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それは愛と言えるのか?
青々とした野菜がみずみずしい葉を伸ばして元気いっぱいです。
丁寧に手入れされた実が実っております。
「まあ、素晴らしい実りですわ」
私は感動してしまいました。
「これは近年発見された農法を取り入れた畑であります。最初はどうかと思っていたのでありますが、殊の外収穫がよいのであります」
キリム様が心なしか自慢そうな顔をなさっていました。
ええ、自慢してもよいと思いますわ。
とても素晴らしい畑です。
私はキリム様のお屋敷におります。
結婚前提でのお付き合いと申しますか──もうすでに結婚準備が両家のもと進められております。
私も婚姻後はこのお屋敷に入ることになっております。
私はこの屋敷に馴染むようにと打ち合わせもかねてまいったのでございます。
キリム様のお屋敷は陛下から賜れたものでございます。
キリム様を見つけられたとき、陛下はすぐさま高い位にキリム様をつけようとなさいましたが、キリム様がそれを不相応だと固辞なされました。
育ての親である伯父と陛下の側近の方々からの説得で、当初の予定よりは低いものの位を授けることに成功しました。
お屋敷も最初はかなり豪華なものを贈られる予定だったのだそうですが、それもやはり固辞し、紆余曲折ののちなんとか受け取らせたのが今のお屋敷だそうです。
キリム様はこのお屋敷を自分の好きなように手入れられております。
例えば──立派な厩があり、お庭が畑になっています。
「実は鶏も飼っておりまして、卵もとれますし、時にはしめて食卓に並ぶこともありますぞ」
「まあ。それはとても美味しそうですわね」
……とても実用的です。新鮮なお野菜と卵でさぞ美味しい食事ができるでしょう。
伯爵以上の高位貴族では庭師を雇うものですが、畑を手入れしている方は庭師でよろしいのでしょうか?
我が家でも同じことをしていれば食費が少しは浮いたでしょうか?
あら、はしたない。
我が家の経済難などおくびにも出してはいけませんわ。
「では、厩に案内いたします。自分が面倒見ております駿馬ですぞ」
「キリム様が戦場に連れていく馬ですのね」
騎士は馬に乗って戦いますので、よい馬というのはいわば生命線のようなものでございます。
立派な厩も騎士として馬を最上の状態にしておくのに必要なのです。
「素晴らしい心がけですわ」
私はキリム様と連れ立って厩にまいりました。
物陰から見られていたとは、露ほども知りませんでしたわ。
「違うっっ、違うんだキリム! 貴族の女性はそういうのを喜ばない! 馬を見せるのなら遠乗りとかっ!」
キリムの従兄であるドルムは膝から崩れ落ちた。
多少の不安はあったものの、令嬢の相手をキリムに一任したのは少しでも親密になってもらおうと思ったからだった。
まさか嬉々として畑や鶏小屋、まして厩に連れていくとは思いもしなかった。
「……ご心配なく。我が妹は喜んでおります……」
ローナの長兄であるクリスタンは心の中で呟いた。
自分たちはどこでローナの教育を間違ったのだろうかと。
キリムの屋敷を辞するとき、一番目のお兄様が馬車の中で呟かれました。
「……貴族の屋敷とは思えんな」
お兄様が溜息をつかれました。
なにをおっしゃるやら。
王都にこれだけ広い屋敷を構えていることがすでに高位貴族だという現れですわ。
庭の畑も籠城となれば心強い味方ですし、普段は経費の節約になります。
実利にとんだよいお屋敷だと思います。華美なだけでは生きていけませんわ。
私にも畑や馬の世話ができるでしょうか?
◆
我が家に帰ると空気が重苦しゅうございました。
二階からお姉様が睨んでおります。
「なんであんたがそこにいるのよ……」
恨みのこもった言葉でした。
「お姉様が身籠ったからですわ」
ええ、お姉様が軽率な真似をしなかったら、私はこの場にはおりませんでした。
「あんたに何が分かるのよ! あんたはさっさと婚約したのに、私はいつまでも一人で! あんな年寄りの妾にさせるため婚約者も決めなかったのよ、お父様は! なんで私ばかりがあんな苦労をしなきゃならなかったのよ!」
お父様が陛下の寵姫にとお姉様の嫁ぎ先を決めなかったのは知っております。
陛下はもう御孫様もおられる歳──年寄りは年寄りでございますね。
そこだけを見れば、お姉様はお父様の野望の犠牲のようです。
「……どうして一人にしませんでしたの?」
私が訊ねるとお姉様は息をのみました。
「お父様が嫁ぎ先を決めない──想う人と一緒になりたい、その現状から連れ出して欲しいというのならば、お相手は一人で十分なはずですわ」
お姉様が当たり前の女の幸せが欲しかったというのであれば、相手は一人でよかったはずです。
それこそ、ニグルス様と添い遂げればよろしかったのです。
「私が羨ましい。私の立場が欲しいというのであれば、ニグルス様を口説き落とせたことで達成されたはずですわ。なのに、なぜお姉様は何人もの方と関係を持たれたの? こうなることはわかっていたではありませんか。誰かと結ばれそうになれば、他の方が黙っていませんわ。お姉様は本気で誰かと添い遂げる気があったのですか?」
大勢の方に愛を囁き、不適切な関係を続けていた姉は本当に誰かを『愛して』いたのでしょうか。
「お姉様はご自分の不満を紛らわせるため恋愛遊技をなさっていただけではありませんの? 御姉様のは愛と言えまして?」
