刃愛

のどか

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シェードカオン

答えの行方

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 曇天からいつ白いものが落ちてきても不思議ではなかった。息が白く凍りつく。雪で白く染められた世界に黒い葬送の列は目立つだろう。白く冷えて静まり返った空気を鐘の音がふるわせる。手向けの花が捧げられる死者が寂しくないようにと。
 ギルバート・マドゥの葬儀のやり直しとエレオノーラ・マドゥの葬儀が行われていた。ただ、以前とは違い警備が物々しくなっている。武器こそは見せていなかったが、玄人ならば武器を仕込んでいることが一目でわかる。警備員はライトシールド発生器をつけ、設置型のシールドがそこここにある。万が一のときの備えだろう。
 寒さに着膨れた参列者は落ちつきなく辺りを見回す。彼らの関心はもっぱら正式にアルフレッド・マドゥの息子であると通達されたクロスだった。二人を手にかけたはずのクロスは堂々とスワロウを連れて家族の末席にいる。
 一番父親に似た面差しの立ち姿はまるで王者のよう。クロスもその傍らに佇む護衛らしき男も明らかに前回と同じように武装していたが、誰も口出しできなかった。
 黒い長髪の男──スワロウの腕は前に見た。クロスの援護があったとはいえ、襲撃者をほぼ一人で排除した腕前はそれなりに腕に覚えのあるものでも寒気がするほどだった。護衛として傍らに置くのも無理はないだろうと。
 だが、今回は前回のときのような襲撃がないことは全員が確信している。敵に手を貸したエレオノーラが死んだからだ。公にはグリードが裏切ったということにされているが、グリードがエレオノーラを裏切ることはあり得ないと皆知っている。グリードの後ろにエレオノーラがいたことは確実だった。わかっていながら口をつぐんだ。
 エレオノーラはギルバートと並んで埋葬される。生きていればクロスが家族の席に並ぶのを許しはしなかっただろう。
 妻と息子を失ったアルフレッド・マドゥは数日の間に老け込んだように見える。
 長男のエドワードからはなんの感情も窺えない。まるで義務のように参列している。
 ときおり警備の責任者でもあるロッドがクロスに駆け寄り耳打ちしている。責任者はロッドということになっているが警備にはクロスの案が多く取り入れられ、『グランティア』も警備に貸し出されている。式の最中にも逐一クロスに報告が届く。その姿はロッドがクロスの下についたという感がある。
 二大武闘派組織『サザンクロス』と『グランティア』を手中に収め、幹部であるロッドが下についたとなればクロス・ノーマンのコネクション内部での比重も上がろうというものだ。排斥しようとしていたエレオノーラが消えたとなればなおさらに。
 苦々しい思いでクロスを見るものの中にはガランスもいた。あのときの通信記録はクロスが入手した。裏切り行為と言われても仕方のないものだ。クロスはそれを握りつぶした。度重なる幹部の裏切りはコネクションの根底を揺さぶりかねないという理由で。助けられたとは思わない。むしろ首根っこを捕まえられた。クロスが事を公にすれば今度は皆迷わず引き金を引くだろう。だからガランスはクロスに強く出られなくなってしまった。
 三番目の異母兄にあたるアレクサンダーと義姉にあたるエリシアも気になるのかときおり視線を投げかけてはよそを向く。
 もともと荒事には向かないとされるアレクサンダーと、これから細腕でギルバートの跡を継がなければならないエリシアにとって、クロスは気になる存在なのだろう。
 参列者はそう考えていた。
 二人の視線の意味は、本人と注目されているスワロウにしかわからなかった。

