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2.5章〜素直になれない〜
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教室に入るなり、万葉は大声を上げた。
「氷川!」
万葉は氷川の襟首を掴み上げ、無理矢理立ち上がらせる。
「お前、ちょっとこっちに来い!」
万葉は氷川を人気のない空き教室に連れていった。窓際の壁に背中をもたせかけ、隣り合って腰掛ける。
「……秘密にしろって言ったのに」
万葉がぽつりと呟いた。一方の氷川は飄々とした表情で紙パックのジュースをストローで吸い上げている。
「良く俺だって分かったな」
「分かるわ! お前にしか話してねえんだよ!」
万葉はジロリと氷川を睨みつける。
「よりによって何で兄貴なんかに話すんだよ。オレ、兄貴とはあんま仲良くないんだって言っただろ?」
「でも、そんな悪い人には思えなかったけど」
「そういう問題じゃないんだよ!」
万葉は苛立たしげに頭を掻きむしり、大きくため息を吐いた。
「で、どうだったんだ? お兄さんは何て言ってた?」
「…………応援するって言ってくれた」
「良かったな」
「良くねえよ!」
千尋が自分の趣味を受け入れてくれた喜びからついテンションが上がってしまい、万葉はオタク特有の早口で類の布教をしてしまったのだ。
しかも、嬉し過ぎて眠れなかったせいで昨晩のテンションを引きずってしまい、今朝もがっつりと布教活動を行ってしまった。
通学途中にようやく我に返った万葉は現在絶賛後悔中だった。
ドン引きされてたらどうしよう……。
万葉は頭を抱えたい気分だった。実際、抱えていた。
「お前、もしかしてわざと兄貴にオレのこと話したんじゃないだろうな」
「……」
「おい、やっぱりそうなのかよ!」
千尋は「自分から無理矢理聞き出した」と言っていたけれど、万葉はそのことには懐疑的だった。
人見知りの兄がわざわざ弟の友達に話しかけるとは思えない。予想通り、あれは兄の嘘だったらしい。
「何てことしてくれてんだよ、お前……マジで最悪なんだけど……」
「結果として嫌われてないんだから良いだろ」
「だから良くねえっつってんだろ! 人の話を聞け!」
万葉は氷川からパックのジュースを奪い取ると、氷川が取り返そうと手を伸ばしてくるのを上手く避けながら、背中にジュースを隠した。
「氷川、考えてみろよ。大して仲良くもない家族がお前の性癖を知ってたらどう思う? 恥以外の何物でもないだろ」
「俺は普通に家族と仲が良い」
「問題はそこじゃないっての。とにかく、家族に自分の好きなタイプとか知られてるのって単純にどうなんだよ。嫌じゃないのか?」
「……いやあ?」
氷川は不思議そうに首を傾げた。
「うちはそういうの気にしない方だな。普通にそういう話とかするし、この間なんか姉ちゃんの彼氏が普通に晩ご飯食べに来てたし」
「嘘だろ!?」
「マジ。俺なんか、『早く彼女を家に連れてこい』って母ちゃんにせっつかれた」
「お前彼女いんの?」
「いや、いない。好きな奴はいるけど」
「へぇ、誰だよそれ。うちのクラス?……って、違う。そうじゃない!」
氷川の恋愛観に話題が移りそうになり、万葉は慌ててぶんぶんと首を横に振った。
「……話す相手間違えたのかも」
「俺はお前に打ち明けられて嬉しかったけどな」
「うるせえ。お前になんか正直に言わなきゃ良かった!」
「そう拗ねるなって。悪かったよ。今度ジュース奢ってやるから許せ」
万葉は頬を膨らませる。
「絶対にやだ。ジュースだけじゃ足んねえ。菓子パンも奢れ」
「分かったよ。ジュースと菓子パンな」
「あと学校帰りにアイスもな」
「はいはい。ワガママ王子の仰せのままに」
王子などといった高貴な身分になったつもりはないが、奢ってもらう約束をして満足をした万葉はひとまず氷川を許してやることにした。
氷川は万葉の肩をポンと気安く叩く。
「そうだ。この間の返事をしても良いか?」
「返事?」
氷川は万葉に体を近づけた。眼前に氷川の顔が迫り、万葉は思わず仰け反った。
な、なんか距離近くない?