姉は奥歯を噛みしめると身を翻して部屋に駆けこんでいきました。
丁寧に手入れされた実が実っております。
「まあ、素晴らしい実りですわ」
私は感動してしまいました。
「これは近年発見された農法を取り入れた畑であります。最初はどうかと思っていたのでありますが、殊の外収穫がよいのであります」
キリム様が心なしか自慢そうな顔をなさっていました。
ええ、自慢してもよいと思いますわ。
とても素晴らしい畑です。
私はキリム様のお屋敷におります。
結婚前提でのお付き合いと申しますか──もうすでに結婚準備が両家のもと進められております。
私も婚姻後はこのお屋敷に入ることになっております。
私はこの屋敷に馴染むようにと打ち合わせもかねてまいったのでございます。
キリム様のお屋敷は陛下から賜れたものでございます。
キリム様を見つけられたとき、陛下はすぐさま高い位にキリム様をつけようとなさいましたが、キリム様がそれを不相応だと固辞なされました。
育ての親である伯父と陛下の側近の方々からの説得で、当初の予定よりは低いものの位を授けることに成功しました。
お屋敷も最初はかなり豪華なものを贈られる予定だったのだそうですが、それもやはり固辞し、紆余曲折ののちなんとか受け取らせたのが今のお屋敷だそうです。
キリム様はこのお屋敷を自分の好きなように手入れられております。
例えば──立派な厩があり、お庭が畑になっています。
「実は鶏も飼っておりまして、卵もとれますし、時にはしめて食卓に並ぶこともありますぞ」
「まあ。それはとても美味しそうですわね」
……とても実用的です。新鮮なお野菜と卵でさぞ美味しい食事ができるでしょう。
伯爵以上の高位貴族では庭師を雇うものですが、畑を手入れしている方は庭師でよろしいのでしょうか?
我が家でも同じことをしていれば食費が少しは浮いたでしょうか?
あら、はしたない。
我が家の経済難などおくびにも出してはいけませんわ。
「では、厩に案内いたします。自分が面倒見ております駿馬ですぞ」
「キリム様が戦場に連れていく馬ですのね」
騎士は馬に乗って戦いますので、よい馬というのはいわば生命線のようなものでございます。
立派な厩も騎士として馬を最上の状態にしておくのに必要なのです。
「素晴らしい心がけですわ」
私はキリム様と連れ立って厩にまいりました。
物陰から見られていたとは、露ほども知りませんでしたわ。
「違うっっ、違うんだキリム! 貴族の女性はそういうのを喜ばない! 馬を見せるのなら遠乗りとかっ!」
キリムの従兄であるドルムは膝から崩れ落ちた。
多少の不安はあったものの、令嬢の相手をキリムに一任したのは少しでも親密になってもらおうと思ったからだった。
まさか嬉々として畑や鶏小屋、まして厩に連れていくとは思いもしなかった。
「……ご心配なく。我が妹は喜んでおります……」
ローナの長兄であるクリスタンは心の中で呟いた。
自分たちはどこでローナの教育を間違ったのだろうかと。
キリムの屋敷を辞するとき、一番目のお兄様が馬車の中で呟かれました。
「……貴族の屋敷とは思えんな」
お兄様が溜息をつかれました。
なにをおっしゃるやら。
王都にこれだけ広い屋敷を構えていることがすでに高位貴族だという現れですわ。
庭の畑も籠城となれば心強い味方ですし、普段は経費の節約になります。
実利にとんだよいお屋敷だと思います。華美なだけでは生きていけませんわ。
私にも畑や馬の世話ができるでしょうか?
◆
我が家に帰ると空気が重苦しゅうございました。
二階からお姉様が睨んでおります。
「なんであんたがそこにいるのよ……」
恨みのこもった言葉でした。
「お姉様が身籠ったからですわ」
ええ、お姉様が軽率な真似をしなかったら、私はこの場にはおりませんでした。
「あんたに何が分かるのよ! あんたはさっさと婚約したのに、私はいつまでも一人で! あんな年寄りの妾にさせるため婚約者も決めなかったのよ、お父様は! なんで私ばかりがあんな苦労をしなきゃならなかったのよ!」
お父様が陛下の寵姫にとお姉様の嫁ぎ先を決めなかったのは知っております。
陛下はもう御孫様もおられる歳──年寄りは年寄りでございますね。
そこだけを見れば、お姉様はお父様の野望の犠牲のようです。
「……どうして一人にしませんでしたの?」
私が訊ねるとお姉様は息をのみました。
「お父様が嫁ぎ先を決めない──想う人と一緒になりたい、その現状から連れ出して欲しいというのならば、お相手は一人で十分なはずですわ」
お姉様が当たり前の女の幸せが欲しかったというのであれば、相手は一人でよかったはずです。
それこそ、ニグルス様と添い遂げればよろしかったのです。
「私が羨ましい。私の立場が欲しいというのであれば、ニグルス様を口説き落とせたことで達成されたはずですわ。なのに、なぜお姉様は何人もの方と関係を持たれたの? こうなることはわかっていたではありませんか。誰かと結ばれそうになれば、他の方が黙っていませんわ。お姉様は本気で誰かと添い遂げる気があったのですか?」
大勢の方に愛を囁き、不適切な関係を続けていた姉は本当に誰かを『愛して』いたのでしょうか。
「お姉様はご自分の不満を紛らわせるため恋愛遊技をなさっていただけではありませんの? 御姉様のは愛と言えまして?」
姉は奥歯を噛みしめると身を翻して部屋に駆けこんでいきました。
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