 式は滞りなく終わり、参列者は足早に会場を後にする。式のあいだ居心地の悪い席にいさせられたスワロウはクロスの傍らから離れた。配偶者がいるべき場所に立たせられた理由は、関係を知るものにはあきらかだった。羞恥のあまり一刻も早く逃げ出したいと考えていたのは本人しか知らない。
 スワロウに逃げられたクロスは無理に後を追うつもりはなく、式の間控えていた紫煙をくゆらす。
 とりあえずは終わった。すぐに立ちたいところだが、明日までは待つべきだろう。
 エリシアがなにか話しかけたそうにこちらを窺っているので辺りに人がいないことを確認してから水を向けてみた。
「お嬢さんはお元気ですか?」
「ええ。今日は寒いので屋敷に残してきましたが元気です」
 エリシアの後ろ盾となったクロスはシェードカオンでのことはロッドに任せた。今後逐一クロスの元に報告が届くはずだ。クロスはシェードカオンに腰を下ろすつもりはなかった。あくまでコードジュエルがクロスの本拠地であり常に最前線に立つつもりだ。
 今後の組織の運営について不安があれば、じかに相談できるのは今のうちだけだ。だから──そうなのだろうと思い込んでいた。
「あの方は?」
「あの方?」
「髪の長い──あなたの恋人の──」
「──ああ、スワロウなら業務連絡に行きました」
 エリシアの表情はベールで見えないが、心なしか嬉しそうだった。
「うらやましいですわ」
「なにが?」
「あなたとあの方、愛し合っておられるのでしょう?」
 クロスの口元から煙草が落ちた。
「わたしは──まわりに薦められるままに結婚し、あの人を愛していたのかどうかすら自信がありませんわ。これから先も本当に愛し合える人がいるのかも。でもあなたはあの人がいますわ。わたし、あの方に聞いたことがありますの。愛し合っておられるんですかって。答えていただけられませんでしたけど、聞くまでもありませんでしたのね」
 クロスは配偶者の席にスワロウを立たせた。それはあきらかな意思表示だ。
「お幸せに」
 それだけが言いたかったのかエリシアは小走りに立ち去った。
 それから数年後、エリシアは新たな配偶者を得るのだが、それはまた別の話である。

 葬式が終わり、ある者は少しばかりシェードカオンの繁栄を楽しみ、ある者は用は済んだとばかりに足早にシェードカオンを後にする。『サザンクロス』は早めに立つほうだった。
 専用機はすでにアイドリングの状態だ。巻き起こる風に髪がなびく。スワロウは顔にかかる髪を押さえつけた。
「──────たそうだな?」
「なんだ?」
 エンジン音でクロスの問いを聞き逃したスワロウはタラップを上がりながら聞きなおした。
「エリシアに愛し合っているのかと、聞かれたそうだな?」
「────!」
 スワロウは絶句した。
「答えはなんだ?」
 その瞬間、スワロウは目を見張り首筋まで赤くなった。答えずに踵をかえして機内に走りこむ。
 その様子があまりにも可愛かったので、クロスはその答えをどうしてもスワロウに言わせたくなった。
 そしてコードジュエルにつくまでの間に口にさせた。専用機の寝室が防音になっていたのが勝因である。

「おっかえりー! お土産は?」
 満面の笑みで出迎えるリッパーに、なぜか疲れきった様子のスワロウが答えた。
「送ったろうが。先についているはずだぞ」
 シェードカオンで買った土産は一足先に輸送されているはずであった。
「お約束ってことで。なに、お疲れだね~。そんなに神経すり減らしてたんだ~」
「いや、そういうわけじゃないが……」
 シェードカオンよりもその道中に疲れさせられたのだが、とても口にはできなかった。
「あ、ボス~、お帰り~。頼まれてたこと、やっといたよ~」
 クロスを見つけたリッパーがぶんぶんと手を振った。
「ご苦労」
「なにを頼んだんだ」
 スワロウはなにも聞いていなかったが、何かを依頼したらしい。
「いくぞ」
 クロスが強引にスワロウの腕をひいた。つんのめりながらもなんとか転ばずについて行く。
「引っ張るなよ。どこへ行くんだよ」
「あ、スワロー、荷物、新しい部屋に運んでおいたからね~」
「新しい部屋! 聞いてねえぞ、俺は!」
「ボスに頼まれてリフォームしといたの~。言われたとおり、ボスの部屋と続き部屋に改造しといたから。部屋の間に扉はあるけど、鍵はないからね」
 同室を嫌がるスワロウのために、隣の部屋とクロスの部屋を続き部屋に改造したらしい。シェードカオンにいる間に勝手に引越しさせられていたらしい。
「言えば嫌がるだろうが」
「あんたって人は!」
 天下無敵の事後承諾である。スワロウの怒号が響いた。
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みんなの感想(2件)

デューク・エンド

ご冥福をお祈りします

解除
結城藍人
2017.01.27 結城藍人

誤字報告です。
>たとえ死を痛むものがいようと → 悼む
>行幸でした。 → 僥倖

2017.01.27 のどか

誤字報告ありがとうございました。
修正いたしました。お礼申し上げます。

解除

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