「俺にこの前言っただろ。『オレのこの感情はおかしいのか』って。あの時は上手く返事できなかったからお前を不安にさせたかもしれない。でもしばらく考えて答えが出たんだ。だから聞いてくれるか」
「お、おう」
氷川は神妙に口を開く。
「万葉。俺はお前のことが_____」
氷川は万葉の背中に手を伸ばした。万葉の腰元に置かれていたジュースを取り返し、ストローを口に咥える。
「_____お前のことが心配なんだ」
「……心配?」
「俺はお前が男を好きになろうと気にしちゃいないが、変な奴に騙されてるんじゃないかって思ってさ。お兄さんに相談したのはそのためだ。お前に何も言わなかったのは本当に悪かった。ごめんな」
「氷川……」
ジュースを最後まで飲みきり、氷川は丁寧に紙パックを折り畳む。
「さて、教室に戻るか」
氷川は立ち上がり、教室を出ていこうとする。その背中に万葉は呼びかけた。
「氷川。お前のこと誤解してたよ。オレ、お前が嫌がらせで兄貴に話したと思ってたんだ。そんなに真剣に俺のこと考えてくれてたなんて気が付かなかった」
「言っておくけど、お前の恋を手放しで応援はできないからな」
「良いよ。オレだっておかしいって分かってんだ。でもオレの好きな人を誤解だけはしないでほしい。本当に良い人なんだ。お前にもそのことを知ってほしい」
万葉がスマホを掲げると、扉に手をかけていた氷川が振り返った。スマホの画面には、動画投稿サイトのロゴが映っている。
「今から?」
「おう」
「授業始まるぞ」
「ちょっとくらい問題ないって。授業をサボって学校の片隅で好きなことをする。こういうのって青春っぽいと思わね?」
「お前の青春に俺を巻き込むな。つーか、学校でスマホ弄るの、禁止だからな」
「お前が言わなきゃバレねえよ。ほら、ここ座れ、ここ」
万葉は地面をばしばしと手で叩く。
「はいはい」
氷川は呆れ混じりの笑みを浮かべ、万葉の隣に座り直した。
教室の外で友達がこっそり二人の様子を見ていたことを、そのやり取りが告白だと勘違いされていたことを、この時の二人は知る由もなかった。
「氷川!」
万葉は氷川の襟首を掴み上げ、無理矢理立ち上がらせる。
「お前、ちょっとこっちに来い!」
万葉は氷川を人気のない空き教室に連れていった。窓際の壁に背中をもたせかけ、隣り合って腰掛ける。
「……秘密にしろって言ったのに」
万葉がぽつりと呟いた。一方の氷川は飄々とした表情で紙パックのジュースをストローで吸い上げている。
「良く俺だって分かったな」
「分かるわ! お前にしか話してねえんだよ!」
万葉はジロリと氷川を睨みつける。
「よりによって何で兄貴なんかに話すんだよ。オレ、兄貴とはあんま仲良くないんだって言っただろ?」
「でも、そんな悪い人には思えなかったけど」
「そういう問題じゃないんだよ!」
万葉は苛立たしげに頭を掻きむしり、大きくため息を吐いた。
「で、どうだったんだ? お兄さんは何て言ってた?」
「…………応援するって言ってくれた」
「良かったな」
「良くねえよ!」
千尋が自分の趣味を受け入れてくれた喜びからついテンションが上がってしまい、万葉はオタク特有の早口で類の布教をしてしまったのだ。
しかも、嬉し過ぎて眠れなかったせいで昨晩のテンションを引きずってしまい、今朝もがっつりと布教活動を行ってしまった。
通学途中にようやく我に返った万葉は現在絶賛後悔中だった。
ドン引きされてたらどうしよう……。
万葉は頭を抱えたい気分だった。実際、抱えていた。
「お前、もしかしてわざと兄貴にオレのこと話したんじゃないだろうな」
「……」
「おい、やっぱりそうなのかよ!」
千尋は「自分から無理矢理聞き出した」と言っていたけれど、万葉はそのことには懐疑的だった。
人見知りの兄がわざわざ弟の友達に話しかけるとは思えない。予想通り、あれは兄の嘘だったらしい。
「何てことしてくれてんだよ、お前……マジで最悪なんだけど……」
「結果として嫌われてないんだから良いだろ」
「だから良くねえっつってんだろ! 人の話を聞け!」
