああ、いいよ。なんだ」
「小山さん、具合が悪くって、今日の前座には出れないって」
「なんだって?困っちまうな。なら、横山、お前が一人で持たせられんか?」
「あたしだけでですか?」
「お前、ウクレレ漫談できるだろ?」
「ウクレレじゃなくってギターですってば」
あたしは、オーディションでギター漫談をやってのけ、今の仕事にありついたのだった。
「なんでもいいや。あれ、やんなよ。ウケるぜ」
仕方がない…
「わかりました、穴を開けられませんからね」
「そうだ。芸人の心意気をみせてくれぃ。じゃ、頼みましたよ」
社長はそう言って電話を切ってしまった。
ふぅ…
あたしは、何を出し物にしようかとネタ帳をジャケットのポケットから出してみた。
相方の小山節生(せつお)は妻帯者で、奥さんは絵描きだと聞いている。
青山で個展を開いたりして、そこそこ有名な方らしいが、あたしは会ったこともないし、彼女の作品に触れたこともなかった。
節生がこのまま狭心症だかなんだかで芸人を続けられないとなると、あたしはギター漫談で食べていかなければならないのだろうか?
開演は十八時だったのでまだ時間はある。
あたしは、和昭(かずあき)に電話してみた。
「あ、あたし。今いい?」
「なおちゃん?今日はオフなのかい?」
「夜なのよ。仕事は」
「そっか。なんだよ、今頃」
「あそばない?」
「これから?」
「だめ?」
「いいけど…」
「だれかと一緒なの?」
「まぁ」
あの子か…あたしは心当たりがあった。
「じゃ、その子と終わってから電話して」
「ごめんね」
あたしは、和昭が誰と寝ようが構わなかった。
ただ、ずっとあたしのことを忘れないでほしかった。
あたしが寂しい時にだけ抱いてくれればそれでいい。
和昭を縛ることはしたくない。
古い食パンでフレンチトーストなんぞを作って、ぱくついているとテーブルの上のケータイが震えた。
和昭からだろう。
「もしもし…」
「なおちゃん、今からそっちに行くよ」
「そう…じゃ、気をつけて」
あたしは、食べ終えると、食器を流しに出して、シャワーを浴びることにした。
時計を見ると、もうすぐ午後二時になる。
愛用のギターがソファと壁のすき間に立てかけてある。
あたしは、汚れた下着をポイポイ洗濯機に放り込んで、素っ裸になって、風呂場に消えた。
アボガドロ数の「6.02✕10の23乗」にちなんで「10月23日」なのだそうだ。
あたしは新聞の全面広告を見ながら、ケータイを取った。
「もしもし、なおこです」
「おう」
社長の櫓やぐらさんがすぐに出た。
「今いいですか?」
「ああ、いいよ。なんだ」
「小山さん、具合が悪くって、今日の前座には出れないって」
「なんだって?困っちまうな。なら、横山、お前が一人で持たせられんか?」
「あたしだけでですか?」
「お前、ウクレレ漫談できるだろ?」
「ウクレレじゃなくってギターですってば」
あたしは、オーディションでギター漫談をやってのけ、今の仕事にありついたのだった。
「なんでもいいや。あれ、やんなよ。ウケるぜ」
仕方がない…
「わかりました、穴を開けられませんからね」
「そうだ。芸人の心意気をみせてくれぃ。じゃ、頼みましたよ」
社長はそう言って電話を切ってしまった。
ふぅ…
あたしは、何を出し物にしようかとネタ帳をジャケットのポケットから出してみた。
相方の小山節生(せつお)は妻帯者で、奥さんは絵描きだと聞いている。
青山で個展を開いたりして、そこそこ有名な方らしいが、あたしは会ったこともないし、彼女の作品に触れたこともなかった。
節生がこのまま狭心症だかなんだかで芸人を続けられないとなると、あたしはギター漫談で食べていかなければならないのだろうか?
開演は十八時だったのでまだ時間はある。
あたしは、和昭(かずあき)に電話してみた。
「あ、あたし。今いい?」
「なおちゃん?今日はオフなのかい?」
「夜なのよ。仕事は」
「そっか。なんだよ、今頃」
「あそばない?」
「これから?」
「だめ?」
「いいけど…」
「だれかと一緒なの?」
「まぁ」
あの子か…あたしは心当たりがあった。
「じゃ、その子と終わってから電話して」
「ごめんね」
あたしは、和昭が誰と寝ようが構わなかった。
ただ、ずっとあたしのことを忘れないでほしかった。
あたしが寂しい時にだけ抱いてくれればそれでいい。
和昭を縛ることはしたくない。
古い食パンでフレンチトーストなんぞを作って、ぱくついているとテーブルの上のケータイが震えた。
和昭からだろう。
「もしもし…」
「なおちゃん、今からそっちに行くよ」
「そう…じゃ、気をつけて」
あたしは、食べ終えると、食器を流しに出して、シャワーを浴びることにした。
時計を見ると、もうすぐ午後二時になる。
愛用のギターがソファと壁のすき間に立てかけてある。
あたしは、汚れた下着をポイポイ洗濯機に放り込んで、素っ裸になって、風呂場に消えた。
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