万葉は氷川からパックのジュースを奪い取ると、氷川が取り返そうと手を伸ばしてくるのを上手く避けながら、背中にジュースを隠した。
「氷川、考えてみろよ。大して仲良くもない家族がお前の性癖を知ってたらどう思う? 恥以外の何物でもないだろ」
「俺は普通に家族と仲が良い」
「問題はそこじゃないっての。とにかく、家族に自分の好きなタイプとか知られてるのって単純にどうなんだよ。嫌じゃないのか?」
「……いやあ?」
氷川は不思議そうに首を傾げた。
「うちはそういうの気にしない方だな。普通にそういう話とかするし、この間なんか姉ちゃんの彼氏が普通に晩ご飯食べに来てたし」
「嘘だろ!?」
「マジ。俺なんか、『早く彼女を家に連れてこい』って母ちゃんにせっつかれた」
「お前彼女いんの?」
「いや、いない。好きな奴はいるけど」
「へぇ、誰だよそれ。うちのクラス?……って、違う。そうじゃない!」
氷川の恋愛観に話題が移りそうになり、万葉は慌ててぶんぶんと首を横に振った。
「……話す相手間違えたのかも」
「俺はお前に打ち明けられて嬉しかったけどな」
「うるせえ。お前になんか正直に言わなきゃ良かった!」
「そう拗ねるなって。悪かったよ。今度ジュース奢ってやるから許せ」
万葉は頬を膨らませる。
「絶対にやだ。ジュースだけじゃ足んねえ。菓子パンも奢れ」
「分かったよ。ジュースと菓子パンな」
「あと学校帰りにアイスもな」
「はいはい。ワガママ王子の仰せのままに」
王子などといった高貴な身分になったつもりはないが、奢ってもらう約束をして満足をした万葉はひとまず氷川を許してやることにした。
氷川は万葉の肩をポンと気安く叩く。
「そうだ。この間の返事をしても良いか?」
「返事?」
氷川は万葉に体を近づけた。眼前に氷川の顔が迫り、万葉は思わず仰け反った。
な、なんか距離近くない?
「俺にこの前言っただろ。『オレのこの感情はおかしいのか』って。あの時は上手く返事できなかったからお前を不安にさせたかもしれない。でもしばらく考えて答えが出たんだ。だから聞いてくれるか」
「お、おう」
氷川は神妙に口を開く。
「万葉。俺はお前のことが_____」
氷川は万葉の背中に手を伸ばした。万葉の腰元に置かれていたジュースを取り返し、ストローを口に咥える。
「_____お前のことが心配なんだ」
「……心配?」
「俺はお前が男を好きになろうと気にしちゃいないが、変な奴に騙されてるんじゃないかって思ってさ。お兄さんに相談したのはそのためだ。お前に何も言わなかったのは本当に悪かった。ごめんな」
「氷川……」
ジュースを最後まで飲みきり、氷川は丁寧に紙パックを折り畳む。
「さて、教室に戻るか」
氷川は立ち上がり、教室を出ていこうとする。その背中に万葉は呼びかけた。
「氷川。お前のこと誤解してたよ。オレ、お前が嫌がらせで兄貴に話したと思ってたんだ。そんなに真剣に俺のこと考えてくれてたなんて気が付かなかった」
「言っておくけど、お前の恋を手放しで応援はできないからな」
「良いよ。オレだっておかしいって分かってんだ。でもオレの好きな人を誤解だけはしないでほしい。本当に良い人なんだ。お前にもそのことを知ってほしい」
万葉がスマホを掲げると、扉に手をかけていた氷川が振り返った。スマホの画面には、動画投稿サイトのロゴが映っている。
「今から?」
「おう」
「授業始まるぞ」
「ちょっとくらい問題ないって。授業をサボって学校の片隅で好きなことをする。こういうのって青春っぽいと思わね?」
「お前の青春に俺を巻き込むな。つーか、学校でスマホ弄るの、禁止だからな」
「お前が言わなきゃバレねえよ。ほら、ここ座れ、ここ」
万葉は地面をばしばしと手で叩く。
「はいはい」
氷川は呆れ混じりの笑みを浮かべ、万葉の隣に座り直した。
教室の外で友達がこっそり二人の様子を見ていたことを、そのやり取りが告白だと勘違いされていたことを、この時の二人は知る由もなかった。
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